中規模医院をブランディングするには

会話をする医師と看護師

宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー

SAS Institute、Teradata、Honeywellなどの国際企業でアナリティクスのビジネス開発に携わった経験を活かし、オーセンティックマーケティングを通じて、価格競争に陥らない強いブランド作りを支援しています。オーセンティックマーケティングは、企業が本質的な価値を顧客に伝え、持続可能な成長を目指すための戦略です。このブログでは、そうした戦略や実践例を詳しく解説しています。

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今日の論点


病院の顧客接点管理について

病院の場合は医療法における広告規制があるため、一般企業のような販促を目的としたプロモーションを実施することができません。販促ツールとして治療の体験談などをWebサイトに掲載することはできないのです。

 

今回は顧客接点を見直すことで病院の評判を改善する方法について、考えてみたいと思います。患者を顧客と呼んでいいのか、ビミョーなのですが・・・。

 

みんな気がついているけど、医療関係者だけが気づいていない・・・そんな内容です。



目次


1. 病院における口コミの現状


病院のロビー

1.1 行政は在宅医療と大病院を重視

2025年頃に団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となり、社会負担が大幅に増えていくことを「2025年問題」と呼んでいます。それに対応するため、行政は在宅医療などを含んだ地域包括ケアシステムの構築を進めています。

 

また難治性疾患や重症に対応するため、高度な医療を提供できる大病院に対する期待度も高まってきています。

 

行政の後押しもあり、在宅医療と大病院は経営状態が良くなっていくと思われますが、その一方で中小の病院は、少しずつ経営が悪化していくものと予想されます。

 

これからの中小病院は、生き残りをかけたサバイバルゲームに身を置くことになるでしょう。そこで病院のブランディングに注目が集まってきているのです。


1.2 中規模の病院は恐ろしく評判が悪い

そででは簡単に病院の状況、特に患者からの評価を調べみましょう。まずGoogleマップを開いて、「病院」を検索してみてください。左の検索結果に、あなたの周囲の病院の一覧が表示されると思います。

 

表示された病院をクリックして、少し下にスクロールすると、下に「口コミの概要」という欄が出てきます。そこに患者から見た病院の評価が記載されています。

 

小さな病院や診療所は、比較的評判が良い傾向にあります。医師の人柄が、そのまま病院経営となって評価されているのでしょう。まぁ、とんでもない評判の小さな病院は、早々に市場から姿を消してしまうのだと思います。

 

それに比べて100〜300床ぐらいの中規模病院はどうでしょうか。5や4の評価を付ける人は一握りで、逆に1の評価を付ける人が多いことに驚かされます。

 

中規模病院は評判の悪いところばかりで、評判の良いところなど、ほとんど存在していないのが現状です。



2. 低評価の口コミを放置する中規模病院


カルテを書く医師の手元

2.1 医療現場と世間のギャップ

では、なぜこれらの中規模病院は、この低評価を放置しているのでしょうか。一般の企業であれば緊急会議の上、タスクフォースを立ち上げて、早々に改善を図るところです。

 

病院側がこの低評価を放置しているのは、「病院は非営利団体でサービス業者ではない。患者からの評判を上げるよりも、より高度で適切な医療を提供することに注力するべきだ。」と考えているからではないでしょうか。

 

しかしながら、患者側は「病院はサービス業である」と考えています。病院も美容院と同様にサービス業として評価をしているのです。病院側からすると「ふざけるな!」って感じなのでしょうが、どう考えるかは患者側の自由です。

 

逆に患者側からはどう見えているのでしょうか。自己紹介で「〇〇病院の医者です。」と伝えると、「お医者さんですか。それは大変なお仕事ですね。」と返ってくると思いますが、本当は「あぁ、あそこの医者か、ちゃんとしろよ・・・。」と思われています。

 

このギャップこそが中規模病院の評判の悪さの原因です。



3. 口コミを改善するには顧客接点を見直せ


問診をする医師と患者

3.1 患者は何に腹を立てているのか

そもそも、患者は何に腹を立てているのでしょうか。診療行為について、何かミスでもあったのでしょうか。

 

先ほどのGoogleマップの「口コミの概要」を、もう一度読んでください。多くの患者が腹を立てているのは、診療についてでも設備についてでもありません。病院側の「接客態度」に腹を立ているのです。(そもそも、客ではないのかもしれませんが)

