行きつけの美容室を変える理由とは

美容室でカウンセリングを受ける女性

宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー

SAS Institute、Teradata、Honeywellなどの国際的企業において、アナリティクスサービスのビジネス開発を担当。海外で実績を積んだ最先端のアナリティクス手法を、日本の主要企業に導入。ハイテク、金融、医薬、通信、家電、流通、小売、飲料、食品、通販業界など、幅広い分野の企業に対する支援を行う。アナリティクスの適用範囲は、マーケティング分析、リスク管理、品質管理、需要予測、在庫最適化など多岐にわたる。データ分析とブランド構築の戦略を融合させる新しいアプローチを提供するため、株式会社アルファブランディングを創業。価格競争に陥らない強固なブランド構築をサポートしている。

宮崎祥一のプロフィール写真


今日の論点


美容室の顧客接点管理について

新規顧客の獲得よりも大切なこと、それは既存顧客の囲い込みです。

 

クーポンなどの販促ツールは新規顧客のためのもので、既存顧客からすると少し損をした気分にさせられてしまいます。

 

今回は顧客接点を改善することでブランド力を高める方法について、考えてみたいと思います。

 

(簡単に言うと、どうすればまた来てもらえるのかってことです。)



目次


1. 理美容業界の市場環境


美容室専用の椅子

1.1 理美容業界は冬の時代

はじめに理美容業界の状況を確認しておきましょう。下記は帝国データバンク「理美容業の倒産動向調査」からの抜粋です。

 

***** 抜粋開始 *****

 

2017 年の理美容業の倒産は 151 件判明。2 年連続で前年比増加となったうえ、2011年(149 件)を上回り過去最多

負債総額は(株)グロワール・ブリエ東京の倒産により、138 億 100 万円(前年比252.5%増)となり、過去 10 年で最大

 

***** 抜粋終了 *****

 

かなり厳しい状況にあることは間違いなさそうです。この経済状況を乗り切るためにも、新規顧客を増やすことに加えて、既存顧客の離反防止が重要になってきます。



2. 市場の声を聞く


髪にロッドを巻かれる女性

2.1 お客様の声を聞いてみよう

「発言小町」というクチコミサイトに「行きつけの美容院に行かなくなった理由を教えてください」というスレッドが立っていますので、内容を確認してみましょう。

 

引っ越しなどの物理的な理由を除くと、スキル、接客、価格の3つに分類できそうです。主だった理由を列挙してみます。

 

<スキル>

  • 施術が雑になった
  • 前髪は切らないでと言ったのに切られた
  • 仕上がりが思ったものと異なる

 

<接客>

  • 美容師のネガティブな話に疲れた
  • ヘアスタイルに対する要望を聞かない
  • プライベートな内容をズケズケと聞いてくる

 

<価格>

  • いつのまにか価格が上がっている
  • いろいろと売りつけてくる
  • 追加オプションについて事前に価格を言わない

スキルについては「お客様の要望」を十分理解していないこと、接客については「適度な距離感」がないこと、価格については「従業員のノルマ」に問題がありそうです。


2.2 問題は簡単に解決できるものばかり

前段で「お客様の要望」、「適度な距離感」、「従業員のノルマ」に問題がありそうだと解りました。

 

「お客様の要望」ですが、最初にきちんととカウンセリングしておけば、問題とならないはずです。来店されたお客様に、いまのヘアスタイルの不満を聞く。目指すヘアスタイルを聞く。希望のヘアスタイルがなければ、こちらからいくつか提案する。現状と目指すゴールさえ共有できれば良いのです。

 

「適度な距離感」については、友だち口調を避け、丁寧な言葉づかいを心がけるだけで、一定の距離が保てます。また丁寧な口調で失礼なことを聞いてしまうことも、少なくなるでしょう。

 

「従業員のノルマ」については、経営側がそれを取り止めるだけです。トリートメントなどを併売するよりも、お客様に十分満足していただき、そのお友だちをご紹介いただく方が、最終的に収益を改善することができます。

 

誰かに指摘されるまでもないような事柄ばかりなのに、それが出来ていないのです。こんな簡単なことができていない理由、その根本的な原因を解決しなければ、場当たり的な改善を図っても直ぐに再発しそうです。



3. 全従業員のベクトルを合わせる


髪を切る女性美容師

3.1 経営者と従業員との共通理解が大切

カウンセリングが不十分なのは、時間内に仕事をさばいていかないといけないから。丁寧な口調で話さないのは、お客様と親密になれと言われているから。これらのことにより、お客様が離反してしまうため、経営側は従業員対して、本業とは別の販売ノルマを課してしまう。まさに負のスパイラルに陥っていると言って良いでしょう。

 

そもそも経営側は従業員に対して何をするべきなのか、シッカリと伝えているのでしょうか。いかに精緻にマニュアルを作ったところで、不測の事態には対応できず、また上からのお仕着せであれば、従業員のモチベーションも下がります。

 

経営側と従業員との間で、接客に対する共通理解、ビジネスを行っていく上での「信念」であるとか「信条」であるとかを共有しておく必要があるのです。


3.2 CREDOを作成し共通理解を促進する

これについては、既にリッツ・カールトンが答えを用意してくれています。正式名称は「The Ritz-Carlton」、世界規模で高級ホテルを展開していることはご存知の通りです。

 

このリッツ・カールトンの従業員は、常に次のカードを胸に忍ばせています。

リッツカールトンのクレド

このカードは「クレド(CREDO)」と呼ばれており、ラテン語で「信条」を意味します。表面には会社が従業員に望むこと、裏面には会社側が従業員にコミットすることが書かれています。

 

会社側から「こうしろ」という指示はありません。このクレドを判断基準として、自分で考えて行動するのです。

 

マニュアルではお客様の本当のご要望に対応できません。「信条」を全従業員が共有することで、顧客満足度を高め、引いては、それが従業員のモチベーションを高めることになるのです。

 

販売促進にダイレクトに効いてくる訳ではありませんが、長期的な目線で考えると、中途半端な販促ツールを制作するよりも、よほど高い効果を期待できます。

 

美容室もホテルと同様のサービス業です。同じ手法が有効であることは容易に推察できることでしょう。あなたのお店でも取り入れてみてはいかがでしょうか。



4. まとめ


髪をセットする女性美容師と女性客

4.1 マニュアルには限界がある

接客マニュアルを作っても全ての事態を網羅することは出来ません。必ず不測の事態がやってきます。そのときに役に立つのがこのクレドです。会社として行うべき基本原理を共有し、それに基づいて従業員が自ら判断し行動するのです。

 

接客マニュアルを持たない企業としてスターバックスが有名ですが、お客様と長く付き合いたいと思うのであれば、基本原理の共有化はとても重要なことです。あなたの会社でもクレドを検討してみてはいかがですか。

 

(ちなみに私は、天然パーマ、絶壁頭、つむじが2つ、ほぼ坊主なので、美容師にとっては悪夢のような客だと思います。)