
宮崎 祥一 | Shoichi Miyazaki
Honeywell、Experian、Teradata、SAS Instituteなどで、20年以上にわたりBtoB営業とビジネス開発を支援。
アナリティクス分野を軸に、製造、通信、医療、流通など幅広い業界で業務改善に携わる。
現在は、ビジネス開発コンサルタントとして活動し、株式会社アルファブランディングの代表を務める。

今日の論点
経営計画から逆算する提案戦略とは!?
BtoB営業の現場では、製品の機能や導入実績を丁寧に説明しても、商談が進まず、社内稟議で止まり、最後は価格競争に巻き込まれるという場面が少なくありません。
これは、営業側の努力不足ではなく、提案の設計段階で「何を起点に話を構築するか」を誤っていることに起因する問題です。
本記事では、そうした課題を根本から見直す手法として、「経営計画から逆算する提案戦略」を紹介します。
IR情報や中期経営計画をもとに、経営者の意思決定と整合性のあるストーリーを構築することで、検討が進み、稟議が通り、価格ではなく価値で選ばれる提案を目指します。
この戦略は、私自身が外資系企業に在籍していた際に体得し、体系化したものです。
現在は、この考え方をドキュメント化した提案支援フレーム「ケースシナリオ™」と、営業現場に定着させるためのトレーニングプログラム「リバースアカウント™」として提供しています。
営業活動を「案件対応」から「戦略推進」へと進化させたい方にとって、本記事がヒントとなれば幸いです。
目次
1-1. APSと現場の断絶
1-2. 属人的ノウハウが共有されない構造
2. 経営計画から逆算する提案戦略とは
2-1. IR・中計を読み解く三つの視点
2-2. ゴールを遠くに置く差別化ロジック
2-3. 東京-大阪メタファーで理解する提案の幅
3. 三つの営業ハードルと逆算戦略による突破法
3-1. 検討が始まらない - 提案先誤認と自分ごと化不足
3-2. 社内稟議が止まる - 合議制時代の意思決定構造
3-3. 価格競争に陥る - 課題ベース提案の限界
4. 日本企業(3月決算)の営業カレンダー
4-1. 年間行動リズム早見表
5. ケースシナリオ™ & リバースアカウント™
5-1. ケースシナリオ™ - ストーリーフレームの構成と活用シーン
5-2. リバースアカウント™ - 現場定着を支援する三段階プロセス
6. 開発ストーリーと再現性
6-1. トップ営業ウーマンのアカウントプラン活用法
6-2. 新製品3種を年度内契約した独自ストーリー
6-3. フレーム化に至る体系化プロセス
7. まとめ
7-1. まとめ - 経営計画から逆算する提案戦略
1. アカウントプランはなぜ形骸化するのか
1-1. APSと現場の断絶
多くのBtoB企業では、年初のキックオフミーティングにおいて、「アカウントプランニングセッション(APS:Account Planning Session)」と呼ばれる場が設けられます。
ここでは、売上構成比の高い既存顧客や重点アカウントに対し、誰が・いつ・どのようなタイミングで提案活動を行うのかを整理し、チーム内で共有します。営業活動の指針となる資料として、アカウントプランは一定の効果を期待されているものです。
しかし現場では、このプランがその後ほとんど使われないまま放置されることが少なくありません。形式的に共有されたはずの資料は、数カ月後には開かれることもなくなり、営業担当者自身も「使っても意味がない」と感じてしまう。多くの企業で、アカウントプランが「作ることが目的化」してしまっているのが実情です。
背景には、「アカウントプランに書かれたことが実際の提案活動に結びついていない」ことがあります。
なぜなら、記入されたプランの多くは過去実績の延長線上にある目標や施策にとどまっており、顧客企業の変化や経営方針、組織改編などの「前提条件の変化」が反映されていないためです。
つまり、APSセッションが描いた「地図」が、すでに現実の「地形」とズレてしまっているのです。
また、営業マネージャーにとっても、アカウントプランはレビューや報告のための資料として扱われがちであり、プラン自体が成果につながる「実行ツール」になっていないことも見過ごせない問題です。
このような形骸化を乗り越えるには、プランを「計画書」ではなく、「今の顧客を読み解く思考のツール」として再定義する視点が必要です。
このように、アカウントプランが形骸化する背景には、組織全体で共通の戦略思考が共有されていないという構造的な課題があります。
次節では、その構造のもう一つの側面──属人的ノウハウがなぜ共有されず、再現されないのかについて掘り下げていきます。
1-2. 属人的ノウハウが共有されない構造
営業組織の中には、目を見張るような成果を継続的に出すトップパフォーマーが存在します。彼ら・彼女らはアカウントプランを単なる年初の提出物で終わらせず、継続的に更新・活用しながら提案活動の中核に据えているという点で、他の営業とは明確に異なります。
しかしながら、そうした成功パターンが組織全体に共有されることはほとんどありません。理由はシンプルで、ノウハウの性質があまりにも属人的で、他者に転用しづらいからです。
トップ営業は、自分の感覚や思考プロセスに基づいてアカウントを動かしています。
