飲食店の売上はバイトで決まる

木のフォークとヘラを持った飲食店の女性従業員

宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー

SAS Institute、Teradata、Honeywellなどの国際的企業において、アナリティクスサービスのビジネス開発を担当。海外で実績を積んだ最先端のアナリティクス手法を、日本の主要企業に導入。ハイテク、金融、医薬、通信、家電、流通、小売、飲料、食品、通販業界など、幅広い分野の企業に対する支援を行う。アナリティクスの適用範囲は、マーケティング分析、リスク管理、品質管理、需要予測、在庫最適化など多岐にわたる。データ分析とブランド構築の戦略を融合させる新しいアプローチを提供するため、株式会社アルファブランディングを創業。価格競争に陥らない強固なブランド構築をサポートしている。

宮崎祥一のプロフィール写真


今日の論点


店舗経営における社内トレーニング

多くのお店は、クーポンやチラシなど、販促ツールを使った外部向けのプロモーション活動には積極的なのですが、社員トレーニングなど内部向けの活動には消極的です。

 

お客様がお店の良し悪しを判断する際には、商品の良し悪しもさることながら、従業員の接客も大きなウェイトを締めています。今回は社内向けのトレーニングについて考えてみたいと思います。

 

(そう言えば、以前、息子がアルバイトをしていた、イタリアンレストランは、隔月だけど講師を招いてトレーニングにしてたなぁ。)



目次


1. バイトに頼らざるを得ない飲食業界の構造


笑顔で接客をする飲食店の女性従業員

1.1 深刻な人手不足

帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査(2018 年 1 月)」によると、非正社員の人手が最も不足していると感じている業種は「飲食店」であり、実に「74.3%」にも上っています。2018年以前の調査を見ても、同様の結果が出ており、飲食業界では慢性的に人手不足が続いています。

 

統計情報を見るまでもなく、飲食店の経営者であれば、アルバイトやパートタイマーの確保について、頭を悩ませているでしょう。日本人だけではなく外国人も採用しなければ、現実問題としてお店が回って行かないと感じているはずです。


1.2 飲食店は付加価値額が低い

2018年中小企業白書 付加価値額と産業

これは2018年中小企業白書から「中小企業の時間当たり労働生産性」の数値を基に作成したグラフです。

 

他の産業と比較して、飲食サービス業の付加価値額(※)が著しく低いことが解ります。簡単に言うと利益を出しづらい産業だと言うことです。

 

従って労働力も正社員ではなく、より賃金の安いアルバイトやパートタイマーと言った非正社員に頼らざるを得ないのです。

 

またせっかく採用しても、賃金が安く人手が不足している売り手市場ですので、嫌な職場であれば直ぐに他のお店に移ってしまいます。

 

採用する側としては、アルバイトの面接に来た人は、取り敢えず採用にして、あとはシフトを組むときに、個別に調整すれば良いと考えているでしょう。

 

(※)付加価値額=労務費+売上原価の減価償却費+人件費+地代家賃+販売費及び一般管理費の減価償却費+従業員教育費+租税公課+支払利息・割引料+経常利益



2. 顧客接点の大部分はバイトが担っている


フライパンで料理を作るシェフの手元

2.1 バイトのポテンシャルは非常に高い

ここでアルバイトやパートタイマーの能力について考えてみましょう。

 

アルバイトの多くは大学や短大に通っている学生です。数年後には社会人となって、この日本を支えていく人材となります。ポテンシャルは非常に高いと言えます。

 

またパートタイマーの多くは主婦です。彼女たちの多くが家庭に入る前は、社会人としてバリバリ仕事をしていたのです。当然、新入社員研修を始めとした、各種のトレーニングを受けてきています。こちらはポテンシャルに加えて、基礎的なトレーニングも既に完了しているのです。


2.2 美味しい料理だけで評価は上がらない

しっかりと仕事を教えて、やりがいを感じる環境を整えさえすれば、アルバイトやパートタイマーはあなたの想像を超える働きを見せるのですが、多くのお店の場合、それが出来ていません。

 

なぜかというと、経営者であるあなたが「美味しい料理を出していれば、お店は繁盛する」と考えているからです。

 

仮にあなたがイタリアン・レストランのオーナーシェフだとしましょう。あなたは知恵を絞って、季節ごとにさまざまな料理を提供しています。そこであなたはこう思う。

 

「お客様は、私の作る美味しい料理を食べに来ている」

 

残念ながら、その仮説は正しくありません。隅のテーブルに座っている若いカップルは「デート」をするために来店していますし、中央のテーブルに座っている家族は「誕生日のお祝い」で来店しています。あなたの作る「美味しい料理」は、「デート」や「誕生日のお祝い」を構成する要素のひとつでしかないのです。

 

美しく磨き上げられたグラス、親しみやすいウエイトレス、綺麗に清掃されたトイレ、丁寧なお見送り・・・その他にも構成要素はたくさんあります。

 

これらを準備してお客様へ提供しているのは、アルバイトとパートタイマーなのです。

 



3. 「信念」を共有してベクトルを合わせる


飲食店従業員の男女

3.1 バイトへのトレーニングこそが成功の鍵

アルバイトやパートタイマーが、いかに顧客の満足度に寄与するのか、ご理解いただけたと思います。では、どのようにトレーニングすればいいのでしょうか。

 

作業の手順などのトレーニングは、いままで通りで問題ありません。重要なことは、仕事に対する「モチベーションの管理」です。

 

このモチベーションが低いと「バイトテロ」と呼ばれるような、不適切な行為をネットで公開する従業員が増えてしまいます。モチベーションを高めるためのトレーニングが必要なのです。自分で考えて自分で行動するための環境作りが大切です。 

 

店長から指示をされて嫌々やる仕事と、自分で考えて自分で行動する仕事とを比較すると、どちらのクオリティが高いのかは言うまでもありません。自分で考えて自分で行動する。これはとても大切なことです。

 

ただこれは何でも好き勝手にやらせていいと言うことではありません。お店として守ってもらう指針は明確にしておく必要があります。その指針に基づいて判断・行動してもらうのです。このようなトレーニングをインナーブランディングと呼びます。

 

具体的にはお店としての「信念」を共有することから始めます。なぜこのお店があるのか、お客様に対してどのような価値を提供するのか、全ての従業員が同じマインドを持って行動するための「信念」を共有するのです。

 

マニュアルには誰にでもできることが書かれています。そこに書かれていることを実行しても、ヤル気は起きません。お店の信念に基づいて、自分で考えて自分で行動する。このことがヤル気を生むのです。

 

普段はお客様を集めるための販売促進に目が行きがちですが、「信念」で社員のベクトルを合わせるインナーブランディングについても、同じぐらい大切です。あなたのお店でも「信念」の共有化について取り組んでみてはいかがでしょうか。



4. まとめ


横に水路があるレストランのテーブルと椅子

4.1 バイトテロの続発には訳がある

就業中の不適切な行為をネットで公開する「バイトテロ」と呼ばれる行為が続発しています。これは会社が従業員を「モノ」として扱うために、仕事に対するモチベーションが上がらず、面白半分にやってしまうのです。

 

企業側としては、外部向きの販売促進ばかり考えるのではなく、内部向きのインナーブランディングにも力を注がなければ、この「バイトテロ」によって、一夜にして閉店を余儀なくされるなどという事態にも発生しかねません。

 

お店の「信念」を従業員に伝えて、モチベーションを上げておくことはとても大切です。

 

(大切なのは仲間意識・・・でしょうかね。)