カスタマージャーニーで顧客接点を把握しろ!

海でサーフボードを抱えるウエットスーツ姿の女性

宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー

SAS Institute、Teradata、Honeywellなどの国際的企業において、アナリティクスサービスのビジネス開発を担当。海外で実績を積んだ最先端のアナリティクス手法を、日本の主要企業に導入。ハイテク、金融、医薬、通信、家電、流通、小売、飲料、食品、通販業界など、幅広い分野の企業に対する支援を行う。アナリティクスの適用範囲は、マーケティング分析、リスク管理、品質管理、需要予測、在庫最適化など多岐にわたる。データ分析とブランド構築の戦略を融合させる新しいアプローチを提供するため、株式会社アルファブランディングを創業。価格競争に陥らない強固なブランド構築をサポートしている。

宮崎祥一のプロフィール写真


今日の論点


カスタマージャーニーで購買行動を把握しよう

今回のテーマは「カスタマージャーニー」です。

 

みなさんもカスタマージャーニーマップなるものを、何度かご覧になったことがあると思います。

 

本来は、企業と顧客の接点を分析し、顧客満足度を高めるためのマップなのですが、いつの間にかこのマップを作ること自体が目的になっているケースが多く見られます。

 

今回はこの「カスタマージャーニーマップ」ではなく、その考え方である「カスタマージャーニー」自体を解説いたします。



目次


1. カスタマージャーニーとは何か


夕日が当たる砂浜を歩く女性の足元

1.1 カスタマージャーニーとは

カスタマージャーニーとは、顧客が商品やサービスを知ってから、それを購入し、その後リピーターになるまでの一連の購買プロセスのことを指します。顧客が様々なタッチポイント(顧客接触)を経て、情報収集、検討、購入、使用、リピート、これらに至るまでの行動や意思決定を分析するためのものです。

  

従来のマーケティング手法では、企業側の視点で一方的に情報を発信してきましたが、現在は顧客からの視点が重要視されています。企業は商品やサービスを提供し、顧客が抱えている課題を適切に解決するためには、顧客に寄り添うマーケティング手法が求められているいう背景があります。

 

また、デジタル技術の発展と普及により、顧客の購買行動に関するデータや、その分析が容易に行えるようになり、カスタマージャーニーの最適化が、より効果的に行えるようになってきました。

 

それでは、このカスタマージャーニーで、どのような効果が得られるのか、一緒に見ていきましょう。


1.2 カスタマージャーニーの具体的な事例

1. ネスレ / Nestle:ネスレはスイスに本社を置く、世界最大規模の食品飲料メーカーです。コーヒー、チョコレート、ベビーフードなど、商品ラインナップは多岐にわたっています。ネスレは自社製品のカスタマージャーニーを分析し、それに基づいてマーケティング戦略を策定しています。例えば、ネスレのコーヒーマシン「ネスプレッソ」では、商品の購入を検討する段階からアフターサービスまで、一連の体験を最適化しています。実店舗だけではなくオンラインでもデモンストレーションや、コーヒーの専門家によるアドバイス、また定期的なメンテナンスなども提供しており、コーヒーに関する最高の体験ができるように最適化されています。

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2. テスコ / Tesco:テスコは英国を拠点とする世界的なスーパーマーケットチェーンで、食品から家庭用品まで幅広い商品を取り扱っています。テスコはカスタマージャーニーを活用して、顧客のニーズに合わせたサービスを提供することで、顧客満足度を向上させています。またオムニチャネル戦略にも力を注いており、オンラインとオフラインのショッピングをシームレスにつなげることで、ストレスのない購買体験ができるようになっています。また会員向けプログラムである「クラブカード」を通じて、顧客の購買履歴やその嗜好を分析し、パーソナライズされた特典やクーポンを提供しています。

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3. イケア / Ikea:イケアはスウェーデンの家具やインテリア製品のメーカーで、デザイン性と機能性を兼ね備えた低価格の製品を提供しています。イケアは家具やインテリア製品の購入から、組み立て、使用、廃棄に至るまでのカスタマージャーニーを分析し、顧客がより良い購買体験を得られるように努めています。また、イケアはオンラインショッピングもサポートしており、顧客のニーズに応じた購買体験ができるようになっています。

