クチコミ客を増やすリファラルマーケティング

スマートフォンをかざす水色の服を着た女性

宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー

SAS Institute、Teradata、Honeywellなどの国際的企業において、アナリティクスサービスのビジネス開発を担当。海外で実績を積んだ最先端のアナリティクス手法を、日本の主要企業に導入。ハイテク、金融、医薬、通信、家電、流通、小売、飲料、食品、通販業界など、幅広い分野の企業に対する支援を行う。アナリティクスの適用範囲は、マーケティング分析、リスク管理、品質管理、需要予測、在庫最適化など多岐にわたる。データ分析とブランド構築の戦略を融合させる新しいアプローチを提供するため、株式会社アルファブランディングを創業。価格競争に陥らない強固なブランド構築をサポートしている。

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今日の論点


報酬を払ってクチコミを増やす

リファラルマーケティングとは、顧客やパートナーからの紹介やクチコミを活用して、新規顧客を獲得するマーケティング手法のことです。

 

ん?・・・クチコミマーケティングと何が違うのかって?

 

あとで詳しく説明しますが、クチコミマーケティングが顧客の自発的なクチコミによって、新規顧客の獲得を狙うのに対して、リファラルマーケティングはインセンティブや報酬によってクチコミを発生させ、新規顧客の獲得を狙います。

 

要するに、何らかの報酬がある場合はリファラルマーケティング、ない場合はクチコミマーケティングということです。

 

それでは早速、リファラルマーケティングのことを、詳しく見ていきましょう。



目次


1. リファラルマーケティングとは?


スマートフォンを見る二人の女性

1.1 リファラルマーケティングは何か?

リファラルマーケティングとは、顧客やパートナーからの紹介やクチコミを活用して、新規顧客を獲得するマーケティング手法のことです。既存顧客が、自分自身が満足した商品やサービスを、友人や知人に対してその自らの経験を語ることで、企業は新規顧客を獲得することができます。ただ特徴的なのは、企業が既存顧客に対してインセンティブや報酬を提供することでです。それでは特徴を詳しく見ていきましょう。

  

1. インセンティブの提供:リファラルマーケティングでは、紹介者(リファラー)に対して何らかのインセンティブ(報酬)を提供することが特徴的です。インセンティブは、現金、ポイント、クーポン、特典など、さまざまな形態で提供されます。これにより、顧客が知人や友人に商品やサービスを勧める動機とすることができます。

 

2. コストの効率化:リファラルマーケティングは、一般的な広告に比べてコストが低く抑えることができます。紹介者に対してインセンティブを提供することで、顧客が自主的にクチコミを広げてくれるため、広告にかけるコストを節約することができます。また、リファラルマーケティングによって獲得される新規顧客は、既存顧客の紹介によるため成約率が高まり、顧客獲得コスト(CAC: Customer Acquisition Cost)の削減が期待できます。

 

3. クチコミの効果:リファラルマーケティングは、顧客が自らの経験をもとに商品やサービスを紹介するため、一般的な広告に比べて信頼性が高いとされています。知人や友人やからの紹介や評価は重要な情報源であり、購入意欲を高める要因となります。

 

4. 顧客ロイヤリティの向上:リファラルマーケティングを実施することで、顧客は自分が紹介した商品やサービスに対して、さらに強い関心や満足感を持つようになります。また、紹介を通じて新たな顧客が獲得されることで、自身の紹介が企業に対して貢献しているという認識が高まり、顧客ロイヤリティの向上が期待できます。

  

リファラルマーケティングを実施する際には、インセンティブ制度を導入することが一般的です。紹介者に報酬や特典を提供することで、積極的に紹介活動を促進し、新規顧客獲得を促すことができます。また、紹介された新規顧客にもインセンティブを提供することで、リファラルマーケティングの効果をさらに高めることができます。


1.2 クチコミマーケティングとの違い

リファラルマーケティングは、主に顧客やパートナーからの紹介を通じて新規顧客を獲得する手法です。企業は、既存の顧客に対してインセンティブや報酬を提供することで、友人や知人に商品やサービスを紹介してもらいます。このプロセスは、紹介者と紹介された新規顧客の両方に対して、報酬が与えられることが一般的です。

