
宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー
SAS Institute, Avanade, Teradataといった外資系アナリティクス企業でビジネス開発分野に携わりながら、海外で実績のある先進的なアナリティクス手法を日本の国内大手企業に導入することに成功。これらの企業はハイテク、通信、家電、金融、流通、小売、飲料、食品、通販業界など多岐にわたり、プロジェクト内容も購買行動分析、顧客接点分析、需要予測、在庫最適化といった幅広いテーマをカバー。2011年には株式会社アルファブランディングを設立し、データ分析とブランド構築の戦略を融合させることで、企業の競争力を強化するサポートを行っている。

今日の論点
生物に学ぶニッチ戦略
今回のテーマは「ニッチ戦略」です。もともと生物学で使われていた用語なのですが、いつの間にかマーケティングでも使われるようになりました。
生物学におけるニッチ戦略を知ることが、ビジネスにおけるニッチ戦略を知ることに役立つと考えています。今回は植物と昆虫のニッチ戦略から入っていきたいと思います。
・・・最初はカブトムシがトップ画像だったのですが、ちょっとグロいのでキツネにしてみました。キツネのニッチ戦略は、最後のまとめで少し解説しています (^^)
目次
1.1 ニッチ戦略とはなにか?
1.2 植物のニッチ戦略
1.3 昆虫のニッチ戦略
2. マーケティングにおけるニッチ戦略の成功事例
2.1 マーケティングにおけるニッチ戦略
2.2 カーブスの事例
2.3 ブシロードの事例
3. まとめ
3.1 小さなニッチでナンバーワンを目指せ!
1. 自然界のニッチ戦略

1.1 ニッチ戦略とはなにか?
「ニッチ(niche)」とは、美術品や花瓶などを飾るために、壁面に作られた「くぼみ」のことです。本来は西洋の教会などに、よく見られる様式だったのですが、現代の住居にも取り入れられる様になりました。あなたのご自宅にもあるかもしれません。私の家にはありませんが。
マーケティングでも「ニッチ戦略」という言葉をよく使いますが、もともとは生物学の用語で、棲み分けなどの生態系を説明する際に使われます。
上記の写真では1つのニッチに2つのモノが置かれていますが、自然界においては、1つのニッチに1つの種しか存在し得ません。2つの種が重なり合うことはないのです。もし重なってしまうと、そこでは激しい生存競争が始まり、どちらかが淘汰されるまで続きます。いうなれば、自然界はナンバーワンの集まりなのです。
それではまず、植物のニッチ戦略から見ていきましょう。
1.2 植物のニッチ戦略

植物が生きてくい上で、大切なものが3つあります。それは、太陽光、水、そして土です。その中でも太陽光の奪い合いが、最も熾烈を極めます。この写真には、大きな樹木が写っていますが、中間サイズの樹木はほとんど写っていません。太陽光の奪い合いに負けて淘汰されたのです。
一方、この太陽光の奪い合いに対して、ニッチ戦略を仕掛けたのが、地面に生えている草です。幹を作って上を目指すのではなく、そのエネルギーを使って葉を広げ、地面を覆い尽くす戦略です。これにより、木漏れ日を効率よく集めることが出来ます。
1.3 昆虫のニッチ戦略

植物の次は昆虫のニッチ戦略を見ていきましょう。
カブトムシのオスは、クヌギやコナラといった樹木をテリトリーにしています。樹液を吸うために、テリトリーに入ってきたメスと交尾をして繁殖するのです。もしそのテリトリーに別のオスが侵入した場合には、激しい戦いとなります。その戦いで勝敗を分ける最大の要因は「体の大きさ」です。
当然体の大きい方が有利であるため、大きなカブトムシだけ生き残ります・・・と言いたいところなのですが、実際には小さなカブトムシもかなりの割合で存在しています。
中間サイズのカブトムシは、果敢にも大きなカブトムシに戦いを挑むのですが、残念ながら破れて淘汰されてしまいます。しかし、小さなカブトムシは戦いを挑みません。通常、カブトムシのオスは明け方に活動するのですが、この小さなカブトムシは深夜に活動します。大きなカブトムシが土に潜って寝ている間に活動し、樹液を吸いメスを見つけて交尾をするのです。時間をズラすことが、小さなカブトムシの生き残り戦略なのです。
2. マーケティングにおけるニッチ戦略の成功事例