たとえば、IR情報や経営トップの発言内容から「今この企業が注力している本当の狙いは何か?」を読み解き、それを出発点に提案の切り口を設計していく。こうした行動は、明文化されていない「暗黙知」に支えられているため、他のメンバーにとっては再現が難しいのです。
さらに、実績のある営業担当者にとっては、そのノウハウをわざわざ共有するメリットが少ないという現実もあります。共有すれば自分の差別化要因が失われるだけで、インセンティブ構造としても報われないケースが多いためです。
このようにして、営業部門内には「属人的な成功ノウハウがブラックボックス化し、再現性のある手法として昇華されない」構造が生まれます。
その結果、アカウントプランという「型」はあるものの、中身に深みがなく、提案活動と連動しない「空の器」となってしまうのです。
この属人化の壁を越えるには、優れた営業の思考プロセスを分解・抽出し、誰もが使える共通フレームに落とし込むことが必要です。
それが次に紹介する「経営計画から逆算する提案戦略」であり、そこから生まれたのがケースシナリオ™とリバースアカウント™です。
2. 経営計画から逆算する提案戦略とは
2-1. IR・中計を読み解く三つの視点
経営計画から逆算する提案戦略の出発点は、顧客企業が公表しているIR情報や中期経営計画(中計)を読み解くことにあります。
これらは、単なる情報の羅列ではなく、「経営がどこへ向かおうとしているか」を可視化した意思表示です。営業にとっては、単なる背景資料ではなく、提案の起点となるべきものです。
とはいえ、IR資料はページ数も多く、記載されている内容は抽象度が高いものも多いため、「どこをどう読めばいいのか分からない」と感じる方も少なくありません。そこで、実際の営業提案に活用するために必要な三つの視点をご紹介します。
【視点1】経営の「変えたいこと」を探す
中計の核心は、「現状の何を変えたいのか」という課題認識にあります。事業のポートフォリオを見直すのか、業務効率を高めるのか、あるいは組織風土を変えるのか、どこに「変化への意志」が込められているかを読み取ることが出発点です。
表現としては、「重点戦略」「重点投資領域」「強化すべき能力」といった見出しで記載されていることが多く、ここを正しく読み解けば、「経営として今、本当にやりたいこと」が浮かび上がります。
【視点2】KPIと非財務目標に注目する
営業が提案に使いやすいのは、数値目標です。たとえば「3年で売上1.5倍」「営業利益率10%以上」などのKPIは、それを達成するために必要な活動を逆算しやすいため、導入目的や投資判断の正当化に使える論拠になります。
また最近では、ESGや人材開発、サステナビリティといった非財務領域の目標も増えています。これらは一見営業とは関係ないように見えて、「新たな提案の切り口」として非常に有効です。たとえば「人的資本経営」や「女性管理職比率の向上」といった目標から、教育系ソリューションや人材配置支援のニーズを見出すことが可能です。
【視点3】経営陣の「言葉」に注目する
もう一つ重要なのが、トップメッセージや社長インタビューといった、経営者本人の言葉に触れることです。数字には出てこない「思い」や「危機感」、「今の会社をどう変えたいのか」という背景が、ここには色濃く反映されます。
特に中計冒頭の社長コメントには、組織文化やリーダーシップの方向性が表れており、これを提案のトーンに反映させることで、「うちのことを理解している」と感じてもらえる提案ストーリーが可能になります。
これら三つの視点をもとにIRや中計を読み解くことで、目の前の業務課題ではなく、経営課題から提案を構成するための土台が整います。
そのうえで、どのようにストーリーを設計し、業務へと結び付けていくか、その鍵を握るのが次節で紹介する「ゴール設定の考え方」です。
2-2. ゴールを遠くに置く差別化ロジック
BtoB営業における多くの提案は、「目の前の業務課題」に対する解決策として構築されています。たとえば、「レポート作成の時間短縮」や「データ連携の効率化」といった課題は、顧客自身が問題として自覚しており、提案の出発点として使いやすいためです。
しかしこのような課題は、顧客の業種や部門が異なっても表面的にはよく似ているため、それに対する提案内容も似通ってしまいます。その結果、差別化が難しくなり、価格や納期、サポート体制といった「補完要素」でしか競えない状態が生まれます。
このような「競争の収斂」を回避するためには、そもそもの提案の出発点、設定する「ゴール」そのものを変えることが必要です。具体的には、業務課題ではなく、経営計画などで掲げられた将来的な到達目標を起点に据えるということです。
経営が本当に実現したい姿、たとえば「グローバル標準でのガバナンス体制の確立」「データドリブン経営への移行」「全社的な人材最適配置」などに対して、現場の業務課題を「手段のひとつ」として位置づけるのです。
このように、遠いゴールから逆算して提案を設計することで、提案内容全体の構成と意図が変わります。同じツール・同じ製品を用いた提案でも、ストーリー全体が異なれば、顧客の印象も、評価軸も、価格に対する納得感もまったく変わるのです。