 

一方、クチコミマーケティングは、顧客が自発的に商品やサービスについて話すことを促進し、その情報が広まることで新規顧客を獲得する手法です。企業は、顧客に素晴らしい体験や、共感・感動などを提供することで、自然とクチコミが生まれ、広がることを目指します。このプロセスは、紹介者に対して報酬が与えられないことが多いです。

 

両者ともに、信頼性の高い情報源であるクチコミを活用して、新規顧客を獲得する点で共通していますが、リファラルマーケティングはより組織的で報酬制度を含む手法であるのに対し、クチコミマーケティングは自発的なクチコミの広がりを重視した手法であるという違いがあります。


1.3 リファラルマーケティングが注目される背景

インターネットの普及に伴い、顧客の購買行動が変化しています。従来の広告手法だけではなく、信頼性の高い情報源であるクチコミを活用することが求められています。なお、リファラルマーケティングが着目される背景には、以下のような要因が挙げられます。

 

1. 情報過多と信頼性の求められる現代:インターネットの普及により情報があまりにも多く、どの情報を信頼してよいのか判断が難しくなってきています。友人や知人からの紹介は、一般的な広告よりも信頼性が高いため、リファラルマーケティングが注目されています。

 

2. ソーシャルメディアの影響:SNSの普及により、友人や知人から情報を簡単に得ることができるようになりました。その結果、クチコミや紹介が購買行動に大きな影響を与えるようになりました。

 

3. オンラインレビューの影響:オンラインレビューが購買行動に影響を与えるため、企業は顧客満足度を高めることが重要になっています。リファラルマーケティングは、顧客満足度を重視したアプローチであるため、効果的な顧客獲得が期待できます。

 

これらの要因から、リファラルマーケティングは現代の購買行動に適したマーケティング手法として、注目を集めています。



2. リファラルマーケティングの基本戦略


Stragegyと書かれたパズルのピース

2.1 実践するための具体的なステップ

リファラルマーケティングの戦略を立案するにあたって、下記のステップに基づいて検討することをお勧めします。もちろん、企業ごとに置かれている環境が異なりますので、自社の環境に合わせたチューニングが必要になります。

 

1. 目標設定:リファラルマーケティングの目的を明確にし、達成したい具体的な目標を設定します。例えば、新規顧客獲得数、成約率の向上、リピート購入率の向上など、ビジネスに直接貢献する目標を立てると良いでしょう。

 

2. ターゲット顧客の特定:リファラルマーケティングを効果的に行うためには、ターゲット顧客を明確に特定することが大切です。具体的には、顧客の年齢層、性別、地域、興味・関心、購買履歴などを分析し、クチコミや紹介が効果的であると考えられる顧客セグメントを特定しましょう。

 

3. リファラルプログラムの設計:紹介者に対するインセンティブや報酬を設定し、リファラルプログラムの仕組みを作ります。例えば、紹介者に対して、現金や割引クーポン、ポイントなどの報酬を提供することで、積極的に紹介してもらえるようになります。

 

4. プロモーション戦略の策定:リファラルプログラムを顧客に知らせるためのプロモーション戦略を立案します。SNS、Eメール、ウェブサイトでの告知、オフラインイベントなど、ターゲット顧客に合わせたプロモーション手段を選びましょう。

 

5. システムとプロセスの構築:リファラルプログラムの運用に必要なシステムやプロセスを構築します。紹介のトラッキングやインセンティブの支払い、顧客データの管理などが円滑に進むようにしましょう。

 

6. プログラムのローンチ:リファラルプログラムを正式にスタートさせ、それを顧客に周知します。プロモーション戦略に則って、積極的にプログラムをアピールしていきましょう。ローンチ時には、期間限定キャンペーンや特別なインセンティブを提供することで、参加者の興味を引きつけることができます。

 

7. 効果測定と改善:リファラルマーケティングのパフォーマンスを定期的に測定し、改善点を見つけ出します。重要業績評価指標(KPI: Key Performance Indicator)を設定し、目標に対する達成度を確認しながら、プログラムを最適化していきましょう。具体的なKPIとしては、紹介された新規顧客数、成約率、紹介者の数などが挙げられます。

 