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2. メリットとデメリット


メリットとデメリット

2.1 カスタマージャーニーを使うメリット

カスタマージャーニーを活用することで得られるメリットには、以下のようなものがあります。

 

1. 顧客の課題を正確に把握できる:カスタマージャーニーを分析することで、顧客がどのような悩みや課題を持っているのかについて、理解を深めることができます。これにより、企業は顧客が求める適切な商品やサービスを提供し、顧客満足度を高めることができます。

 

2. マーケティング施策の効果を高めることができる:カスタマージャーニーを通じて、顧客の購買行動やその意思決定プロセスを把握することにより、ターゲット顧客に対して効果的なマーケティング施策を策定できます。これによって無駄な広告費用を削減し、ROI費用対効果を高めることができます。

 

3. 成約率を向上させることができる:カスタマージャーニーの各ステップでの顧客の購買行動を分析し、適切な施策を打つことで、成約率を向上させることができます。例えば、コールセンターの対応や、ウェブサイトのナビゲーションなどを改善することで、顧客が購入に至りやすくなるように誘導することができます。

 

4. リピーターを増加させることができる:カスタマージャーニーを活用して、顧客の期待に沿える商品やサービスを提供することで、顧客満足度を向上させることができます。これによりリピート購入の促進や、友人・知人へのクチコミによる紹介が増えるため、新規顧客の獲得や売上向上につながります。

 

5. 顧客と長期的な信頼関係を構築できる:カスタマージャーニーを通じて顧客の悩みや課題を理解し、これに対して適切な解決策を提案することで、顧客との信頼関係を築くことができます。これにより、顧客との長期的な関係を維持することができるようになります。

  

以上のように、カスタマージャーニーを活用することで、顧客の悩みや課題に対して、最適化されたマーケティング施策を展開し、結果として企業の収益やブランド力を向上させ、顧客との強固な信頼関係を築くことができるようになります。


2.2 カスタマージャーニーを使わないデメリット

カスタマージャーニーを活用したマーケティング施策を実施しない場合、どのようなデメリットが発生する可能性があるのか、一緒に見ていきましょう。

 

1. 顧客にとって価値のある提案ができない:カスタマージャーニーを活用しない場合、顧客のニーズや課題を把握することが難しくなります。これにより、顧客の課題を解決する価値のある商品やサービスを提供できず、顧客満足度の低下や売上減少に繋がる可能性があります。

 

2. 無駄なマーケティング費用が発生する:カスタマージャーニーを使用することなく、マーケティング活動を行うと、顧客のニーズに合わない施策が実施されることがあります。その結果、広告効果の低いプロモーションにリソースが投じられ、無駄な費用が発生する可能性があります。

 

3. 顧客とのコミュニケーションにズレが発生する:カスタマージャーニーを考慮しないで顧客とコミュニケーションを行うと、顧客が必要とする情報やサポートが、適切なタイミングで提供されない場合が発生します。これにより顧客との信頼関係が崩れ、顧客満足度が低下する可能性があります。

 

4. 顧客のリピートやクチコミが減少する:カスタマージャーニーを無視したマーケティング活動では、顧客の期待に合っていない商品やサービスを提供する可能性が出てきます。これにより、顧客満足度の低下を招き、リピートやクチコミが減少することになり、売上が低迷の原因となる恐れがあります。

  

以上のように、カスタマージャーニーを活用しない場合は、顧客との信頼関係を築くことが難しくなり、マーケティング活動の効果も下がってしまいます。これらのデメリットを避けるためにも、カスタマージャーニーを正しく理解し、顧客の悩みや課題に合致したマーケティング施策を実施することが大切です。



3. カスタマージャーニーを実践するためのプロセス


目的地までの距離が書かれた複数のボード

3.1 カスタマージャーニーを実践するために

それではカスタマージャーニーを実践するためには、どのような準備が必要なのか、具体的なプロセスについて見ていきましょう。

 

