競合他社への乗り換えを防止する方法

スマートフォンを操作する少し不満げな女性

宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー

SAS Institute、Teradata、Honeywellなどの国際的企業において、アナリティクスサービスのビジネス開発を担当。海外で実績を積んだ最先端のアナリティクス手法を、日本の主要企業に導入。ハイテク、金融、医薬、通信、家電、流通、小売、飲料、食品、通販業界など、幅広い分野の企業に対する支援を行う。アナリティクスの適用範囲は、マーケティング分析、リスク管理、品質管理、需要予測、在庫最適化など多岐にわたる。データ分析とブランド構築の戦略を融合させる新しいアプローチを提供するため、株式会社アルファブランディングを創業。価格競争に陥らない強固なブランド構築をサポートしている。

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今日の論点


顧客が離反するタイミングを見つけ出す

 

どの企業も、新規顧客の獲得については力を入れるのですが、既存顧客が競合他社へ乗り換えることについては、あまり対策をしていません。

 

新規顧客の獲得するコストと、既存顧客の離反を防止するコストとを比較すると、どう考えても離反防止の方が安くつきます。

 

既存顧客が離反するタイミングというものがありますので、今回はそれを管理する方法を見ていきましょう。



目次


1. 顧客接点管理で離反を抑えろ


笑顔でガッツポーズをする白い服の女性

1.1 ひとつの失敗が離反を招く

顧客接点管理とは、顧客が企業と接するポイントを管理することで、顧客の満足度を高め、競合他社への乗り換えを防ぐことを目的としています。営業マンや販売員の接客はもちろんのこと、コールセンターでの会話や、Webサイトのユーザビリティなども管理対象となります。顧客のライフタイムバリュー(生涯価値)の最大化を図ることが、最終的な目的です。

 

数ある顧客接点のなかで、たった一箇所でも合格点に達することが出来なければ、顧客は簡単に競合他社へ乗り換えます。新規顧客への販売コストは、既存顧客への販売コストの「5倍」だと言われています。既存顧客の離反防止が、いかに業績に直結するのかが解ります。


1.2 顧客接点管理の5つのステップ

この顧客接点管理を行うには、5つのステップがあります。それぞれの顧客接点に点数を付けるのですが、これは全てを総花的に改善するよりも、改善の効果が大きいと予想できる所に、リソースを注力させるためです。この点数により取捨選択を行います。

 

1.顧客接点を洗い出す

最初のステップとして、全ての顧客接点を洗い出す必要があります。顧客が商品やサービスを目にするポイントを全て書き出してください。顧客訪問、カタログ、Webサイト、コールセンターなどがそれに相当します。ただし、不特定多数に対しているイベントなどは、除外しても構いません。

 

2.重要度に点数をつける

全ての顧客接点を洗い出したら、それに対する重要度を数値化してください。5段階評価で良いと思います。対面での体験は購買行動に大きな影響を及ぼします。「営業マンの訪問」と「カタログを読む」行為とでは、当然ながら重要度が異なります。

 

3.品質に点数をつける

次に顧客接点に対して、品質の観点から点数をつけてください。一旦は経営者の主観で、点数を付けていただいて結構です。顧客接点管理は継続して実施するものですので、アンケート調査の結果などの客観的な数値に、少しずつ置き換えていけば良いでしょう。

 

4.重要度が最も高い顧客接点を改善

顧客満足度を高めるためには、重要度が高い顧客接点の品質を改善することが、一番の近道です。満点にならなかった理由を洗い出し、改善策を検討します。具体的には、この顧客接点を担当している人たちに対して、個別のヒアリングを行ってください。これにより、さらに顧客満足度を高める方法を探り出すことができます。ただし大勢が参加するような、会議形式では実施しないでください。声が大きい人や、よく喋る人の声だけが反映されるため、正しく現状を把握できません・・・要注意です。

 

5.品質が最も低い顧客接点を改善

顧客の離反を防ぐには、この部分の改善が最も重要です。品質が一番低い顧客接点から、顧客が離反するケースが最も多いからです。こちらも担当者に個別のヒアリングを行い、改善策を検討します。多くの場合、品質が低いのは個人個人の対応に問題があるのではなく、業務を支援する仕組みがないことに問題があります。人数を増やしたり、IT化を進めることなどで、多くの場合は対処することが出来ます。



2. 顧客接点を管理する理由とは?


お店で接客をする従業員と客

2.1 競合他社への乗り換えが減る

顧客が競合他社へ乗り換える原因は、企業側から見ると些細なことのように思えます。しかし顧客側はこの顧客接点を重要視しているのです。企業と顧客の意識レベルのギャップこそが、解決するべき課題なのです。

 

顧客接点管理を実施することで、顧客からの目線をより深く理解することができるようになります。これにより、競合他社への乗り換えを減らすことが出来ます。


2.2 新たな接点で顧客満足度を高める

顧客接点を利用して、顧客満足度を高めることも可能です。最近のアイドルグループは、握手会を実施していますが、これは新たに顧客接点を設けて、そこでの満足度を高めようという試みだと言えます。好きなアイドルと握手することができるという体験は、そのファンからすると、とても高い満足度が得られますので、さらにコアなファンになってもらえることが期待できます。

 

企業に当てはめるなら、商品やサービスを通じて、顧客と企業とがつながるコミュニティーを作る方法があります。キャンプ用品の製造販売を手掛けているスノーピーク社は、顧客を集めて実際にキャンプをするイベントを行っています。また、自動車メーカーの中には、既存ユーザーを集めて商品企画会議を行っている企業もあります。このような活動のことを「アンバサダー・プログラム」と呼ぶことがあります。


2.3 ブランドイメージを確立する

インターネットやスマートフォンなど、テクノロジーが進歩するに従って、顧客接点は増える傾向にあります。しかしながら、増えた顧客設定に対して、個別で対応してしまうため、発信するメッセージに一貫性がない企業が多く見られます。顧客からすると、接するたびにイメージが変わると行ったことも少なくありません。

 

これはブランドが多数あることに加えて、ブランド・マネージャーがある一定期間でローテーション(異動)することにも原因があります。新しい担当者は、なにか自分のオリジナリティーを付け加えたいと考えるため、コンセプトにズレが生じることがあります。顧客接点管理で横串を刺すことで、顧客に対するメッセージに一貫性をもたせ、しっかりとしたブランドイメージを確立することが大切です。



3. まとめ


海を眺める麦わら帽子をかぶった女性

3.1 常に顧客から見られていることを忘れない

顧客はあらゆる方向から企業の活動を見ています。その活動のうち、たったひとつでも気に入らないことがあれば、簡単に競合他社へ乗り換えてしまいます。

 

それを防止するためには、重要度の高い顧客接点の品質を高めることと、また品質が低い顧客接点を仕組みとして改善すること、これらを同時並行的に行う必要があります。

 

新規顧客を開拓するよりも、既存顧客を手厚くフォローする方が、最終的には企業の利益につながるのです。