これらのステップに沿って、リファラルマーケティングの戦略を立案し、実行することで、効果的な顧客獲得とブランド力向上が期待できます。



3. リファラルマーケティングの活用事例


スマートフォンを持つ紺色の服を着た女性の手元

3.1 具体的な活用事例

リファラルマーケティングの具体的な活用事例をご紹介します。

 

Eコマース業界: Amazon

Amazonでは、「Amazonプライム」を友人や家族に紹介すると、紹介者と紹介された人、両方に対してギフト券がプレゼントされるプログラムが展開されています。これにより、新たな顧客を獲得しつつ、既存顧客のロイヤリティも高めています。

 

金融業界: PayPal

オンライン決済サービスのPayPalでは、友人や家族を紹介して新規登録が完了すると、紹介者にキャッシュバックが与えられるプログラムを実施しています。これにより、クチコミでの新規顧客獲得が促進されています。

 

SaaS業界: Slack

チームコミュニケーションツールのSlackでは、既存ユーザーが新規ユーザーを紹介すると、紹介者に無料利用期間が延長されるプログラムが実施されています。これにより、ユーザー基盤の拡大と顧客満足度の向上が図られています。

 

エンターテイメント業界: Netflix

動画配信サービスのNetflixでは、友人や家族にサービスを紹介し、新規登録が完了すると、紹介者に無料視聴期間が延長されるプログラムが実施されています。これにより、新規顧客獲得と顧客ロイヤリティの向上が図られています。

  

これらの事例からもわかるように、業界やサービスに応じたリファラルマーケティング戦略が展開されており、効果的な顧客獲得とロイヤリティ向上が図られています。



4. リファラルマーケティングのメリットとデメリット


メリットとデメリット

4.1 メリット

リファラルマーケティングのメリットは下記の通りです。

 

1. 高い成約率リファラルマーケティングは、既存顧客からの紹介によるため、新規顧客としては信頼性の高い情報であるため、成約率やリピート購入率が向上します。

 

2. 低い顧客獲得コスト: リファラルマーケティングは、従来の広告に比べて低コストで実施することができます。紹介に対する報酬は成果に応じて支払われるため、無駄な広告費を削減することができます。

  

3. ブランド力の向上:リファラルマーケティングは、紹介によるクチコミ効果があります。良い評判が広がることで、ブランドのイメージが向上し、さらなる新規顧客獲得につながる可能性があります。

 

4. 顧客ロイヤルティの向上:リファラルプログラムに参加することで、既存顧客は報酬や特典を受け取ることができます。これにより、顧客の満足度が高まり、ブランドに対するロイヤルティ(Loyalty)の強化が期待できます。

 

5. 対象顧客の絞り込み:既存顧客が自らのネットワーク内で紹介を行うため、同じ価値観を持ったターゲット顧客に、効果的アプローチできる可能性が高まります。これにより、広告費を無駄にすることなく、効果的な顧客獲得が可能です。

 

これらのメリットを理解し、リファラルマーケティングを戦略的に活用することで、効果的な顧客獲得とブランド力の強化が期待できます。


4.2 デメリット

リファラルマーケティングを実施する際のデメリットを解説します。

 

1. 成果が出るまで時間がかかる:リファラルマーケティングは、既存顧客の紹介活動に依存するため、効果が出るまでの期間が、どうしても長くなります。また、紹介が継続的に行われるかどうかは、顧客の意欲やネットワークに左右されるため、一定の成果を保証することが困難です。

 

2. プログラム管理の負担:リファラルプログラムを運用するには、紹介活動のトラッキングや報酬の支払い、顧客データの管理など、多くの工数がかかります。これらの作業に時間やリソースを割く必要があり、他のマーケティング活動に影響を与えることがあります。

 

3. 報酬制度の設定が難しい:リファラルプログラムの成功には、適切な報酬やインセンティブが不可欠です。しかし、顧客のニーズや期待に応じた報酬制度を設定することは容易ではありません。過剰な報酬を提供すると、コストが増えるだけでなく、顧客の期待値も高まってしまうリスクがあります。

 

4. 詐欺や悪用のリスク:リファラルプログラムは、詐欺や悪用が発生する可能性があります。不正な方法で紹介報酬を得ようとする人がいるため、プログラムの運用や管理に注意が必要です。また、悪質な紹介行為によってブランドイメージを棄損するリスクもあります。

 

これらのデメリットを理解し、適切な対策を講じることで、リファラルマーケティングを効果的に活用することが可能です。慎重なプログラム設計や運用管理を行い、メリットを最大化しながらデメリットを最小限に抑えることが重要です。



5. リファラルマーケティングの急所


解決策を見つけた女性

5.1 リファラルマーケティングではココを抑えろ!

