ストーリーテリングでビジョンを伝える - 効果的なストーリーテリングの要素と構成法

古いタイプライターの画像の上に、「ストーリーテリングでビジョンを伝える - 効果的なストーリーテリングの要素と構成法」と書かれている。

宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー

HoneywellExperianTeradataAvanadeSAS Institute などの国際企業でアナリティクスのビジネス開発に携わった経験を活かし、オーセンティックマーケティングを通じて、価格競争に陥らない強いブランド作りを支援しています。オーセンティックマーケティングは、企業が本質的な価値を顧客に伝え、持続可能な成長を目指すための戦略です。このブログでは、そうした戦略や実践例を詳しく解説しています。

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今日の論点


商品やサービスではなくストーリー

企業のビジョンや信念は、その存在意義や方向性を示す重要な要素です。しかし、これらを単に言葉やスローガンとして伝えるだけでは、多くの人々の心に響かないことがあります。ここで鍵となるのが、ストーリーテリングの力です。

 

ストーリーテリングは、単なる情報伝達の手段を超え、感情や共感を引き出す強力なツールです。物語を通じて企業のビジョンや信念をより具体的で魅力的に伝えることで、顧客、従業員、そしてパートナーとの深い絆を築くことができます。

 

本記事では、ストーリーテリングがどのようにして企業のビジョンや信念を効果的に伝えるのか、その方法と具体的な事例を探っていきます。

 

歴史の教科書が退屈に感じられるのは、そこに人間味のあるストーリーが欠けているからです。一方、歴史小説は物語の力で読者を引き込みます。企業もまた、自分たちの人間的な側面や情熱を強調することで、顧客の関心を引きつけることができるのです。

 

中小企業がブランディングを行う際、このストーリーテリングは絶対におすすめの手法ですよ (^^)/ 



目次


1. ストーリーテリングとは何か?


机に積まれた本

1.1 ストーリーテリングとは


ストーリーテリングとは、企業や経営者が自社のビジョンや信念をストーリーとして伝えることで、顧客との共感や信頼関係を構築する手法のことを指します。製品やサービスの魅力を伝えたり、ブランドイメージを構築したりするために、この手法が使用されていることはご存じの通りです。

  

ストーリーテリングの特徴は、単に情報を伝えるだけに留まらず、お客様の心に訴えかける力があることです。ストーリーを構成する要素(人物、状況設定、ストーリー展開など)を上手く組み合わせることで、共感や感情移入を生み出すことができます。

  

ご承知の通り、ストーリーを伝えるという行為自体は、私たちが文字を使うようになって以来、継続して行われてきています。時代や文化によって表現する方法は異なっていますが、人々の心を動かすという点においては共通しています。今後も、ストーリーテリングは人々の生活やビジネスにおいて、重要な役割を果たし続けると思われます。


1.2 ストーリーテリングにできること


ストーリーテリングを活用することで、企業や経営者が直面する課題をを解決することができます。ストーリーテリングで何ができるのか、一緒に見ていきましょう。

 

1. 顧客の心をつかむことができる:ストーリーテリングは、製品やサービスに対して感情的な思いを持たせることにより、それらに対する理解を深め、企業と顧客との距離を縮めることを可能にします。これにより、商品やサービスが単なる「モノ」ではなく、顧客にとって意義のある「コト」ととなり、長期的な顧客ロイヤリティを構築することに役立ちます。

 

2. 商品やサービスの認知度を高めることができる:ストーリーテリングを活用することで、商品やサービスの認知度を高めることができます。ストーリーテリングは、一般的なマーケティング手法とは異なり、単なるプロモーションではなく、顧客が共感できる情緒的なストーリーを提供します。これにより、人々の記憶に残りやすく、口コミなどによる情報の広がりが期待できます。

 

3. 競合他社との差別化ができる:ストーリーテリングは、商品やサービスの機能面だけでなく、企業や経営者のビジョンや信念を伝えるため、競合他社との差別化にとても有効な手段です。商品やサービスの機能や品質だけでなく、企業や経営者の信念といった価値観に共感する人々が増えることで、企業や経営者のブランド価値を高めることができます。


1.3 具体的な成功事例


海外でこのストーリーテリングを採用する企業が増えてきています。ここではストーリーテリングの成功事例を、少し紹介しておきます。(Googleで検索していただくと、もっとたくさんの成功事例を見ることができます)

 

1. TOMS:TOMSは、靴や眼鏡を製造・販売している企業です。創業者のブレイク・マイコスキー氏は、自身の旅行体験から、貧困や教育の問題に取り組むために起業し、収益の一部が世界中で貧困に苦しむ人々に寄付される仕組みを作っています。TOMSのストーリーは、創業者の経験から生まれた想いを実現するために、どのようにビジネスを展開してきたのか、それらを伝えるものとなっています。

