
今日の論点
機能を訴求しても価格競争に陥るだけ
「クチコミ客を増やす6つのステップ」では、ファンマーケティングの概要をご紹介いたしましたが、今回はそのステップ1である「信念」にフォーカスして解説いたします。
商品やサービスの機能を強化しても、すぐに競合他社に模倣されてしまいます。簡単には模倣できない信念を伝えることで、独自のポジションを確立しましょう。
目次
1.1 機能やスペックを語るな
2. なぜ信念を語ると差別化できるのか?
2.1 競争の収斂
2.2 ファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略
2.3 ゴールデン・サークル
3. まとめ
3.1 信念を伝えることの大切さ
1. 信念を語ることが差別化の第一歩

1.1 機能やスペックを語るな
差別化の第一歩は、自社の「信念」を語ることから始めなければなりません。間違っても、機能やスペックを語ってはいけないのです。なぜこの事業を始めたのか、目指すゴールはどこなのか、どのような道筋でゴールに向かうのか、まずこの信念を伝える必要があるのです。
当然、全く関心を持ってもらえない人や、拒絶するような人もなかにはいるでしょう。しかし、あなたの信念に共感する人たちも、多数存在しているのです。その数は無関心や拒絶をする人たちを、大きく上回ること間違いありません。
この信念に共感する人たちに、商品やサービスを提供し、自社ブランドを一緒に育むことができれば、競合他社に対する差別化となり、独自のポジションを確立することが出来ます。
ハーレー・ダビッドソンが売っているのはバイクではなく「時代を超えた冒険と魂の解放」、スターバックスが売っているのはラテではなく「人々の心を豊かで活力あるものにする」ことです。
ハーレーより速いバイクはたくさんありますが、ハーレーほどライフスタイルを提案できる企業はありません。スタバのラテより美味しい飲み物はたくさんあるでしょうが、居心地の良い場所(サードプレイス)を提供できる企業はありません。彼らは商品の機能やスペックで勝負するのではなく、自分たちの信念を実現することで勝負しているのです。
信念を語ることが、なぜ競合他社との差別化につながるのか、さらに詳しく見ていきましょう。
2. なぜ信念を語ると差別化できるのか?

2.1 競争の収斂(しゅうれん)
商品やサービスの機能を強化して差別化しようとしても、直ぐに競合他社に模倣されてしまいます。お互いが機能の強化を続ければ、その機能は似通ったものになり、最終的に差別化を図ることができなくなります。そうなると残された道はただひとつ、価格での勝負になってしまいます。ハーバード大学大学院のマイケル・ポーター教授は、このことを「競争の収斂(しゅうれん)」と呼んでいます。
マイケル・ポーター教授の定義する差別化戦略の定義は、下記の通りです。
"自社の製品やサービスを差別化して、業界の中でも特異だと見られる何かを創造しようとする戦略である。"
差別化を行うためには競合他社との「違い」では不十分で、「特異」な何かが必要なのです。特異な何かとは、競合他社が簡単には模倣できない独自性のことを指します。
簡単に模倣できないもので差別化を図るとする場合、革新的なテクノロジーであったり、完璧に調整されたサプライチェーンなどが必要だと感じてしまいます。しかし、この条件を満たすものが身近に存在しています。それが企業の「信念」なのです。
信念を伝えて、それに共感する人たちを顧客にすることは、競合他社と差別化を図る第一歩となります。
2.2 ファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略
マーケティングの大家であるフィリップ・コトラー氏が推薦する書籍に「競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略」があります。経営コンサルタントのフレッド・クロフォード氏と、著述家のライアン・マシューズ氏によって書かれたものなのです。
3年間に渡って購買行動を調査した結果を、価格、サービス、アクセス、商品、経験価値の5つの観点から分析しています。顧客が求めているものは、激安価格や最高品質の商品ではなく、自分たちの価値観に沿った、公正な価格で安心して使える品質を持った商品だということです。
価値観を重視する傾向は、日本国内でも当てはまります。下記のグラフは、平成29年3月1日に経済産業省が発表した「消費者価値観の変化」に関する資料(※)です。
※:「消費者理解に基づく消費経済市場の活性化」研究 , 6-7 , (経済産業省 2017)
<消費者価値観の変化(自分にあったものを求める)>
60%以上の消費者が、商品そのものの価値ではなく、商品の背景やストーリーに価値を求めると答えています。また55%の消費者が、商品の背景や社会性の高さで購買を決定すると答えています。
企業側が自社の価値観を、経営理念や信念という形で伝えれば、それに共感する人たちが、顧客になってくれる可能性が高まります。
2.3 ゴールデン・サークル
昔から多くの企業が社訓を持っていることから分かる通り、信念を伝えること自体は新しいものではありません。過去にはミッション・ステートメントなどと呼ばれていた時代もありました。
米国のコンサルタントであるサイモン・シネック氏は、著書「WHYから始めよ!」において、信念を伝える方法の効果について解説をしています。次の2つのメッセージは、この著書からの引用です。一度、読み比べてみてください。
サンプルA
- われわれは、すばらしいコンピュータをつくっています。
- 美しいデザイン、シンプルな操作法、取り扱いも簡単。
- 一台、いかがです?
サンプルB
- 現状に挑戦し、他者とは違う考え方をする。それが私たちの信条です。
- 製品を美しくデザインし、操作法をシンプルにし、取り扱いを簡単にすることで、私たちは現状に挑戦しています。
- その結果、すばらしいコンピュータが誕生しました。
- 一台、いかがです?
サンプルAは一般のパソコンベンダーのメッセージ、サンプルBは熱狂的なファンが多いApple社のメッセージです。最初に信念を伝えることで、心に響く文章構成になっています。サイモン・シネック氏はこのメッセージの構造を、「ゴールデン・サークル」というコンセプトで説明しています。
心に響くメッセージを、What、How、Whyの3つの要素に分けて説明しています。
- What:何をしているのか(商品、製品、サービス)
- How:どうやるのか(手法、工程、差別化)
- WHY:なぜやるのか(理由、信念、理念)
先ほどのサンプルAは、商品を説明した後に、その方法を説明しています。「What→How 」の順番で説明しているのです。
一方、サンプルBのApple社の場合は、まず自分たちの信念を説明した後に、方法と商品の説明をしています。「WHY→How→What」の順番です。Appleにとって最も大切なことは、なぜ自分たちがこのビジネスを行っているのかなのです。だから最初にWHYを説明するのです。
3. まとめ

3.1 信念を伝えることの大切さ
人の購買行動は、感情によって大きく動かされます。合理的に判断しているつもりであっても、全ての可能性を比較検討することはできません。顧客の感情を動かすには、企業側も自分たちの感情を伝える必要があります。これが信念を伝えるべき理由の一つです。
商品やサービスの機能を強化して、最終的に価格競争に陥ってしまうのではなく、自社の信念を伝えて、それに共感する人たちに顧客になってもらうことこそ、差別化戦略を進めていくための、大きな第一歩になるのです。