フレームワークを使いこなせない理由

パソコンの前で頭を抱える女性

宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー

SAS Institute、Teradata、Honeywellなどの国際企業でアナリティクスのビジネス開発に携わった経験を活かし、オーセンティックマーケティングを通じて、価格競争に陥らない強いブランド作りを支援しています。オーセンティックマーケティングは、企業が本質的な価値を顧客に伝え、持続可能な成長を目指すための戦略です。このブログでは、そうした戦略や実践例を詳しく解説しています。

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今日の論点


フレームワークは役に立つのか?

事業計画やビジネスプランを立てる際に「フレームワーク」を使うことが少なくありません。その時に「使いにくい・・・。」と思ったことはありませんか。

 

「なぜこの4つに分けるの?」

「取り合えず枠を埋めてみたけど、この後はどうするの?」

「アクションプランって、この表からどうやって作るの?」

 

みなさんのお苛立ちは、ごもっともでございます。

 

最後まで読み進めていただければ、取り合えずスッキリと寝ることができると思いますので、しばらくお付き合いください。

 

今回の議題は「フレームワーク」です。



目次


1. フレームワークとは


SWOT分析のCGをそれを指さす男性

1.1 フレームワークとは何か

フレームワークとは、ある分野でよく使われる考え方や手法を体系化し、標準化したものであり、その分野での問題解決や戦略立案などを支援する役割を果たします。

 

マーケティングの分野では、下記のようなフレームワークがよく使用されています。各要素の関係性や組み合わせによって、マーケティング戦略を立案するのに活用されているのです。有名なフレームワークを、いくつか見てみましょう。

 

SWOT分析:

  • Strengths(強み)
  • Weaknesses(弱み)
  • Opportunities(機会)
  • Threats(脅威)

 

4P分析:

  • Product(商品)
  • Price(価格)
  • Place(流通チャネル)
  • Promotion(販促)

 

5C分析:

  • Company(企業)
  • Customers(顧客)
  • Competitors(競合他社)
  • Collaborators(協力者)
  • Context(市場環境)

 

まだまだありますが、書ききれないですし、見たくもないでしょうから、これぐらいにしておきます。


1.2 フレームワークを上手く使いこなせない

フレームワークについては、特に「分類」について疑問を持つ方が多いのではないでしょうか。なぜこの4つに限定したのか、他にも検討するべき要素があるのではないか、考えれば考えるほど、疑問が深まってしまいます。

 

特に普段からMECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive / 漏れなく ダブりなし)を心がけている人にとっては、この違和感は簡単には拭い去れません。

 

ただ、みなさん口を揃えて「フレームワークは使いづらい」というのですが、取り合えず使ってさえおけば、それなりにプランの体裁が整いますので、仕方がなく使っているのではないでしょうか。

 

もちろんこのような疑問を感じながら、無理やりフレームワークを使ってみても、分析や対策について自信が持てませんし、その結果に関しても、大きな期待を持つことができません。

 

また、役に立っていないものを、あたかも役に立っているかのように振る舞う茶番劇に参加するのは、全く時間の無駄だと感じても致し方ありません。

 

おっと、皆さんの言いたいことはわかります。

「お前はどうなのか!?」ですよね。

 

私はフレームワークをよく使用します。書類の体裁を整えるためではありません。それを使った方が仕事の精度が上がりますし、時短にもつながるからです。私あなたの違いは、フレームワークの使い方を知っているかどうかだけです。

 

次の章では、このフレームワークを上手く使える人と、上手く使えない人の違いを明らかにしていきたいと思います。



2. 抽象化のプロセスの有無


パソコンを操作する笑顔の白い服の女性

2.1 フレームワークの使いどころ

いきなり結論を書いてしまいますが、フレームワークを上手く使える人と、そうでない人の差は、思考のプロセスに抽象化があるかどうかです。上手く使えない人の思考プロセスには、具体的な事実があるだけで、抽象化がありません・・・これが全てです。

 

抽象化を解りやすく解説するために、フレームワークを上手く使える人が、フレームワークを使わなかった場合、どのような思考プロセスをたどってプランを立てるのかを見ていきましょう。

 

  1. 事実を集める
  2. 事実を分類する
  3. 分類したものに優先順位をつける
  4. 抽象化モデルをつくる
  5. 抽象化モデルをもとに改善案を考える
  6. 改善案を具体的なアクションプランに落とし込む

 

フレームワークを上手く使いこなせる人は、このプロセスの2と3でフレームワークを使用します。

 