次節では、この「ゴール設定による提案の分岐」を視覚的に理解するために、東京–大阪の移動手段を例に、提案設計の考え方を具体的に掘り下げていきます。
2-3. 東京-大阪メタファーで理解する提案の幅
提案の差別化は、「どの課題をどう解決するか」ではなく、どこにゴールを設定するかによって決まります。この考え方をより直感的に理解するために、よく使っている比喩が「東京から大阪に行く」というメタファーです。
■ 近所のコンビニに行く提案=似通った手段しか生まれない
たとえば、「自宅から徒歩3分のコンビニに行く」と仮定しましょう。この場合、選択肢はほぼ限られています。歩いていくか、自転車で行くか。人によって多少のルートの違いはあっても、ほとんどの人が同じような手段・時間・コストで到達します。
BtoB営業でよくある「業務課題ベースの提案」は、これに近い構造です。「報告業務が非効率」「入力作業が煩雑」といった目の前の課題に対して提案を構築すると、提案の内容は自然と似通ってしまい、スペックや価格でしか差を出せない競争状態に陥ります。
■ 東京から大阪に行く提案 = 無数の戦略と選択肢がある
一方、「東京から大阪に行く」となると、話は一変します。目的地が遠くなればなるほど、手段の選択肢は一気に広がります。
飛行機、新幹線、在来線、高速バス、自家用車、レンタカー、自転車、徒歩、フェリー・・・など。
こうした移動手段の多様さは、目的地が遠いことで初めて生まれるものです。
営業提案においても、同様に「ゴールを遠くに設定する」ことで、提案の構成や手段に自由度が生まれ、競合と重ならない戦略設計が可能になるのです。
■ ゴールの「距離感」が提案の独自性を生む
このメタファーが示しているのは、「目的地の設定次第で、提案の構造が大きく変わる」ということです。目先の業務課題=近所のコンビニに向かう提案では、どうしても似た手段になり、価格やスペックの違いしか生まれない。
しかし、経営計画レベルのゴール(3年後のあるべき姿)を起点に据えた提案であれば、そこに至るストーリーも、採るべき手段も、大きく変化します。
結果として、同じツールや機能を扱っていたとしても、提案全体が「まったく違うもの」として評価されるようになるのです。
■ 「違う目的地に向かっている提案」には、違う値段がつく
仮にまったく同じ製品を使ったとしても、
- レポート作成の自動化を図る業務効率化ツール
- 全社的なマネジメントの可視化・ガバナンス強化に向けた経営基盤強化ツール
この二つは、まったく異なる位置づけと価格の正当性を持つでしょう。営業が提案において本当に差別化すべきは「機能」ではなく、「向かっているゴールの物語」なのです。
このように、目的地の「遠さ」が手段の選択肢を広げ、手段の選択肢が価格以外の競争軸を生み出す。これが、東京–大阪メタファーが示す提案設計の本質です。
次節では、このようにゴールを遠くに設定した提案が、現場の三大ハードル(検討されない/稟議が止まる/価格で負ける)をどのように突破していくかを解説します。
3. 三つの営業ハードルと逆算戦略による突破法
3-1. 検討が始まらない - 提案先誤認と自分ごと化不足
営業が直面する最初のハードルは、「提案しても検討が始まらない」という状態です。製品説明やデモに対して好意的な反応は得られているのに、その先の社内議論やプロジェクト検討に進まない。こうした停滞は、営業担当者にとって大きなストレス要因となります。
この現象の背景には、主に次の2つの問題が潜んでいます。
1. 提案先の誤認:意思決定者を見誤っている
営業は多くの場合、最初に接触できた部署や担当者に提案を行います。しかしその相手が、実際には導入の当事者ではなかったり、予算やプロジェクトの決定権限を持っていなかったりすることが少なくありません。
たとえば、製造業において品質管理システムを提案する際、品質保証部門に話を持っていくことがあります。
一見、適切な部署のように見えますが、品質保証はあくまで製品を「評価する」立場であり、現場の改善やシステム導入を実行するのは、各工場の生産管理部門です。
さらに、設備投資として予算を持っているのも現場側であることが多く、提案を通すべき本来の相手を見誤ると、いくら説明を尽くしても検討は動きません。
2. 自分ごと化できない:業務への具体的な影響が見えない
もう一つの大きな要因は、提案を受けた相手にとって「これは自分の仕事に関係がある」と感じられないことです。
営業が製品機能の説明に終始し、顧客の業務や目標に対する変化のイメージを提示できていないと、相手はそれを自分ごととして捉えることができません。
たとえ技術的に優れたツールであっても、「なぜ今、自分たちがこれに取り組む必要があるのか」が見えなければ、検討の優先順位は上がらず、会議体にも上げられないまま時間だけが過ぎていきます。
■ 解決の糸口は、「誰に・何を・なぜ届けるか」の再設計
検討が動き出さないのは、相手の問題意識が薄いからではなく、営業側がその文脈に合わせた「入口設計」ができていないからです。重要なのは、単に課題をヒアリングするのではなく、
- この会社がどこを目指しているのか
- その中で、どの部門がどの変化を担うのか
- 誰が導入判断をし、誰がその結果に責任を負うのか
