
宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー
SAS Institute, Avanade, Teradataといった外資系アナリティクス企業でビジネス開発分野に携わりながら、海外で実績のある先進的なアナリティクス手法を日本の国内大手企業に導入することに成功。これらの企業はハイテク、通信、家電、金融、流通、小売、飲料、食品、通販業界など多岐にわたり、プロジェクト内容も購買行動分析、顧客接点分析、需要予測、在庫最適化といった幅広いテーマをカバー。2011年には株式会社アルファブランディングを設立し、データ分析とブランド構築の戦略を融合させることで、企業の競争力を強化するサポートを行っている。

今日の論点
ビジョンや信念を伝えるマーケティング施策
現代の顧客の購買行動は、商品やサービスの価格や品質に左右されることが少なくなってきています。その代わり、企業が持つ価値観、透明性、信頼性といった要因に大きく左右されるのです。そこで今回は企業のビジョンや信念を伝えるオーセンティックマーケティング(Authentic Marketing / 価値共有マーケティング)を紹介します。
企業は顧客との絆を深め、長期的なファンを獲得することができるようになります。今回はオーセンティックマーケティングの基本的な考え方や具体的な解決策、またその実践方法などについて解説し、企業がより多くのファンを獲得するためのノウハウを提供いたします。
「また、ビジョンと信念か・・・」そう思われたあなた。
私は首尾一貫しているのです(^^)/
目次
1. オーセンティックマーケティングとは何か

1.1 オーセンティックマーケティングとは
オーセンティックマーケティング(Authentic Marketing / 価値共有マーケティング)とは、2000年代当初に誕生した比較的新しいマーケティング手法であり、顧客との信頼関係を築き、真の意味でのブランドロイヤリティを生み出すことを目標にしています。
この時期、顧客が徐々に企業に対して不信感を抱き始め、ブランドロイヤリティが低下していたため、企業は顧客に対して誠実であることが必要とされるようになりました。
顧客と長期的な関係を築くことを目標としているマーケティング手法ですので、下記のような効果が期待できます。
オーセンティックマーケティングで期待できる効果
- 顧客のロイヤリティ向上
- 販売促進費用の削減
- ブランド価値の向上
- 競合他社との差別化の回避
それではオーセンティックマーケティングの具体的な内容について、一緒に見ていきましょう。
2. オーセンティックマーケティングの実際

2.1 オーセンティックマーケティングの考え方
オーセンティックマーケティングを実践するためには、企業が持つ独自性や強みを明確にし、それを顧客に伝えることが大切です。そのためには、まず自社のビジョンや価値観をもう一度明確化し、それをマーケティング戦略に反映させることが重要です。下記の4つに分けて考えるとこのあと具体的なアクションプランを考える際に、役に立ちます。
質問1:自社の価値観やミッションはなにか?
自社の価値観やミッションを明確にすることは、オーセンティックマーケティングを進める上で非常に重要です。企業がどのような価値観を持ち、どのような目的を持っているのかを明確にすることで、顧客に対して誠実で真摯な姿勢を示すことができます。
質問2:自社のブランドの強みとはなにか?
ブランドの強みを見つけ、それに焦点を当てることもオーセンティックマーケティングを進める上で重要なポイントです。企業が提供する商品やサービスの中で、他社にはない強みを持っていることがあれば、それを強調し、顧客にアピールすることが必要です。
質問3:顧客との信頼関係は築けているか?
顧客との関係を重視し、誠実さと信頼性を確保することもオーセンティックマーケティングに欠かせないポイントです。顧客とのコミュニケーションを重視し、顧客が抱える問題や不安に対して真摯に向き合い、解決策を提供することが大切です。
質問4:顧客との対話は活発か?
最後に、さまざまなメディアを活用して、顧客との対話を促進することがオーセンティックマーケティングを進める上で重要です。企業は、顧客が利用するさまざまなメディアを活用し、顧客とのコミュニケーションを積極的に行うことが必要です。顧客との対話を通じて、顧客が本当に必要としているものを把握し、それに応えることができるようになります。
オーセンティックマーケティングでは、単なる商品やサービスの売り込みに留まらず、顧客のニーズや問題を解決することにフォーカスを当てることが求められます。
2.2 具体的な事例
オーセンティックマーケティングを成功させるためには、顧客の信頼を得ることが非常に重要です。そのためには、自社が提供する商品・サービスや企業理念といったものに対して真摯に向き合う必要があります。以下に、オーセンティックマーケティングを実践する企業の事例を3つ紹介します。
1. Warby Parker:Warby Parkerは、アメリカに本社を構える眼鏡のブランドです。眼鏡を購入するという体験を革新的に変えたことで知られています。同社は、眼鏡のデザインや品質にこだわり、また社会貢献にも力を入れています。例えば、眼鏡を購入すると同時に、途上国の貧困層にもメガネを提供しています。👉 Link
2. Ben & Jerry's:Ben & Jerry'sは、アイスクリームのブランドで、環境問題や社会問題に積極的に取り組む姿勢で知られています。同社は、フェアトレード認証の原材料を使用するなど、商品の製造過程から社会的責任を果たそうとしています。👉 Link
3. REI:REIはアメリカのアウトドア用品のブランドで、アウトドア愛好家向けの商品を提供しています。同社は、アウトドアにおける自然保護の重要性を訴え、また商品にはリサイクル素材を使用するなど、環境に配慮した活動を積極的に行っています。👉 Link
これらの企業は、自社の提供する商品・サービスに対して真摯に向き合い、社会的責任を果たすことで、顧客からの信頼を得ています。
3. メリットとデメリット

