ナンバーワン以外は全て淘汰される

雪の中に座り込むキタキツネ

宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー

SAS Institute、Teradata、Honeywellなどの国際的企業において、アナリティクスサービスのビジネス開発を担当。海外で実績を積んだ最先端のアナリティクス手法を、日本の主要企業に導入。ハイテク、金融、医薬、通信、家電、流通、小売、飲料、食品、通販業界など、幅広い分野の企業に対する支援を行う。アナリティクスの適用範囲は、マーケティング分析、リスク管理、品質管理、需要予測、在庫最適化など多岐にわたる。データ分析とブランド構築の戦略を融合させる新しいアプローチを提供するため、株式会社アルファブランディングを創業。価格競争に陥らない強固なブランド構築をサポートしている。

宮崎祥一のプロフィール写真


今日の論点


生物に学ぶニッチ戦略

今回のテーマは「ニッチ戦略」です。もともと生物学で使われていた用語なのですが、いつの間にかマーケティングでも使われるようになりました。

 

生物学におけるニッチ戦略を知ることが、ビジネスにおけるニッチ戦略を知ることに役立つと考えています。今回は植物と昆虫のニッチ戦略から入っていきたいと思います。

 

・・・最初はカブトムシがトップ画像だったのですが、ちょっとグロいのでキツネにしてみました。キツネのニッチ戦略は、最後のまとめで少し解説しています (^^)



目次


1. 自然界のニッチ戦略


壁のニッチと2つのオブジェ

1.1 ニッチ戦略とはなにか?

「ニッチ(niche)」とは、美術品や花瓶などを飾るために、壁面に作られた「くぼみ」のことです。本来は西洋の教会などに、よく見られる様式だったのですが、現代の住居にも取り入れられる様になりました。あなたのご自宅にもあるかもしれません。私の家にはありませんが。

 

マーケティングでも「ニッチ戦略」という言葉をよく使いますが、もともとは生物学の用語で、棲み分けなどの生態系を説明する際に使われます。

 

上記の写真では1つのニッチに2つのモノが置かれていますが、自然界においては、1つのニッチに1つの種しか存在し得ません。2つの種が重なり合うことはないのです。もし重なってしまうと、そこでは激しい生存競争が始まり、どちらかが淘汰されるまで続きます。いうなれば、自然界はナンバーワンの集まりなのです。

 

それではまず、植物のニッチ戦略から見ていきましょう。


1.2 植物のニッチ戦略

林

植物が生きてくい上で、大切なものが3つあります。それは、太陽光、水、そして土です。その中でも太陽光の奪い合いが、最も熾烈を極めます。この写真には、大きな樹木が写っていますが、中間サイズの樹木はほとんど写っていません。太陽光の奪い合いに負けて淘汰されたのです。

 

一方、この太陽光の奪い合いに対して、ニッチ戦略を仕掛けたのが、地面に生えている草です。幹を作って上を目指すのではなく、そのエネルギーを使って葉を広げ、地面を覆い尽くす戦略です。これにより、木漏れ日を効率よく集めることが出来ます。


1.3 昆虫のニッチ戦略

カブトムシの大きさを比較した絵

植物の次は昆虫のニッチ戦略を見ていきましょう。

 

カブトムシのオスは、クヌギやコナラといった樹木をテリトリーにしています。樹液を吸うために、テリトリーに入ってきたメスと交尾をして繁殖するのです。もしそのテリトリーに別のオスが侵入した場合には、激しい戦いとなります。その戦いで勝敗を分ける最大の要因は「体の大きさ」です。

 

当然体の大きい方が有利であるため、大きなカブトムシだけ生き残ります・・・と言いたいところなのですが、実際には小さなカブトムシもかなりの割合で存在しています。

 