リファラルマーケティングを実践する上で、最も重要なポイントは、「顧客との信頼関係の構築」です。どうしても特徴である報酬プログラムに目が行ってしまいがちですが、その報酬プログラムを設定する理由は、顧客との信頼関係の構築にあるからです。

 

また、顧客からの紹介を成功させるためには、まず顧客が自社の商品やサービスに十分満足し、ブランドに対して信頼感を持っていることが不可欠です。顧客が信頼を寄せるブランドであれば、友人や知人に紹介しやすくなり、リファラルマーケティングが効果的に機能します。信頼関係を築くためには、以下の点に注意して取り組みましょう。

 

1. 高品質の商品やサービスを提供する:顧客が満足できる品質を維持するために、商品やサービスの開発・改善に努めましょう。品質管理や品質保証を徹底し、顧客の期待を裏切らないことが重要です。また、企業のビジョンや信念を合わせて伝えることで、顧客からの共感を生み、競合他社との差別化を図ることにつながります。

 

2. 顧客サポートの向上:顧客からの問い合わせや苦情に対して、迅速かつ丁寧に対応することが求められます。顧客サポートチームをトレーニングし、対応の質を高めることで、顧客の問題解決をサポートし、信頼感を高めます。また、顧客サポートを組織的に実施するために、システム化の検討も重要な要素となってきます。

  

3. 透明性のある情報提供:企業の取り組みや価値観、商品やサービスの情報を正確かつ分かりやすく伝えることで、顧客との信頼関係を築きます。ウェブサイトやSNSなどで、企業のビジョン、信念、価値観、製品開発の背景などを発信しましょう。また、顧客からの質問や疑問に対しても、適切かつ透明性のある回答が必要です。

 

4. 顧客とのコミュニケーション:顧客と定期的にコミュニケーションを行い、フィードバックを活用してサービスを改善することで、顧客との信頼関係を強化します。EメールやSNSなどを活用して、定期的にアンケート調査などを行い、顧客の声を聞くことが重要です。また、オフラインイベントやセミナーなどで直接顧客と交流する機会を設けることも効果的です。

 

これらの取り組みを通じて、顧客との信頼関係を構築し、リファラルマーケティングを成功させる基盤を築くことが最も重要なポイントです。



6. まとめ


まとめを指さす女性

6.1  リファラルマーケティングの今後の可能性

リファラルマーケティングの今後の可能性について、以下のポイントが考えられます。

 

1. オムニチャネル戦略の重要性:顧客はオンライン・オフラインの両方で購買行動を行うため、リファラルマーケティングもオムニチャネル戦略に適応する必要があります。オンラインとオフラインで一貫したリファラルプログラムを展開し、顧客の利便性を向上させることで、リファラルマーケティングの可能性が拡大するでしょう。

 

2. パーソナライゼーションの進化:それぞれの顧客に合わせた報酬を提供することで、リファラルプログラムの効果が高まります。顧客のニーズや好みを理解し、パーソナライズされたリファラルマーケティングを展開することで、紹介数や成果が向上するでしょう。

 

3. テクノロジーの進化:AIやデータ解析技術の進化により、リファラルプログラムの運用や管理がより効率的かつ効果的になっていくでしょう。顧客の購買行動データや属性データをもとに、紹介活動に適した顧客を特定し、適切な報酬やキャンペーンを展開することができるようになるでしょう。

  

これらの要素を踏まえ、リファラルマーケティングは今後も消費者の購買行動や企業のマーケティング戦略において重要な役割を果たすと考えられます。企業は、テクノロジーやマーケットの変化に柔軟に対応しながら、リファラルマーケティングを効果的に活用することが求められます。