3.1 実践する場合のメリット
オーセンティックマーケティングを実践することで、下記の4つのメリットが得られます。
1. ビジネスの長期的な基盤づくり:オーセンティックマーケティングによって、長期的なビジネス成功のための基盤を構築することができます。これにより将来にわたってビジネスの継続を確保し、また経営環境の変化や競争環境の変化などに対して、迅速に対応することができるようになります。
2. 顧客からの信頼を獲得:オーセンティックマーケティングにより、ブランドは顧客からの信頼を獲得し、ファンを獲得することができます。顧客は、企業が誠実であることを認め、ブランドに忠誠心を持つようになります。
3. 顧客との深い関係構築:オーセンティックマーケティングは、顧客と深い関係を築くことができるため、顧客のニーズや要望に合わせた製品やサービスを提供できます。これにより、顧客はブランドが持つ価値観に共感し、リピート購入や口コミを促進することが期待できます。
4. 独自の優位性を獲得:オーセンティックマーケティングを実践することにより、顧客は企業が真剣に自分たちの価値観やニーズを考えていることを認識するようになります。これによって顧客は商品やサービスの機能ではなく、ブランドが持つ本当の価値を基準に購買行動を起こすようになります。
3.2 実践しない場合のデメリット
オーセンティックマーケティングを実施しないからと言って、明確なデメリットが発生するわけではありませんが、ただ環境問題に関してだけは注意が必要です。下記の3つのデメリットを引き起こさないためにも、この環境問題に関してだけは、オーセンティックマーケティングを実施しておくことをお勧めします。
1. 環境問題に対する批判:企業が環境に対する配慮が欠けている場合、社会全体から批判を受ける可能性があります。特に、環境問題に敏感な顧客層をターゲットとしている企業である場合、ブランドイメージや信頼性が、大きく損なわれることがあります。
2. 経済的な損失:企業が環境問題に配慮しない姿勢をとると、長期的な視点で見れば経済的な損失が発生することがあります。例えば、自然災害や環境汚染によって、企業の事業活動が影響を受ける可能性があります。
3. 従業員の離職:企業が環境問題に配慮しない姿勢をとると、従業員の離職率が高くなることがあります。特に、環境問題に敏感な若い世代の従業員からは、企業の環境に対する姿勢を問う声が上がることがあります。
それでは、オーセンティックマーケティングを実践するための、具体的なアクションプランを見ていきましょう。便宜的に5つのステップに分けています。
4. アクションプラン/5つのステップ