中間サイズのカブトムシは、果敢にも大きなカブトムシに戦いを挑むのですが、残念ながら破れて淘汰されてしまいます。しかし、小さなカブトムシは戦いを挑みません。通常、カブトムシのオスは明け方に活動するのですが、この小さなカブトムシは深夜に活動します。大きなカブトムシが土に潜って寝ている間に活動し、樹液を吸いメスを見つけて交尾をするのです。時間をズラすことが、小さなカブトムシの生き残り戦略なのです。



2. マーケティングにおけるニッチ戦略の成功事例


汗を拭く女性

2.1 マーケティングにおけるニッチ戦略

マーケティングにおける「ニッチ」とは、特定の消費者層に焦点を当て、その潜在的な課題を解決することで、独自の地位を確立することを指します。大企業はこのような潜在的な市場規模を無視したり、過小評価したりする傾向があるため、中小企業でもこの市場を専有することが可能です。

 

要するに、大企業との直接対決を避け、小規模な市場でナンバーワンになる戦略です。これはランチェスター戦略と似た考え方と言えるでしょう。

 

少し話がそれますが、このランチェスター戦略は海外ではほとんど知られていません。海外にはマイケル・ポーター氏を始めとする多くの戦略論の大家が存在するため、ランチェスター戦略が参入できるニッチがないのだと思います。

 

ちなみに、日本のAmazon.co.jpで「ランチェスター戦略」を検索すると365件ヒットしますが、米国のAmazon.comで「Lanchester strategy」を検索しても16件しかヒットしません。

 

さて話を戻しましょう。これからみなさんにマーケティングにおけるニッチ戦略の事例をご紹介します。


2.2 カーブスの事例

「カーブス(Curves)」とは、米国テキサス州に本社を置くフィットネスクラブで、全世界に展開しています。日本では株式会社カーブスホールディングスが運営しており、東証一部に上場しています。

 

カーブスの特徴は、中高年の女性にターゲットを絞り込んでいる点です。カーブスは単に体を鍛えるだけではなく、健康を維持するためのサービスを提供しています。女性専用のフィットネスクラブとして、利用者は化粧や服装に気を使う必要がなく、リラックスして利用できる環境が整っています。

 

カーブスのプログラムは、健康維持を目的としており、1回30分と短めの設定になっています。この短時間でのトレーニングは、忙しい中高年の女性でも無理なく続けられる工夫です。また、予約の必要がないため、空いた時間に気軽に通える点も人気の理由の一つです。

 

カーブスは、特定の顧客層に絞り込むことで、その層が求めているサービスを的確に提供しています。この戦略が功を奏し、急成長を果たしています。例えば、日本国内では、短期間で全国に数百店舗を展開し、多くの女性に支持されています。

 

さらに、カーブスは健康維持を重視するだけでなく、利用者同士のコミュニケーションやサポートも大切にしています。これにより、利用者はフィットネスだけでなく、心の健康も維持できる環境が整っています。

 

このように、カーブスは顧客を絞り込み、そのターゲット層が求めるサービスを提供することで、フィットネス業界において特別な地位を確立しています。



3. まとめ


道を歩く女性の足元

3.1 小さなニッチでナンバーワンを目指せ!

小さなニッチでナンバーワンにならなければ、生き延びることが出来ない。これが自然界の掟です。ニッチは往々にして厳しい環境であるため、その環境になんとか適応しなければならないのですが、その適応戦略は多岐にわたっています。

 

ビジネスにおいても、ニッチ市場は同様に厳しい環境なのですが、そこにある潜在的な課題を解決する方法も、同じように多岐にわたっています。ビジネスの場合、自然界のように淘汰されることはないまでも、ナンバーツー以下では経営が苦しくなることは、間違いありません。小さな市場でナンバーワンになる、これこそが最も大切なことなのだと思います。

 

---

ちなみにトップ画像はキツネです。キツネはタヌキと同じ生活圏なのですが、食べているものが違います。キツネはネズミなどの小動物を狩りますが、タヌキは狩りをせずに落ちているものを食べます・・・まぁ、この豆知識を知ったところで、使い道はなさそうですけど。