👉 CompanyProfile

 

2. The Honest Company:The Honest Companyは、子供用品や家庭用品を販売する米国の企業です。創業者のジェシカ・アルバ氏は、自分の子供たちには、安全で自然な素材が使われていることを望んでいましたが、自分が求める商品が市場にないことに気づき、自ら会社を立ち上げました。自分の家族のために安全な商品を作りたいと思った気持ちをストーリーで伝えています。

👉 CompanyProfile

 

3. The Body Shop:The Body Shopは、英国の化粧品メーカーで、自然派素材を使用した製品を提供することで知られています。創業者はアニータ・ロディック氏で、「ビジネスには、世界をよくする力がある」というスローガンのもと、商品の開発には動物実験を行わず、また環境保護や人権問題などにも積極的に取り組んでいます。

👉 CompanyProfile

  

さぁ、ストーリーテリングの概略がつかめたところで、この手法のメリットとデメリットを確認していきましょう!



2. ストーリーを作成するにあたって


ストーリーボードで作業をする人の手

2.1 ストーリーの作成で注意すべきこと


ストーリーテリングを具体的に実践するには、以下のようなことに注意を払う必要があります。

 

1. 目的を明確化する:ストーリーテリングを行う前に、ストーリーを伝える目的を明確化する必要があります。目的が定まれば、どのようなストーリーを作り上げなければならないのか、またどのような情報を伝える必要があるのか、それらのことが明確になります。

 

2. ターゲット層を知る:ストーリーテリングを行う前に、自社のターゲット層をよく知ることが大切です。ターゲット層の特性は何か、どのような事に関心を持っているのか、自分たちに対して何を求めているか、それらについて理解することが重要です。これにより、適切なストーリーを作り上げることが可能となります。

 

3. 共感できるストーリーを作る:良いストーリーを作るためには、以下のポイントを押さえる必要があります。

  • 実際の経験を基にストーリーを作る
  • 登場人物を設定し、彼らに感情移入できるようにする
  • 起承転結を持った構成にする
  • ストーリーに企業としてのビジョンや信念を含める

 

4. 視覚化する:ストーリーテリングを行う際には、視覚的な要素を加えることが効果的です。例えば、動画、写真、イラスト、グラフィックス、これらを活用してストーリーを表現すると、共感が得やすくなります。

 

5. ストーリーを伝える:ストーリーを作り上げたら、それをお客様に伝えなければなりません。Webサイト、SNS、ブログ、チラシ、提案書など、適切な方法でストーリーを伝えることが大切です。

  

以上の点に注意を払えば、ストーリーテリングを上手く実践することができます。しかし、ストーリーテリングを行う際には、誤解を招くような情報や、倫理的に問題のある情報を伝えることがないようにすることも、とても重要なポイントです。


2.2 ストーリーの基本構造/プロット構成


ストーリーをいきなり書き始めても、それを完成させるには、かなりの時間と労力がかかります。そのようなときに、プロット構成がとても役に立ちます。プロット構成とは、ストーリーを作成するにあたって、その基本構造や展開を意味する概念です。ストーリーを面白く、共感できるものにするためには、適切なプロット構成が必要不可欠です。

 

プロットの作り方については、さまざまな書籍が出ていますが、私の推薦図書を記載しておきます。ストーリーを作成する前に読んでおくと、とても役立ちます。

  • 書名:SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術
  • 著者:ブレイク・スナイダー
  • Amazon:👉 Link

あと、ストーリーは「企業」にフォーカスを当てるのか、「経営者」にフォーカスを当てるのかで、プロット構成が異なります。参考までに、私が普段使用している、経営者にフォーカスを当てたプロット構成を紹介しておきます。

ストーリーを作成する際のプロット構成の概念図

生い立ち:

 

商品の開発やサービス提供を始めた背景やきっかけを伝えます。なぜこの商品やサービスに取り組むことを決意したのか、その背後にある思いや動機を共有することで、商品やサービスへの情熱や信念が伝わります。

 

決意:

新しいビジネスを始める際には、何かを犠牲にする覚悟が必要です。どのような理由や出来事が、その犠牲を決意させたのかを伝えます。これにより、ビジネスにかける決意の強さや、その裏にあるドラマが浮かび上がります。

 

苦境:

順調に進むように見えた道のりにも、必ず試練が訪れます。見込み違いや予期せぬ出来事で直面した困難や苦境について語りましょう。これにより、現実の厳しさや挑戦への姿勢が際立ちます。

 

助け:

困難な時期には、必ず支えてくれる人々が現れます。家族や友人、同僚など、助けの手を差し伸べてくれた人たちとのエピソードを共有しましょう。人とのつながりの大切さがここで強調されます。