といった構造を読み解き、その相手にとって意味のあるストーリーとして提案を届けることです。
つまり、相手に刺さる提案をするには、顧客の「組織構造」と「意思決定構造」を踏まえた逆算思考が不可欠なのです。
次節では、検討が動き出した後に生じる次の障壁、「社内稟議の停滞」について、構造的に解きほぐしていきます。
3-2. 社内稟議が止まる - 合議制時代の意思決定構造
提案内容に一定の納得感があり、検討も進んでいる。それにもかかわらず、最後の稟議で止まってしまう。これは多くの営業担当者にとって、もっとも悩ましい壁のひとつです。
特に高額なシステム投資や、全社に関わるような基盤系ソリューションでは、この「最後のひと押し」がなかなか効かず、案件が何ヶ月も「保留」になったままフェードアウトするということも珍しくありません。
このような事態が起きる背景には、企業における意思決定構造の変化、すなわち単独決裁から合議制への移行があります。
1. ひとりの役員では決められない時代へ
かつては、担当役員の判断ひとつで数千万円規模の投資が決裁されることも珍しくありませんでした。
しかし近年では、多くの企業がガバナンスや説明責任を重視するようになり、3,000万円を超えるような案件は、必ず複数の役員による合議を経て承認されるという構造が定着しつつあります。
たとえばある大手製薬会社では、3,000万円以上の投資は必ず役員会での全体承認が必要とされています。
つまり、提案先の役員が強く推してくれていても、最終的には他の役員も納得できる形になっていなければ、稟議が通らないのです。
2. 稟議は「個人」ではなく「組織」に通す時代
この構造が示すのは、営業が提案する際に「誰を説得するか」だけではなく、「誰にどう伝わるか」までを設計しなければならないということです。
つまり、提案先の役員が理解してくれていても、それだけでは不十分です。提案を稟議に載せる担当者(多くの場合は部門責任者や管理職)は、他の役員にも説明できる「わかりやすいサマリー」を用意しなければならないからです。
ところが、この「誰にでもわかる説明資料」を作るのは、実務上かなり難しい作業です。
稟議書をPowerPointで要約しても、読み手の関心や専門知識にばらつきがあるため、
- 内容が理解されない
- 説得力に欠ける
- 他案件と比較されて埋もれる
といったリスクが常に存在します。
3. 稟議で通すべきは「製品」ではなく「経営整合性」
このような構造を踏まえると、稟議を突破するための鍵は明確です。
営業が意識すべきは、「機能が優れているか」ではなく、経営目標との整合性があるかどうかです。
- なぜ今、この取り組みをする必要があるのか
- それは中期経営計画や経営陣の課題認識とどうつながっているのか
- その結果、どんな価値が組織にもたらされるのか
これらが論理的に説明できる形で整理されていなければ、どれだけ優れた製品であっても「タイミングではない」「他の施策を優先」といった理由で却下されてしまいます。
■ 「経営起点のストーリー」が稟議を前に進める
したがって、稟議を止めずに進めるには、個人の納得を超えて「組織での合意」が得られるようなストーリー設計が必要です。
技術や機能の説明ではなく、経営層が「これは今うちがやるべきことだ」と思えるような文脈で提案が構成されていれば、たとえ反論が出ても、反論する側にこそ論拠が求められるという構造をつくることができます。
つまり、稟議とは書類ではなく、「文脈と整合性の勝負」なのです。
次節では、仮に検討も稟議も順調に進んだとしても、最後の決め手として営業が巻き込まれがちな「価格競争の罠」について、その構造的原因を掘り下げていきます。
3-3. 価格競争に陥る - 課題ベース提案の限界
営業活動において「検討が始まり」「稟議も進んでいる」となれば、いよいよ受注が見えてきたはずなのに、最後の最後で価格競争に巻き込まれる。
それも、「他社と提案内容が似ているから、あとは価格で決めます」と言われてしまうような状況は、多くの営業担当者が直面する現実です。
価格競争は、提案の価値が正当に評価されていないから起きるのではありません。提案内容に違いがないと見なされたときに起きるのです。
この状況を生む最大の要因は、課題ベースの提案アプローチにあります。
1. ソリューションセリングの浸透と「提案の収斂」
近年、営業はプロダクトセリング(製品の説明)からソリューションセリング(課題解決提案)へと進化してきました。
その結果、顧客の課題をヒアリングし、それに合った解決策を提示するというアプローチが、業界を問わず広く定着しています。
しかし、この「課題ベースの提案」には構造的な限界があります。それは、顧客自身が把握している「顕在化した課題」は、競合も同じようにヒアリングしているということです。
つまり、出発点が同じなら、導き出される提案内容も似通ってきます。提案資料も、着目点も、期待される効果も似てくる。結果として、「手段の違い」しかない状態に陥り、あとは価格で比較されることになるのです。
2. 顧客の「埋没課題」に触れられていない
もうひとつの問題は、課題ベースのアプローチでは、顧客がまだ気づいていない「埋没課題」にはアプローチできないという点です。
