販促ツールとしてのイベント活用術

イベントで聴衆にプレゼンをする男性の後ろ姿

宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー

SAS Institute、Teradata、Honeywellなどの国際企業でアナリティクスのビジネス開発に携わった経験を活かし、オーセンティックマーケティングを通じて、価格競争に陥らない強いブランド作りを支援しています。オーセンティックマーケティングは、企業が本質的な価値を顧客に伝え、持続可能な成長を目指すための戦略です。このブログでは、そうした戦略や実践例を詳しく解説しています。

宮崎祥一のプロフィール写真


今日の論点


イベントの効果的な活用方法とは

先日「周年記念のイベントを任されてしまったが、何をすればいいのか?」という不幸な人がいましたので、「大変だね。ご愁傷様です。」と答えておきました。

 

日本企業が行う周年記念のイベントって、会社の歴史をまとめたカタログを制作してみたり、記念のグッズを制作してみたりと、「それって何かの役に立つの?」と聞きたくなるようなものが目白押しですよね。

 

米国の企業も周年記念のイベントを行いますが、その位置づけは日本の企業とは全く異なります。米国の企業がイベントを行う目的はただひとつ「販促」です。

 

米国企業が行っているこのアプローチは、日本の企業の皆さんにも役に立つと思います。友人へのアドバイスがてら、まとめてみました。

 

不幸にも周年記念のイベントを任されてしまった方たち限定情報ですので、それ以外の方々にはなんの役にも立ちませんので、スルーしてください。



目次


1. 周年記念のイベントは販促ツールだ!


コストカットのイラストと男性

1.1 周年記念のイベントに関する意識調査

会社を設立して5年目や10年目などで実施される周年記念のイベントですが、そもそも社員はどのように思っているのでしょうか。下記は周年記念のイベントについての、アンケート調査です。

 

<周年イベントは必要か?>

回答 割合

必要だと思う

18.7%

どちらかといえば必要だと思う

41.0%

どちらかといえば必要ない

19.9%

必要ない

12.6%

わからない

7.6%
無回答 0.1%

※小数点第二位以下を四捨五入

グラフ:周年イベントは必要か、必要だと思う(18.7%)、どちらかといえば必要だと思う(41.0%)、どちらかといえば必要ない( 19.9%)、必要ない( 12.6%)、わからない(7.6%)

出典:周年事業には企業日必要?それとも不要?, (周年事業ラボ 2017)

出典のデータを元に、弊社にてグラフを作成

 

「どちらかといえば必要ない」+「必要ない」

= 19.9% + 12.6% = 32.5%

 

3割以上の社員が周年記念のイベントを「必要ない」と思っている訳です。企業では年間に多くのイベントを開催しますが、その中でもダントツに無駄だと思われているのではないでしょうか。


1.2 なぜ周年記念は無駄だと思われるのか

この3割上の社員から必要ないと思われている周年記念のイベントですが、具体的に何をやっているのでしょうか。周年記念における取り組みに関するアンケート調査を見てみましょう。

 

<周年記念における取り組み>

回答 割合

社内イベント

61.6%

周年記念誌の制作

45.7%

社外向けのイベント

37.6%

記念品の制作

31.3%

歴史などのアーカイブ・編さん

22.6%

マス向けのプロモーション

10.7%

Webサイトの構築・リニューアル

10.0%

その他

1.5%

※小数点第二位以下を四捨五入

グラフ:周年における取り組み、社内イベント(61.6%)、周年記念誌の制作(45.7%)、社外向けのイベント(37.6%)、記念品の製作(31.3%)、歴史などのアーカイブ・編纂(22.6%)、マス向けのプロモーション(10.7%)、Webサイトの構築・リニューアル(10.0%)、そのた(1.5%)

出典:100年企業ほど周年事業への取り組みが真剣, (周年事業ラボ 2017)

出典のデータを元に、弊社にてグラフを作成

周年記念における取り組みの第一位は「社内イベント」です。優秀社員の表彰などを行うのですが、嬉しいのは表彰された社員だけで、表彰されない大部分の社員にとってこのイベントは、拍手をする場でしかありません。「来年は私が優秀社員賞を取るぞ!」と思わせるような動機づけができればいいのですが、残念ながらそのような仕掛けはありません。

 

第二位は「周年記念誌の制作」です。社長からの感謝の言葉や、会社の歴史を振り返る座談会などが掲載されます。この記念誌ですが、何かの役に立つのでしょうか。そもそも誰か読みたい人はいるのでしょうか。もらって直ぐに捨てるのもアレなので、後日、不要な書類と一緒にシュレッダーです。

 

