
宮崎 祥一 / Shoichi Miyazaki
SAS Institute、Avanade、Teradataなどの外資系アナリティクス企業でビジネス開発に携わる。海外で実践されているアナリティクス実用化プロジェクト(購買行動分析、顧客接点分析、需要予測、在庫最適化)を、国内大手企業(流通、小売、飲料、食品、家電、通販)に導入。2011年に株式会社アルファブランディングを設立し、ブランド育成事業を開始。現在に至る。

今日の論点
顧客接点管理を結婚式に適用してみると
先日、結婚式の招待状をもらったのですが、パスポート風のっデザインでした。最近はオシャレですよね。私が自分の結婚式で送った招待状は、確か、えっと・・・どんなんやったかなぁ・・・思い出せませんが。
ただ、何ごとも第一印象は大切です。結婚式に招待されるゲスト側からすると、第一印象はこの招待状ですよね。
マーケティング的には「顧客接点」という表現を使ったりしますが、今回はこの顧客接点について見ていくことで、印象に残る結婚式の特徴を考えたいと思います。
既にお気づきかもしれませんが、今回の投稿は、結婚を予定している人にしか役に立ちません。結婚の予定のない方や既婚の方につきましては、またのご来店をお待ちしております。さようなら。
目次
1.1 結婚式に対するイメージギャップ
1.2 ネガティブなイメージを持つ理由
2. 顧客接点管理とはなにか?
2.1 航空会社のサービスプランニング
3. 結婚式はトータルコーディネートが大切
3.1 結婚式は招待状から始まっている
3.1.1 招待状
3.1.2 挙式
3.1.3 披露宴
3.1.4 二次会
3.1.5 引出物
4. まとめ
4.1 ゲスト目線でトータルコーディネイト
1. 主催者が持つ結婚式のイメージ

1.1 結婚式に対するイメージギャップ
「結婚式」という言葉を聞いて、思い浮かべるイメージは?
- 華やか:60%
- 憧れ:17%
- 楽しい:12%
- 楽しくない:11%
現実的な「結婚式」のイメージは?
- お金がかかる:59%
- めんどう:17%
- 疲れる:12%
- 憧れ:6%
- 楽しい:6%
これは2014年に20代・30代の女性315名を対象とした、意識調査(※)の結果です。
結婚式にに対して「華やか」「憧れ」「楽しい」など、89%の女性がポジティブなイメージを持つ一方で、いざ自分が結婚するとなると「お金がかかる」「面倒」「疲れる」など、88%の女性がネガティブなイメージを持っています。
ゲストのポジティブイメージと、主催者のネガティブイメージのギャップを、どのように埋めていくのかが、重要なポイントのひとつになってきます。
※ インターファーム社が実施した「”ウエディング”に関する意識調査アンケート」より引用
1.2 ネガティブなイメージを持つ理由
そもそも主催者は、なぜネガティブなイメージを持つのでしょうか。結婚式を挙げるにあたって、どの程度のタスクがあるのか簡単に確認してみましょう。
■ 結婚式の準備
結納や食事会、結婚式場の選定と契約、二次会の会場の決定、職場や友人への報告、ゲストのリスト作成、ドレスの選定、婚約指輪の購入、結婚指輪の購入、披露宴のプランニング、飲食メニューの選定、招待状の作成、招待状の送付、ビデオ撮影の依頼、ブーケの選定、会場装花の選定、ヘアメイクの予約、お車代やお宿代の準備、引出物の選定、新婚旅行の予約
■ ゲストへの依頼
出欠の確認、結婚式の受付、披露宴の挨拶、二次会の幹事、二次会のプランニング
■ 新居の確保
住居の選定と契約、家具の購入、電化製品の購入、生活用品の購入、引越し作業の依頼
■ 各種届出
住民票の異動、婚姻届の提出、住所変更の申請(カード・保険等)
「えっ、こんなにあるの!」と思われるのではないでしょうか。これだけのタスクが待ち構えているのであれば、ネガティブなイメージを持って当然です。
またタスクの多さにも驚かされますが、一つひとつのタスクにかかる工数も相当なものです。
最初の「結婚式の準備」に「結納や食事会」とサラッと書いていますが、ご両親のスケジュールの確認、お店の選定と予約、料理の選定、移動手段の確保、手土産の準備など、さらに細かなタスクに分けると、かなり大変な作業であることがわかります。
これらのタスクを消化しながら、ゲストの印象に残る結婚式にするためには、注力するべきポイントを絞り込まなくてはなりません。
では一体どのように絞り込むべきなのか、航空会社が行うサービスプランニングを例に考えてみましょう。
2. 顧客接点管理とはなにか?