顧客が気づいていないということは、当然ながらヒアリングにも出てこない。つまり、営業は「言われたことに答える」ことしかできず、結果としてどこかで聞いたような提案になってしまいます。
この状態では、差別化はほぼ不可能です。提案が同質化すれば、判断基準として価格が全面に出てくるのは自然な流れです。
3. 違う目的地を示せない限り、価格しか見られない
価格競争を回避するためには、「同じ課題に、同じような解決策を出す」という構造自体を崩す必要があります。
つまり、営業が示すべきは「どんな課題に、どう答えるか」ではなく、「どこを目指すのか(=目的地)と、なぜそれが今必要なのか(=経営文脈)」です。
同じ機能を扱っていたとしても、
- 「報告業務を効率化するツール」として提案するのか
- 「全社的な情報統制力を高め、経営判断の速度と精度を上げる仕組み」として提案するのか
で、受け手の印象も、評価軸も、許容される価格帯もまったく変わります。
■ 差別化は製品スペックではなく、提案の構造に宿る
どれだけ優れた製品でも、「課題の解決策のひとつ」として並べられるだけでは、価格でしか違いを説明できなくなります。
だからこそ、営業が競うべきは製品の特徴ではなく、提案の設計思想そのものです。
そのためには、顧客の中期経営計画やIR情報を読み解き、
- その企業がどこを目指しているのか
- そこに向かう中で、いま何を優先すべきなのか
- 自社のソリューションが、どう位置づけられるのか
を逆算して構築する。これが、価格ではなく「価値」で選ばれる提案」を実現する、唯一の道筋です。
次章では、こうした逆算型の提案を実行に移すために欠かせない「企業の意思決定スケジュール」に注目し、いつ・何を・誰に届けるべきかを時系列で整理します。
4. 日本企業(3月決算)の営業カレンダー
4-1. 年間行動リズム早見表
BtoB営業において、どれだけ優れた提案でも「タイミング」を外せば成果にはつながりません。とくに日本企業の多くは3月決算・4月始まりの年度サイクルで動いており、その意思決定リズムに合った提案活動が求められます。
以下は、典型的な日本企業の年間行動パターンと、それに応じた営業側の最適行動を月別にまとめたものです。
4月:組織の再編と混乱期
人事異動が集中し、新しい体制が動き始めたばかりの時期です。現場は落ち着いておらず、営業提案をしても受け入れられにくい状況。
▶ この時期は無理に提案をせず、挨拶や組織図の把握、関係構築に徹するのが得策です。
5月:連休明け直後の立て直し期
ゴールデンウィーク明けで業務が再開しますが、社内体制がまだ整っていない企業も多く、提案の判断材料が揃っていないことも。
▶ 新たな担当者や意思決定者を確認し、情報収集に重点を置く月と位置づけましょう。
6〜7月:情報収集と興味喚起のタイミング
業務が安定してくる時期で、情報収集や事例探しを始める企業も出てきます。展示会や業界イベントも多く開催され、ベンダーとの接点が増える時期です。
▶ 製品紹介や業界動向の提供に留め、顧客側の興味関心を探るのが有効です。
8月:お盆・夏季休暇による停滞期
社内の稟議も人がそろわず滞りがち。提案をしても動かないケースが多いため、無理に動こうとするよりも、社内での準備・戦略設計期間とするのが賢明です。
▶ この時期は、第1四半期決算の分析などに充てましょう。
9月:次年度準備の水面下開始
顧客企業の内部では、次年度計画に向けた課題整理や優先度の見直しが始まるタイミングです。
▶ この時期からは、「経営課題レベルでの提案構想」をぶつけ始めることが重要です。
10〜11月:提案の「勝負所」
企業が次年度施策を絞り込み、投資対象を確定させていく期間です。役員との面談もこの時期が最適。
▶ 営業にとっては、提案を稟議に載せるための最重要フェーズです。
12月:稟議書の最終調整と合意形成
年末に向けて組織内での調整が進む時期です。決定はされないものの、合意形成のベースが固まる局面。
▶ 担当者の「社内説明」を後押しできる資料支援が鍵を握ります。
1月:予算確定と選定のタイミング
年明けの役員会などで、次年度予算が確定します。ここで選ばれていなければ、次のチャンスは1年後。
▶ 「最後のひと押し」ではなく、前提条件としての納得形成が重要です。
2〜3月:契約・調整フェーズ
契約手続き、購買部門や法務とのやり取りなど、技術的な調整が中心になります。
▶ ここで慌てないためにも、前年10〜11月にどれだけ提案を通していたかがすべてを左右します。
このように、営業活動は「どれだけ優れた提案をするか」以上に、「いつ、誰に、どう届けるか」の設計力が問われる仕事です。
次節では、こうした行動リズムを踏まえながら、営業が「勝負すべき時期」に最大成果を出すための行動設計をさらに深掘りしていきます。
5. ケースシナリオ™ & リバースアカウント™
5-1. ケースシナリオ™ - ストーリーフレームの構成と活用シーン
前章までで述べてきたように、営業が直面する代表的なハードル、「検討が始まらない」「稟議が進まない」「価格でしか比較されない」、これらはいずれも提案の「設計」段階における構造の欠如が原因で起きています。
この課題を乗り越えるために開発されたのが、提案支援フレーム「ケースシナリオ™」です。これは単なるテンプレートやスライドの雛形ではなく、経営課題に基づいた提案ストーリーを再現性のある形で構築するためのフレームワークです。