フレームワークは事実を分類するために必要な「観点」を提供してくれます。この観点とは、事実を分類するための「分類枠」と「優先順位」のことです。

 

SWOT分析には、Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の4つの観点があります。当然、これ以外にも様々な観点が考えられるのですが、それらはスッパリ切り捨てられているのです。枝葉を切り捨てることによって、幹の部分がより明確になるというわけです。

 

次にフレームワークを使った後の、抽象化のプロセスについて、詳しく見ていきましょう。


2.2 なぜ抽象化が必要なのか

そもそも事実をフレームワークに基づいて分類するのは、抽象化モデルを作るためです。では、なぜ抽象化モデルを作るのかというと、実行可能な選択肢を増やすためです。詳しく見ていきましょう。

 

ポチ ⇔ 柴犬 ⇔ 犬 ⇔ 哺乳類 ⇔ 生物

 

左に行けば行くほど具体的になり、自由度が減ります、逆に右に行けば行くほど抽象的になり、自由度が増えます。

 

ポチのエサを考える場合、好き嫌いが激しいので〇〇社のドッグフード一択なのかもしれません。具体的である分、その選択肢が大幅に減ってしまいます。

 

もう少し抽象度を上げてみましょう。柴犬のエサを考えるのなら、中型犬用のドッグフードとなり、選択肢が少し広がります。さらに抽象度を上げて犬のエサを考えるのでしたら「中型犬用の」という枠がなくなりますので、さらに選択肢が広がるというわけです。

 

抽象化すると選択肢の幅が広がりますので、それに伴って改善案の幅も広がることになります。党是、改善できる確率も高くなります。これがフレームワークを上手く使える人の思考プロセスです。

 

フレームワークを上手く使いこなせる人は、フレームワークを使わなくとも、抽象化のプロセスによって結論を導き出せます。ただフレームワークを使った方が、ゼロから考えるよりも手間が減りますし、時短にもなるので使っているというだけのことです。


2.2 フレームワークが苦手な人の思考プロセス

部長「最近、シニア層からの問い合わせが増えているようだが。」

社員「それではシニア層に向けて、広告を出しておきます。」

部長「おぉ、そうしてくれたまえ。」

 

「シニア層からの問い合わせが増えている」という具体的な事実に対して、脊髄反射のごとく「シニア層に向けて広告を出す」という具体的なアクションに飛びついています。たぶん二人とも、フレームワークを上手く使いこなせないタイプの人だと思います。

 

問い合わせが増えているのは、一過性のものなのかもしれませんし、それを判断するには、さらに事実を集める必要があります。仮に一過性のものではないとするならば、その新たな兆候を引き起こした構造的な変化があるわけですから、既存の抽象化モデルの修正を検討しなくてはいけません。広告出すなどといったような具体的なアクションは、ずっと後に検討するべきものです。

 

仮にこのような人たちがSWOT分析のフレームワークを使う場合、どのようなプロセスを取るのか、念のために確認しておきましょう。

 

  1. SWOTが提供する分類項目(※)の確認
  2. 分類項目を埋めるための具体な例を探す
  3. 4つの分類項目を組み合わせてプランを立てる

(※)Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)

 

実際に起こっている事実を集めて分類をするのではなく、SWOTが提供している分類枠に合致する事実だけを集めてきて、プランを立てています。ここまでで読んでこられた方であれば、このプランがあまり役には立たないことを、感じ取っていただけると思います。

  

逆に言うと、役に立たないと感じるあなたは、既にフレームワークを使いこなすための知識を持っているということでもあります。あとは実践経験を積みさえすれば、フレームワークを使いこなせるようになります。 



3. まとめ


打ち合わせをする5人の男女

3.1 経験値を増やし続ける

抽象化のプロセスを経ずに、具体的な事実から具体的なアクションプランを導き出してしまうと、そのアクションが上手くいかなかった場合、全く修正が効きません。全て捨て去ってしまい、見なかったことにするほかないのです。常に改善を図っていくには、抽象化のプロセスは必須だと考えてください。

 

ビジネスシーンでは、よく「経験値」という言葉が使われます。この経験値は、抽象化のプロセスを行った回数で決ままる、そういっても過言ではないと私は考えています。抽象化しないビジネスプロセスを10年続けても、1年の経験値を10回繰り返しただけで、10年分の経験値があるとは言いません。

 

ただ、この抽象化のプロセスを身につけるには、自分自身の思考癖を修正する作業ですので、慣れるのに少し時間が必要です。諦めずに、継続して試していくことが大切です。