2.1 航空会社のサービスプランニング
航空会社のサービスと言うと、キャビンアテンダントの機内サービスをイメージされる方が多いと思います。搭乗時の笑顔、手荷物収納のお手伝い、ブランケットや新聞の配布、飲み物や食事のサーブなど、目的に到着するまで快適に過ごすための一連のサービスです。
しかし、航空会社はキャビンアテンダントが提供するこれらのサービスを、航空会社として提供しているサービスの、ほんの一部分でしかない考えています。
航空会社の考えるサービスとは、予約オペレーターの対応、Webサイトのユーザビリティ、手荷物カウンターのオペレーターなど、多岐に渡っています。もちろんキャビンアテンダントのサービスもその中のひとつです。
この考え方の先駆けとなったのは、スカンジナビア航空の顧客接点管理です。1980年、スカンジナビア航空は年間3,000万ドルの赤字を計上していました。この状況を立て直すために、スウェーデンの航空会社であるリンネフリュ社から、若い30代のヤン・カールソン氏を社長として迎え入れます。着任の翌年、スカンジナビア航空は黒字に転換し、その後、飛躍的に業績を伸ばしてきました。
カールソン氏はスカンジナビア航空が提供している、全てのサービス・顧客接点を調査しました。すると乗客は「平均5人の従業員」から、それぞれ「平均15秒のサービス」を受けていることがわかりました。「5人×15秒=90秒」たった90秒で、乗客は航空会社の良し悪しを判断していたのです。この後、彼はこの90秒の質を向上させることで、飛躍的に業績を改善することに成功します。
現在では、この顧客接点管理はWebサイトやポイントカード等にまで拡張されて、各航空会社がサービス向上について、しのぎを削っているのです。
では、全ての顧客接点で最高のサービスを提供するという手法を、結婚式に当てはめてみましょう。
3. 結婚式はトータルコーディネートが大切
3.1 結婚式は招待状から始まっている
それではまず、視点をサービス提供者から顧客へ移して考えてみましょう。結婚式の場合でいうと、主催者からゲストへ視点を移して、もう一度タスクを検討することになります。
<ゲストから見た結婚式>
ゲストから見た結婚式を考える上で、便宜的に5つのフェーズに分けて考えたいと思います。
- 招待状
- 挙式
- 披露宴
- 二次会
- 引出物
それぞれのフェーズで、どのような顧客接点があるのかを見ていきましょう。
3.1.1 招待状
結婚式の最初の顧客接点が招待状です。よく第一印象が大切と言われますが結婚式も同じです。招待状の印象が良いと、その後に触れる結婚式に関する情報が、全て良い方向に過剰修正して認知されます。逆に印象が悪いと必要以上に悪い方向に修正されてしまいます。これを認知バイアスと呼びます。
この招待状の印象を高めることができれば、結婚式全体の印象を高めることができるのです。何かプレゼントを受け取ったときに、ビニール袋に入っていた場合と箱に入っていた場合では、受ける印象が異なります。箱の方が中身が高価であると、認知バイアスが働くのです。結婚式の招待状を選ぶ際には、デザイン性の高い良い素材のものを選ぶことが大切です。
3.1.2 挙式
挙式場に到着して、ゲストが最初に接するのは「受付」です。受付は新郎新婦の友人にお願いすることになると思いますが、挙式のスタートを切る大切な顧客接点です。信頼できる人物にお願いすることが大切です。
次にゲストが接するのは「挙式場」です。挙式場のスタッフ、会場のインテリアや調度品、窓から見える景色などの要素によって、印象が大きく左右されます。特に景色については、雨天の場合も想定しておく必要があります。
3.1.3 披露宴
ケーキ入刀、スピーチ、思い出のビデオなど、さまざまな顧客接点があります。結婚式場にはブライダル・コーディネーターいますので、企画や演出などについて心配することはないでしょう。
ただ、どの企画を採用するのか判断する際には、個々の企画のターゲットを明確に想定しておくことが大切です。両親に向けたものなのか、学生時代の友人に向けたものなのか、会社の同僚に向けたものなのか。ターゲットが明確になっていないと、誰の印象にも残らない、残念な企画になってしまいます。
3.1.4 二次会
フォーマルな挙式や披露宴と違って、二次会はゲストがリラックスできる顧客接点です。少しハメを外したいと思っているゲストは多いと思いますので、少しぐらい騒いでも問題のないお店を選択しましょう。また、学生時代の人気者に幹事をお願いすれば、盛り上がること間違いありません。
ただ二次会の内容については、幹事に任せるのではなく、あくまで主催者がプランニングしなければなりません。幹事に丸投げしてしまうと、費用のコントロールなど、幹事の負担も大きくなってしまいます。ゲストに楽しんでもらえる企画を、新郎新婦で考えましょう。
3.1.5 引出物
顧客接点の最後のフェーズが「引出物」です。最近はカタログギフトを選択するケースが多くなっていますが、ゲストが商品を自由に選べる半面、少し経つと何を選んだのかすら覚えておらず、印象の薄いものになってしまいがちです。
個人的な経験でいうと、オシャレなスパイスボトル&ホルダーのセットをもらいましたが、キッチンに統一感が出て、とても嬉しかった記憶があります。自分では買わないけど、もらったら嬉しいと思う商品を、自分の足を使って探し回ることが大切です。
今回はスカンジナビア航空を例に、顧客接点の大切さを見てきました。これらの手法を参考に、印象に残る結婚式を企画してください。
4. まとめ

4.1 ゲスト目線でトータルコーディネート
結婚式の準備は思った以上に工数がかかります。そのためにブライダルコーディネーターの言いなりになってしまいがちなのですが、せっかくの結婚式です、自分たちのオリジナリティを出したいものです。
それには結婚式を主催するにあたって、ゲスト目線で企画を考えることが大切です。ゲストが結婚式に接するポイントを洗い出し、その全てのポイントで及第点以上を取ることができれば、確実に素晴らしい結婚式になります。準備は大変ですが結婚式の感動を考えると、取るに足りませんので、この記事を参考に頑張ってください!
(自分の結婚式の披露宴でのことですが、座っている足元に小さなポリバケツが置いてありました。掃除のおばちゃん片付けてないわ・・・と思っていたのですが、グラスに注がれたビールをそこに捨てるためだったのですね。私の場合、全部飲んでたので最後はフラフラでした。)