■ ケースシナリオ™の基本構成
ケースシナリオ™は、以下のような構造でストーリーを組み立てます:
1. 経営目標の確認
中期経営計画やIR情報をもとに、その企業が向かおうとしている方向性を定義
2. 現状の阻害要因の特定
目標達成を妨げている構造的な課題を抽出(例:分断された情報、属人的判断、組織間の不整合 など)
3. 業務課題への接続
その経営課題が、具体的に現場でどのような業務課題として現れているのかを明確化
4. 導入後の未来像の提示
導入によって変化する状態(プロセス・意思決定・価値創出)をストーリー形式で可視化
5. 社内合意の論拠
他部門や経営層を説得する際に活用できる「共通言語」や整合性を事前に設計
この構成により、「提案が自分たちの課題とどう関係するのか」が理解しやすくなり、提案を「自分ごと」として受け取ってもらいやすくなります。
■ 活用されるシーンと具体的な効用
ケースシナリオ™は、以下のような状況で特に効果を発揮します:
1. 導入事例がなく、新製品の立ち上げに苦戦している場合
実績がない状態でも、経営課題と製品特性を結びつけた「未来の導入ストーリー」によって、信頼性を担保できます。
2. 提案先が明確に定まらず、検討が動きにくい場合
企業の投資判断構造に基づき、どの部門/どの役員に届けるべきかを逆算してストーリーを設計できます。
3. 稟議が止まりやすく、社内の合意形成が困難な場合
誰が読んでも理解できるストーリー形式で構成されているため、「説明する人」の負担を軽減しながら、組織内での共有・承認を促進できます。
4. 同質的な提案が乱立し、価格競争に陥っている場合
「業務課題ベース」ではなく「経営課題ベース」で構成するため、そもそもの目的地が異なり、価格では比較できない「提案の構造差」をつくることが可能です。
ケースシナリオ™は、提案活動そのものを「受注のための個人技」から、「意思決定支援のための構造的アプローチ」へと再定義するための支援フレームです。
次節では、これを営業現場に定着させるためのトレーニングプログラム「リバースアカウント™」の設計思想と実行ステップをご紹介します。
5-2. リバースアカウント™ - 現場定着を支援する三段階プロセス
優れた提案ストーリーを構築できたとしても、それが一部の営業担当者だけに属人的に運用されていては、組織全体の成果にはつながりません。
アカウントプランが「存在するだけ」になっている企業は少なくなく、戦略的に機能しているケースはむしろ例外的です。
こうした課題に対し、「経営視点から逆算して提案戦略を設計する」思考と行動の型として体系化されたのが、「リバースアカウント™」です。
これは単なるワークショップではなく、アカウントプランを組織で「使えるもの」に変えるための運用再設計プログラムであり、以下の三段階を通じて現場への定着を図ります。
第1段階|経営視点:現場からではなく経営から構想を始める
アカウントプランの多くは、現場から得た情報を積み上げて構成されています。しかし、それでは「最終的に何を実現すべきか」が曖昧なままになり、提案が単なる現場対応に留まりがちです。
リバースアカウント™では、中期経営計画やIR情報などの公開資料を出発点に、「顧客企業の経営陣が何を考え、何に責任を持っているのか」を読み解きます。現場の課題ではなく、経営の論理で提案戦略を構想する視点転換がこの段階の目的です。
第2段階|逆算設計:未来像から逆にアクションを構成する
アカウントプランを実行可能な戦略に落とし込むためには、「今できること」から組み立てるのではなく、実現すべきゴールを先に描き、そこから逆算して行動を設計する必要があります。
このプロセスでは、
- 顧客の未来像
- 投資判断の条件
- 社内での意思決定プロセス
を踏まえた上で、どの論点を動かせば経営判断が前に進むのかを明確にします。こうして、アカウントプランが「経営を動かす設計図」として機能する構造が整います。
第3段階|共通言語化:チーム全体の戦略プラットフォームへ
営業・マーケティング・プリセールス・営業企画など、顧客に関わる部門が異なる視点でバラバラに情報を持っていては、アカウント対応に一貫性が生まれません。
リバースアカウント™では、
- 経営課題
- 戦略目標
- 提案仮説
- 行動計画
といった要素を一貫した構成で整理し、誰が見ても理解・議論・引き継ぎができる「共通言語」としてのアカウントプランを再構築します。その結果、属人性に依存しない「組織として戦える状態」を実現することが可能になります。
リバースアカウント™は、「書くだけのアカウントプラン」を、顧客の意思決定を動かす戦略のプラットフォームへと変えるための実践型トレーニングです。
次章では、この思想に至るまでの背景や属人的な成功体験を、組織知へと昇華させた開発ストーリーをご紹介します。
6. 開発ストーリーと再現性
6-1. トップ営業ウーマンのアカウントプラン活用法
私が「経営計画から逆算する提案戦略」という考え方にたどり着いた原点は、かつて在籍していた外資系IT企業で出会った一人のトップ営業ウーマンの存在にあります。