2.1 マーケティングにおけるニッチ戦略
マーケティングにおける「ニッチ」とは、消費者を限定し、その潜在的な課題を解決することで、特別な地位を獲得することを指しています。潜在的な課題であるため、大企業はその市場規模を無視するか、過小評価する傾向にあります。そのため、中小企業であっても、その市場を専有することが可能なのです。
要は大企業との真っ向勝負を避けて、小さい市場でナンバーワンになるという戦略です。ランチェスター戦略と同じ様な考え方だと言うと、解りやすいかも知れません。
少し話がそれますが、このランチェスター戦略は海外のビジネスマンはほとんど知りません。海外にはマイケル・ポーター氏を始めとする戦略論の大家が数多くいるために、ランチェスター戦略が参入できるニッチが存在していないのだと思います。
ちなみに、いま日本のAmazon.co.jpで「ランチェスター戦略」を検索すると322件ヒットしますが、米国のAmazon.comで「Lanchester strategy」で検索しても13件しかヒットしません。
さて話を戻しましょう。これからみなさんに2件ほど、マーケティングにおけるニッチ戦略の事例をご紹介します。
2.2 カーブスの事例
「カーブス(Curves)」とは、米国テキサス州に本社を置くフィットネスクラブです。全世界に展開をしており、日本では株式会社カーブスホールディングスがビジネスを展開しており、東証一部に上場しています。
このカーブスは、中高年の女性にだけにターゲットを絞り込み、カラダを鍛えるのではなく、健康を維持するためのサービスを提供しています。
女性専用のフィットネスクラブですので、化粧や服装に気を使う必要はありません。また健康維持を目的としているため、プログラムも1回30分と短めの設定です。予約の必要もないため、空いた時間に気軽に通うことが出来ます。
顧客を絞り込み、そのターゲット層が求めているサービスを提供することで、急成長を果たしています。
2.3 ブシロードの事例
トレーディングカードゲームをご存知でしょうか。専用のカードを用いて行うゲームのことで、ポケモンカードや遊戯王カードなどを、見たことがある方も多いと思います。ブシロードは、このトレーディングカードゲームのリーディングカンパニーであり、企画・開発・販売などを手掛けています。
トレーディングカードゲームというビジネスは、大手企業はあまり手を出してこない分野なのですが、それには2つの理由があります。
1つ目はビジネスのスタート時に、多額の費用がかかるということです。トレーディングカードゲームのプロモーションは、まず全国でイベントを開催するところから始まります。多額の広告宣伝費をかけて人を集め、ゲームのルールを覚えてもらわなければなりません。全く売上がない状態のときに、先行で多額の費用かかることになります。
2つ目はゲームを普及させるのに、手間がかかるということです。友達同士で遊ぶだけれあれば、いつまで経ってもゲームは普及しません。当然、売上も伸びなくなるということです。ユーザーを増やすために、各地域ごとにコミュニティーを作り、それを運営していく必要があるのです。非常に手離れの悪いビジネスだということです。
初期段階で多額の費用がかかり、ビジネスがスタートした後も手間がかかるというのでは、大手企業は参入してきません。ブシロードはこのニッチを狙って成功を収めています。
3. まとめ

3.1 小さなニッチでナンバーワンを目指せ!
小さなニッチでナンバーワンにならなければ、生き延びることが出来ない。これが自然界の掟です。ニッチは往々にして厳しい環境であるため、その環境になんとか適応しなければならないのですが、その適応戦略は多岐にわたっています。
ビジネスにおいても、ニッチ市場は同様に厳しい環境なのですが、そこにある潜在的な課題を解決する方法も、同じように多岐にわたっています。ビジネスの場合、自然界のように淘汰されることはないまでも、ナンバーツー以下では経営が苦しくなることは、間違いありません。小さな市場でナンバーワンになる、これこそが最も大切なことなのだと思います。
ちなみにトップ画像はキツネです。キツネはタヌキと同じ生活圏なのですが、食べているものが違います。キツネはネズミなどの小動物を狩りますが、タヌキは狩りをせずに落ちているものを食べます・・・まぁ、この豆知識を知ったところで、使い道はなさそうですけど。