1. 顧客の購買行動に関する調査:まずは顧客がどのような購買行動を取り、どのような悩みや課題を抱えているかを調査します。アンケート、インタビュー、Webのアクセス解析などを行い、顧客の購入プロセスや、商品やサービスを選定する基準などを把握しましょう。

 

2. カスタマージャーニーのマップ作成:調査で得られた情報をもとに、カスタマージャーニーマップ(※1)を作成します。ここでは購入プロセスの各段階で、顧客がどのような行動を取るのか、またどのような課題や感情を持っているかについて可視化します。これにより具体的な施策を企画することができるようになります。

(※1)カスタマージャーニーマップについては、次の段落で説明いたします。

 

3. ペルソナの設定:ターゲット顧客の代表的な属性や特徴を持つ架空の人物を「ペルソナ(※2)」と呼びます。このペルソナを設定し、それに対してマーケティング活動を行うことで、より効果的なコミュニケーションが可能になります。

(※2)ペルソナについては、別にブログを書いています。👉 Link

 

4. 顧客接点の特定:カスタマージャーニーのマップをもとに、顧客と企業が接触する「顧客接点 (※3) 」を特定します。これにより、顧客に適切な情報やサービスを提供するタイミングが明確になります。

(※3)顧客接点については、別にブログを書いています。👉 Link

 

5. 施策の実施:顧客の悩みや課題に対応した施策を企画・実行します。顧客接点ごとに最適なコンテンツやプロモーションを提供し、顧客の購入プロセスをサポートします。

 

6. 分析・評価:実施した施策の効果を定期的に分析・評価します。KPI(重要業績評価指標)を設定し、数値化することによって、施策の効果や問題点を把握が容易になります。

 

7. 改善・最適化:分析・評価の結果をもとに、カスタマージャーニーの改善や最適化を行います。顧客の悩みや課題に対する取り組みを継続的に見直し、より効果的なマーケティング活動を実施しましょう。また、市場環境の変化や顧客ニーズの変化に対応するためにも、定期的な見直しは必須です。

  

カスタマージャーニーを実践するためのプロセスを、適切に実施することで、顧客との信頼関係を深めます。顧客ニーズに応え、悩みや課題を解決することで、顧客満足度を向上させます。


3.2 カスタマージャーニーマップとは

カスタマージャーニーマップとは、顧客が商品やサービスを購入するプロセスを視覚化したマップのことです。このマップは顧客が購入に至るまでの行動や感情、そして課題などをステージ毎に明確に示しています。

 

カスタマージャーニーマップの目的は、顧客視点でビジネスを理解し、顧客体験を最適化することです。このマップを活用することで、顧客の悩みや課題に的確に対応し、顧客満足度を向上させることにつながります。なお、一般的なカスタマージャーニーマップのステージは、以下の通りです。 

  1. 認知:顧客が商品やサービスの存在を知る
  2. 検討:顧客が情報収集や比較検討を行う
  3. 購入:顧客が商品やサービスを購入する
  4. 使用:顧客が商品やサービスを利用する

 

【参考】カスタマージャーニーマップのサンプル

ペルソナのサンプル図


4. まとめ


青い空と道路

4.1 カスタマージャーニーの今後の役割

カスタマージャーニーを活用したマーケティング手法は、顧客の購買プロセスを理解し、顧客の悩みや課題に合わせた提案を行うことができます。また、カスタマージャーニーマップを作成することで、顧客の購買行動やその課題を可視化し、効果的なマーケティング施策を実行することに役立ちます。

 

また、カスタマージャーニーは、データ分析やモデリング、またAIの活用やオムニチャネルの拡大などによって、さらに注目を集めることになるでしょう。これらの発展を取り入れ、顧客の悩みや課題に柔軟に対応することで、企業の成長に大きく貢献することができるようになります。

 

・・・カスタマージャーニーマップはあくまでもツールです。これを作ることが目的にならないように、注意しましょう (^^)/