 

疾患の原因や治療の方法について十分に説明しない医師、ぞんざいな口調の看護師、返事をしない受付、おしゃべりばかりの事務員・・・そんな内容のことがいっぱい書かれています。患者は彼らの態度に腹を立てているのです。

 

医師は患者に疾病の詳細を説明しても理解できないだろうと思っている、看護師は忙し過ぎて細かな対応をする余裕がない、受付は静かに対応しているつもり、事務員は楽しい職場で何が悪い・・・という感じなのでしょう。

 

病院は患者との接点をいま一度見直して、このギャップを埋める必要がありそうです。


3.2 スカンジナビア航空の事例

患者との接点を見直すにあたって、スカンジナビア航空の事例が役に立ちます。

 

スカンジナビア航空では、ひとりの乗客が1回のフライトで平均5人の接客を受けます。予約の電話対応、荷物の預け入れ、キャビンアテンダントの接客などが主な顧客接点です。

 

また1回の接客時間は平均15秒ということも、現場の調査で解っています。合計は「5人×15秒=1分15秒」となります。この1分15秒の接点だけで、乗客はスカンジナビア航空を評価するのです。

 

スカンジナビア航空ではこれを「真実の瞬間」と呼んでいます。この「真実の瞬間」をどのように使えば、乗客の期待値を上回ることができるのか、常に考えて行動しているのです。


3.3 顧客接点管理でサービス体制を見直せ

 顧客接点を洗い出すと、医師の診療、看護師の応対、治療費の支払い、Webサイトの閲覧など、患者との接触が思いのほか多いことが解ります。あなたの病院では、患者それぞれに対して、どの程度の時間を費やしているのか把握しているでしょうか。一般の企業であれば、程度の差こそあれ、顧客接点について把握しています。

 

もし受付や待合いスペースから、事務員の机が見えるのであれば、あなたの病院は患者との接点について、何の関心も持っていないということです。事務員は患者を見ていないでしょうが、患者は事務員を見ています。患者側とすると、その待ち時間も接点なのです。

 

患者との接点を全て洗い出し、その全てで患者を満足させなければなりません。逆に言うと、それらの接点で全て患者の期待値を上回る価値を提供することができれば、あなたの病院の評判が改善することは間違いありません。

 

また、これら顧客接点を改善する際に、病院の「信念」をプロモーションすることを忘れないでください。病院関係者と患者とが、同じ「信念」という物差しで病院を測ることができれば、病院側の改善を患者は同じ目線で見ることになるため、満足度は格段に上がってきます。 


3.4 信念を伝えて信頼感を高める

冒頭にお伝えした通り、病院の場合は広告規制があるため、治療の体験などを販促ツールとしてWebに掲載することはできません。しかし、治療に対する「信念」を語ることは可能です。

 

下記は架空の病院のコマーシャルメッセージです。読み比べてみてください。

 

<メッセージA>

  • ◯◯◯クリニック
  • 患者さんに優しい診療、くつろげる空間、予約システム採用
  • お気軽にご相談ください。

 

<メッセージB>

  • 病気によっては苦しい状態が長く続くことがあります。そんなときでも、私があなたの背中を押し続けます。
  • 患者さんに優しい診療、くつろげる空間、予約システム採用
  • ◯◯◯クリニック
  • お気軽にご相談ください。

 

メッセージAよりもメッセージBの方が、心に響くのではないでしょうか。機能やスペックをいくら語っても、人の心には刺さりません。自分自身の信念を語ることこそが大切です。あなたも自分自身の信念を、患者さんに伝えてみませんか。



4. まとめ


メモを持つ看護師

4.1 改善するなら顧客接点管理から始めろ

中規模病院は大学病院のように最先端の医療を提供する訳でもなく、かといって診療所のように地域の患者に寄り添う訳でもなく、とても中途半端な存在です。また働いている医療関係者には、まともな社会人研修すら受けていないような人たちが多く見受けられます。一般企業のように完全な競争原理が働くのであれば、とっくに淘汰されているでしょう。

 

このようの現状を変えようとするなら、「顧客接点管理」は非常に有効な手段となり得ます。そもそものレベルが低いのですから、改善の効果は抜群です。