3割以上の社員が周年記念のイベントを「必要ない」と思う気持ちも解る気がします。



2. 米国企業の周年記念への取り組み


会議中の男女4人

2.1 米国企業にとって周年記念は販促ツール

米国企業も周年記念のイベントを行いますが、その目的は社員への慰労ではありません。あくまで販促が目的です。売上を増やすために実施するのですから、当然ながら社外向けのイベントを開催します。

 

米国企業の営業マンの多くは、アカウントプランと呼ばれる営業計画書を作成します。今後の3カ年の営業方針やスケジュールなどを細かくプランニングするのですが、その中には周年記念の活用も入っています。

 

私が外資系IT企業に勤めていたときに、実際に行っていた周年記念の活用方法をご紹介したいと思います。

 

 

<周年記念のイベントの活用方法>

周年記念のイベントではユーザーの表彰が行われますが、表彰される企業は「スゴイ先進的な活用事例を世に送り出したから」ではありません。営業マンが今後3カ年で売上を立てるために、事例として横展開できる「地味だけど利益生む活用方法」が表彰されるのです。

 

営業マンはこの表彰されたユーザーを中心として、定期的な勉強会を開きます。その勉強会に横展開できそうな見込み客を、ドンドン集めてくるのです。日本の企業は他の会社が何をやっているのかを、とても気にしますので、誘えば二つ返事で乗ってきます。また、表彰された企業からの生の声は、営業マンからの提案と比べて、何倍もの効果がありますので、短期で契約を受注することも可能になってきます。

 

このように米国企業では、周年記念を販促ツールとして活用します。従って、どうすれば効果的に活用することができるのかとう議論はあっても、これを「必要ない」と考える社員はいません。日本でもこのような使い方が増えていけば、周年記念に対する見方も変わってくると思います。



3. これで周年記念のイベントを成功させろ!


オフィスでポーズを決める男女4人

3.1 周年記念で守るべき3つのポイント

周年記念の企画を進める上で、意識しておくべきポイントが3つありますので、まとめておきます。

  1. 周年記念は販促ツール
  2. 過去への感謝
  3. 未来へのビジョン

それぞれ詳しく見ていきましょう。

 

1.周年記念は販促ツール

周年記念のイベントが目指すゴールは「販促」です。どうすれば売上を増加させることにつながるのか、常にそれを念頭に置いて企画を考える必要があります。

 

従って周年記念の企画では、営業マンとアカウントプランの内容を検討しながら、進めていくことが大切です。企画担当者が勝手に進めてはいけません。

 

 

2.過去への感謝

2つ目の「過去への感謝」とは、具体的にはユーザーを表彰するということです。建前上は感謝の意味を込めて表彰するのですが、実際のところは、横展開できる事例を持った企業を表彰するのです。

 

事前に決められた賞があって、どの企業が受賞に相応しいのかを決めるのではありません。それとは逆に、まず受賞させる企業を決めて、その後にその企業に相応しい賞のタイトルを決めるのです。

 

 

3.未来へのビジョン

3つ目の「未来へのビジョン」とは、これから会社が向かっていく方向性を指し示すということです。次の2つのメッセージを比べてみてください。

 

■メッセージA

  • これが新しいPCです
  • 美しいデザイン、簡単な操作性、堅牢なセキュリティ
  • 1台いかがでしょうか?

 

■メッセージB

  • 自分が世界を変えられると、本気で信じている人たちに、私はツールを届けたい。
  • 美しいデザイン、簡単な操作性、堅牢なセキュリティ
  • これが新しいPCです
  • 1台いかがでしょうか?

 

メッセージAは一般的なPCメーカーのCMで、メッセージBはAppleのCMをベースに私が加筆修正したものです。メッセージBは心に響くと思いませんか。ビジョンを伝えるということは、企業の信念や理念を伝えるということです。商品の機能やスペックを詳細に説明するよりも強く心に響くのです。

 

 

 周年記念のゴールである「販促」に加えて、「過去への感謝」と「未来へのビジョン」を意識しながら企画を検討すれば、大きく外すことはありません。儲かる仕組みとして周年記念を定義し直すと、社内の協力も取り付けやすくなります。



4. まとめ


オフィスで歓喜する従業員たち

4.1 周年記念は絶好の販促ツール

3割上の社員から必要ないと思われている周年記念のイベントですが、これを販促のためのツールと捉えることで、全社を上げて積極的に取り組むことが可能になります。

 

販促のツールとして実施する場合、営業部門を始めとして、さまざまな部署との調整が必要となります。各部門とは綿密な連絡を取りながらも、周年記念の担当者はこのプロジェクトの責任者ですので、積極的に牽引することを忘れないでください。

 

海外の企業では一般的に行われており、実際に効果が出ていますので、是非あなたの会社でも取り入れてみてください。