 

成長:

周囲の支えを受けながら、ビジネスが成長していく過程を描きます。どのような出来事や経験を通じて成長を感じたのか、その具体的なエピソードを通じて、成功までの道のりを伝えます。

 

挫折:

成長の過程で、避けられない失敗や挫折に直面することもあります。特に大きな打撃を受けた出来事や、その時の心情を共有し、ビジネスにおける試練の厳しさを描きます。

 

契機:

困難な状況にあっても、再び立ち上がるきっかけとなった出来事や人物が存在します。その契機となったエピソードを通じて、再起への力や希望を伝えます。

 

満足:

ビジネスの成功は、単なる金銭的な利益を超えたものです。人とのつながりや、そこから得られた喜び、そして今後の展望について語ります。これにより、ビジネスの真の価値や意味が明確になります。



3. メリットとデメリット


メリットとデメリット

3.1 メリット


ストーリーテリングを活用することには、多くのメリットがあります。まず、情報の羅列では直ぐに記憶が薄れてしまいますが、ストーリーを通じて情報を提供するれば、長期にわたって記憶に留めもらうことができます。特に感動や共感が伴った場合、より高い効果を発揮します。それでは、どの様なメリットがあるのか、一緒に見ていきましょう。

 

1. 記憶に残りやすい:ストーリーは人々の記憶に残りやすく、単なる情報伝達よりも深く心に響きます。そのため、商品やサービスをプロモーションする際にストーリーを使うことで、お客様がその情報を記憶しやすくなり、印象にも強く残ります。

 

2. 情感を呼び起こす:ストーリーには情感があります。ただ単に情報を提供するだけではなく、お客様の心を動かすことができるため、購買意欲やブランドイメージを向上させることができます。

 

3. 信頼性が高まる:ストーリーは事実だけではなく、その中に人々の感情や経験を含んでいます。そのため、ストーリーを通じて商品やサービスを紹介することで、企業の信頼性や説得力を高めることができます。

 

4. 共感を与える:ストーリーには主人公や登場人物が存在しています。その人たちが置かれている立場やその気持ちに共感することによって、商品やサービスに強い関心を持ってもらうことができます。

 

5. ブランドイメージが向上:ストーリーはお客様が、商品やサービスにに抱く印象を形成するために効果的です。ストーリーを通じて、企業やブランドの価値観や哲学、またその歴史や文化などを伝えることができ、お客様との共感を深めることができます。

 

では次にストーリーテリングを行うにあたって、注意するべきことを見ていきましょう。ストーリーテリングのデメリットとして、いくつかピックアップしました。


3.2 デメリット


1. 偽物のストーリー:ストーリーテリングを用いることで、本当のこととは異なる誤ったストーリーを作ってしまうことがあります。そうなると、お客様からの信頼を失うことになり、企業イメージやブランドを損ねる原因になります。

 

2. 目的がわからないストーリー:ストーリーテリングによって、お客様に何かを伝えようとすることがありますが、目的が明確化していない場合があります。そうなると、お客様がストーリー自体を理解できず、企業のメッセージが伝わらないことがあります。

 

3. 複雑なストーリー:ストーリーテリングを用いることで、複雑なストーリーを作ってしまうことがあります。いろいろな情報を盛り込みすぎて、ストーリーが複雑化してしまうのです。そうなると、お客様がストーリーを理解できず、逆に混乱してしまうことがあります。

 

4. 時間と労力の負担:ストーリーテリングは、時間と労力を必要とします。ストーリーを作るために、企業や商品の歴史を調べたり、社内でインタビューが必要になったります。もちろんストーリーを作成するのにも、時間と労力が必要です。

 

いくつかのデメリットを見てきましたが、事前の準備をさえ怠らなければ、多くの場合、特に問題にはならないでしょう。



4. まとめ


黒いタイプライター

4.1 ストーリーテリングの将来


ストーリーテリングは、企業が顧客にメッセージを伝えるコミュニケーション手段として、今後さらに重要性を増してくるでしょう。企業や経営者のビジョンや信念を、ストーリを通じてより理解を深め、共感をえることに役立ちます。

 

また従来のメディアだけではなく、今後はバーチャルリアリティーなどの新しい技術を取り入れた、より没入感の高いストーリーテリングのツールが出てくるでしょう。

 

ストーリーテリングを実践する際には、自社のブランドやターゲットとする顧客層に合ったストーリーを作成し、ストーリーテリングのプロセスを正確に実践することが重要です。

 

  

・・・中小企業がブランディングする際には、経営者を題材としたストーリーテリングが、絶対にお勧めですよ・・・最初に書きましたね (^^)/