4.1 Step1:目標を明確にする
オーセンティックなマーケティング戦略を策定する前に、自社がどのようなビジョンや信念を持っているのか、明確にしておくことが大切です。以下のような問いに答えてみてください。
- ビジョンや信念は、社内の共通認識として浸透しているか?
- 提供する商品やサービスは、何を解決するためのものなのか?
- その解決する課題は、どの程度の深刻さを持っているのか?
- 提供する商品やサービスは、自社の価値観と合致しているか?
これらの問いに対する明確な回答を得ることで、オーセンティックなマーケティング戦略を策定するための基盤を整えることができます。
4.2 Step2:ターゲット顧客を特定する
次に、自社が提供する商品やサービスを利用するターゲット顧客を、より明確に特定することが大切です。具体的には、以下のような点を考慮してください。
- 自社の商品やサービスを必要とする、どのような顧客層が存在するのか?
- その顧客層は、どのような価値観やライフスタイルを持っているのか?
- その顧客層は、どのようなコミュニケーションチャネルを利用しているのか?
これらの点を考慮することで、自社の商品やサービスを利用するターゲットのプロフィールを明確にし、その顧客に対してオーセンティックなアプローチを実現するためのヒントを得ることができます。
4.3 Step3:競合分析を行う
自社の競合他社を理解することは、オーセンティックマーケティングにおいても重要です。競合他社がどのようなアプローチを行っているのか、どのようなブランドストーリーを持っているか、これらを把握することで、自社の特徴や強みをより明確にすることができます。
競合分析を行うためには、以下のような手順を参考にしてください。
- 競合他社のウェブサイトを調査する。競合他社の商品やサービス、プロモーション、価格、販売チャネルなどについて、情報を収集します。
- 競合他社の広告を調査する。競合他社が出稿している広告を調査することで、その広告のターゲット顧客やメッセージ、広告媒体などを把握することができます。
- SNSや口コミサイトなど、オンライン上での競合他社の評判を調査する。オンライン上での評判は、ターゲット顧客の反応や競合他社の強み、弱みを知ることができます。
- 競合他社と比較したときの自社の優位性や差別化ポイントを洗い出す。競合分析を通じて、自社の優位性や差別化ポイントをより明確にし、それを活かす戦略を策定します。
4.4 Step4:ブランドストーリーを構築する
ブランドストーリーは、顧客との関係を深めるために欠かせない重要な要素です。ブランドストーリーは、製品やサービスの提供に関する情報だけでなく、その背景や理念、ビジョンを伝えることで、ブランドのアイデンティティを明確にし、顧客との共感を生み出すことができます。
ブランドストーリーについては、企業ごとに伝えたい内容が異なりますので、一概には言えないのですが、少なくとも下記の点には留意してください。
1. ビジョンや価値観:まずはブランドのビジョンや価値観を明確にすることが必要です。ブランドの目的や存在意義を定義し、それを明確に伝えることが大切です。
2. ブランドの歴史や背景:製品やサービスを提供する背景や理念を説明します。なぜその製品やサービスが必要なのか、どんな問題を解決することができるのかを明確に伝えることが必要です。
3. 感情に訴えかける:顧客との共感を生み出すためには、ブランドストーリーに感情を込めることが重要です。顧客がどんな問題を抱えているのかを理解し、その解決に向けたストーリーを作り上げることができれば、共感を生み出すことができます。
4. メッセージの一貫性:最後に、ブランドストーリーを一貫性のある形で伝えることが必要です。ブランドストーリーは、企業のウェブサイトや広告、SNSなどの様々な媒体を通じて伝えられるため、伝える形式や表現方法にも注意が必要です。
4.5 Step5:マーケティング戦略を策定する
最後に、Step1からStep4までの情報を基に、オーセンティックなマーケティング戦略を策定します。自社のビジョンや信念、ミッションや価値観に合わせた、ターゲット顧客に対するアプローチや、自社のブランドストーリーに基づいたコンテンツ発信など、オーセンティックなアプローチを実現するための、具体的な戦略を立ててください。あと、マーケティング戦略を策定するにあたっては、以下のポイントに注意する必要があります。
- ターゲット顧客の心理状態や消費行動を理解し、それに合わせたアプローチを検討する
- ブランドストーリーを中心に、コンテンツを企画・制作する
- 企画・制作したコンテンツを、適切なチャネルを通じてターゲット顧客に届ける
以上のように、オーセンティックなマーケティングを実践するためには、企業のビジョンやミッション、顧客のニーズ、競合環境などを深く理解することが必要です。そして、その情報をもとに、顧客が共感し、愛着を持てるようなブランドストーリーを構築し、オーセンティックなマーケティング戦略を策定することが大切です。
5. まとめ

5.1 ビジョンや信念を伝えることは簡単ではない
オーセンティックマーケティング(Authentic Marketing / 価値共有マーケティング)を実践することによって、企業のブランド価値を高め、顧客との関係性を構築する方法を見てきました。しかし、オーセンティックマーケティングを実践するには、事前に十分な準備が必要であり、ステップを適切に実践することが重要です。
企業のビジョンや信念と一致したマーケティング戦略を立てること、そして、オーセンティックなコミュニケーションを実現するためには、社内全体で意識を高めることが重要です。
一朝一夕に実現できることではありませんので、それぞれのプロセスやステップを着実に踏んでいくことこそが大切です。
それにしても「オーセンティックマーケティング」って、正式名称とはいえ、なんか分かりづらくないですか? 字面からピンとこないというか。ここまで書いておきながら何なのですが「価値共有マーケティング」を使えばよかった(TT)