彼女は米国在住で、毎年の売上目標を安定的に超過し、2億円以上の年間コミッションを獲得していたトップパフォーマーでした。マネジメント職への昇進打診を断り、現場のアカウントマネージャーとしてプレイヤーに徹する姿勢を貫いていた人物でもあります。
■ 月次で更新されるアカウントプラン
彼女の最大の特徴は、アカウントプランを「生きた戦略ツール」として活用していたことです。
多くの営業担当者にとってアカウントプランは、年初に一度作って提出する「報告用資料」にすぎません。しかし彼女の場合、アカウントプランは月次で更新されてイントラネットにアップロードされており、毎回中身が刷新されていることに驚かされました。
■ 経営視点で顧客を解像する習慣
そのアカウントプランの内容も、単なる案件リストやキーマン情報の整理ではなく、顧客企業の経営構造を分析したドキュメントに近いものでした。
- 中期経営計画やIR資料から、企業が向かおうとしている方向性を明確化
- 投資判断に影響を与える経営陣の発言や戦略テーマを収集・分析
- 経営課題を部門別にブレイクダウンし、そこから提案の論点を逆算
- 役員のキャリアや趣味、発信スタイルまで調べ上げた「人物理解」
このように、顧客企業を経営者の目線で解像することが彼女にとっては「日常業務」だったのです。
■ アカウントプランを提案戦略の中核に据える
彼女の行動から学んだ最も大きな示唆は、アカウントプランが「記入するためのもの」ではなく、提案戦略を一貫して設計し、チームで共有するための起点になるということでした。
顧客の中長期的な目標を読み解き、そこから今期・今月に何をすべきかをブレイクダウンする。それが、単なる行動計画の羅列ではない、戦略としてのアカウントプラン運用でした。
この経験が、のちに「リバースアカウント™」という実践プログラムの開発につながります。
属人的でブラックボックス化されがちな戦略設計を、誰でも実行できるプロセスに落とし込むという試みは、このトップ営業のアプローチを「誰でも再現できる構造」に変換しようとしたことから始まったのです。
次節では、私自身がこの手法を応用し、新製品群の立ち上げに挑戦した事例をご紹介します。
6-2. 新製品3種を年度内契約した独自ストーリー
「経営計画から逆算する提案戦略」が、本当に通用するのか。
この思考法を自分なりに咀嚼し、現場で実践に移したのが、私が担当した新製品群の提案活動でした。前例も導入実績もまったくない状態からスタートし、3製品すべてを年度内に契約獲得するという成果に至ったプロセスを、ここでご紹介します。
■ 社内唯一、複数の新製品すべてを受注
当時、私が所属していた外資系IT企業では、ある年、複数の先進的な新製品群が日本市場向けにリリースされました。
データ処理の並列化や、DB内部での演算処理、メモリ内でのリアルタイム分析といった、当時としては非常に先進的なアーキテクチャに基づく製品です。
現在では、これらの技術は広く一般化していますが、当時は導入事例もなく、価値を正しく伝えるのが難しい状況にありました。
こうした中で、私は従来の延長ではない切り口で提案ストーリーを構築し、年度内にすべての新製品で契約を獲得することに成功しました。
社内で同じ成果を出した営業は他におらず、「既存文脈に頼らず、顧客文脈をゼロから設計する提案手法」の有効性を、自らの手で実証した経験となりました。
■ アプローチは「製品」ではなく「戦略」
このとき私が実践したのは、製品のスペックや機能を起点に提案を組み立てるのではなく、顧客の中期経営計画から「逆算してストーリーを構成する」というアプローチでした。
以下のような構成で提案を設計していきました。
- 顧客のIR情報や中計から、向こう3年で実現したい姿を抽出
- その実現を阻んでいる構造的な制約(例:データ分断、意思決定遅延)を分析
- 各製品の特性と、構造課題との論理的な接点を見つけ出し
- 最終的に『この製品は「目の前の課題」ではなく、「未来への投資」である』と位置づけて提案
単に「使いやすくなります」「速くなります」といったメリットを並べるのではなく、「この製品を使うことが、御社の経営計画の実現にどう貢献するのか」を主張の軸に据えたのです。
■ 社内対立を避け、「独自の正解」をつくる
当時、新製品は部門ごとに扱いが異なり、マーケティング部門と営業部門との間でコンセンサスも取れていませんでした。
「どの市場に、どういう売り方で持っていくか」という戦略すら不在。部門をまたぐ議論がかみ合わず、提案が曖昧なまま失注するケースもありました。
そこで私は、製品単位の販売戦略を待つのではなく、顧客単位のストーリーを自分で構築するという手法を選びました。
製品の文脈をつくるのではなく、顧客の文脈に製品を当て込むという逆転の発想です。この発想こそが、のちに「ケースシナリオ™」として体系化される「逆算ストーリー設計」の出発点となりました。
この経験は、単なる一案件の成功にとどまらず、営業活動そのものの捉え方を変える転機となりました。属人的な工夫ではなく、誰でも使える構造として再現可能にしたい。その想いが、提案支援フレーム「ケースシナリオ™」と運用トレーニング「リバースアカウント™」の原点となったのです。
次章では、あらためてこの提案戦略がどのように整理・体系化されてきたのか、導入効果や再現性とともに総括していきます。
6-3. フレーム化に至る体系化プロセス
提案活動の現場で一定の成果を得た私は、この手法を属人的なノウハウではなく、再現可能な構造として整理すべきだと考えるようになりました。営業成果はしばしば「担当者の力量」や「タイミング」といった曖昧な要素で語られがちですが、それでは組織にノウハウが蓄積されません。
重要なのは、「なぜその提案が刺さったのか」「どうして稟議が通ったのか」を構造として言語化し、誰がやっても一定の成果が得られる「提案の型」をつくることでした。
■ 提案を構造化するという発想
従来の営業資料の多くは、業務課題やニーズに対する対応策の列挙にとどまり、経営視点との接続が曖昧でした。その結果、個別最適な提案に終始し、社内合意や経営判断に至らないという課題が浮き彫りになっていました。
そこで私は、単なる製品紹介ではなく、経営課題から逆算してストーリーを構成することを重視し始めました。
このときに生まれた設計思想を明文化し、営業チーム全体で活用可能な「型」として整理したものが、提案支援フレーム「ケースシナリオ™」です。
■ ケースシナリオ™の7章構成
ケースシナリオ™は、提案を以下の7つの章立てで構成します。これにより、顧客が「なぜこれが必要か」「導入後どうなるか」を、自然な論理の流れで理解できる構造になっています。
1. 導入の目的と概要
企業がなぜこのソリューションを検討したのか、導入背景を端的に整理。
2. 企業プロファイル
事業内容・業界ポジション・管理体制など、業務課題に直結する要素を明示。
3. 背景と業界の課題
企業が属する業界全体の課題や市場環境を示し、企業との関係性を描写。
4. 具体的な課題
業務の非効率やエラー、作業負荷といった現場レベルの問題を明確化。
5. 導入と業務改革
どのように導入し、業務プロセスがどう変化したかをステップで説明。
6. 導入後の成果と効果
業務改善、コスト削減、エラー低減など、定量・定性的成果を可視化。
7. まとめ
導入の意義と今後の展望を簡潔に記述し、提案全体の意図を締めくくる。
この構成は、読み手が順を追って理解できるよう設計されており、検討段階・稟議段階・意思決定段階のいずれにおいても効果的に機能します。
■ フレームとしての活用と価値
ケースシナリオ™は、テンプレートでもマニュアルでもありません。これは、提案を経営文脈に接続し、社内の合意形成を自然に進めるための「ストーリーフレーム」です。
このフレームを用いることで、
- 導入事例がない製品でも検討が動き出す
- 稟議が進まず止まる状況に論理的な突破口が生まれる
- 顧客にとっても、社内に説明しやすい「提案の筋道」が提供される
といった効果が得られます。
営業における課題の多くは、「提案の内容」ではなく「提案の構造」によって起きています。その構造を誰もが活用できるフレームとして提示すること、それがケースシナリオ™が目指した体系化のゴールです。
こうして、属人的な成功体験を誰でも使える構造に変換した提案支援フレーム「ケースシナリオ™」は完成しました。
最後に、本稿全体の要点を整理しながら、本手法の本質と活用の勘所を改めてまとめていきます。
7. まとめ
7-1. まとめ - 経営計画から逆算する提案戦略
営業活動を取り巻く環境は、従来とは大きく変化しています。
製品スペックの優位性だけでは差別化が難しくなり、導入事例がなければ検討すら進まない。社内稟議は複雑化し、最終的には価格でしか評価されない。そんな状況に、多くの営業が直面しています。
こうした課題に対して有効なのが、「経営計画から逆算する提案戦略」です。IR情報や中期経営計画を起点に、経営目標と業務課題をつなぎ、導入後の変化を一貫したストーリーとして構成することで、「自分ごと化」された提案が可能になります。
この考え方をもとに開発されたのが、以下の2つのアプローチです。
● ケースシナリオ™:再現可能な提案ストーリーの型
属人化しがちな提案スキルを構造化し、誰が担当しても同じ視点で提案できるようにするフレーム。
特に導入事例の少ない製品や、新たな切り口で市場を開拓したい場合に効果を発揮します。
● リバースアカウント™:アカウントプランの運用設計
アカウントプランが形だけの資料になってしまう現状を打破する思考トレーニング。
経営視点から逆算し、営業・マーケ・プリセールスが一体となって戦略を構築できる「共通言語」を生み出します。
📌 最後に:本記事のキーメッセージ
- 提案の差は、製品の違いではなく構造の違いで生まれる
- 経営課題から逆算すれば、検討が動き、稟議も進む
- ケースシナリオ™とリバースアカウント™は、その構造を誰でも使える形に変えるための実践フレームである
詳細については、下記の紹介ページをご覧ください。
📝【営業部】
上司「事例がないなら、タダで配ってでも作れってさ」
部下「役員会ですか?」
上司「そう。ところで、あの●●社の案件どう?」
部下「ダメですよ、数千万円の案件ですよ、ダダは無理です」
上司「何とかならない?」
部下「何ともなりません」
・・・ケースシナリオ™をどうぞ。(▶ Link)
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