新規事業が失敗する元凶はコレだ!

ラップトップパソコンの前で頭を抱える男性

宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー

SAS Institute、Teradata、Honeywellなどの国際的企業において、アナリティクスサービスのビジネス開発を担当。海外で実績を積んだ最先端のアナリティクス手法を、日本の主要企業に導入。ハイテク、金融、医薬、通信、家電、流通、小売、飲料、食品、通販業界など、幅広い分野の企業に対する支援を行う。アナリティクスの適用範囲は、マーケティング分析、リスク管理、品質管理、需要予測、在庫最適化など多岐にわたる。データ分析とブランド構築の戦略を融合させる新しいアプローチを提供するため、株式会社アルファブランディングを創業。価格競争に陥らない強固なブランド構築をサポートしている。

宮崎祥一のプロフィール写真


今日の論点


なぜ売れないものを作ってしまうのか?

起業しても10年後まで生き残っている確率は10%以下・・・みたいな記事を、ネットで見かけることがあります。データソースが併記されていませんので、ホントかウソか判断できませんが、せっかく事業を起こしたのですから、失敗したくはないですよね。

 

では、始めた事業が失敗する最大の原因は何だと思いますか。それは「販売不振」です。7割以上の企業が、商品やサービスが売れないために、廃業してしまうのです。(こっちは中小企業庁にデータがあります)

 

今回のテーマは、なぜ売れないものを作ってしまうのか・・・です。



目次


1. 想像と現実との差


ガラスのカップに入った紅茶

1.1 紅茶を混ぜると茶葉はどうなるか?

今回のテーマは「なぜ売れないものを作ってしまうのか?」です。売れないにもかかわらず、売れると思ってしまう原因を、一緒に探っていきましょう。

 

あなたに質問があります。目の前に紅茶のセットがあると想像してください。あなたはティーポットからカップに、紅茶を注ぎ入れます。カップの中をよく見ると、底に細かい茶葉が沈んでいます。これをスプーンでかき混ぜると、どうなると思いますか?

 

茶葉が沈んでいるということは、茶葉は紅茶より重いということです。これを混ぜると遠心力がかかりますので、茶葉はカップの内側の壁面に押し付けられます。しばらくすると、カップと紅茶の摩擦によって、回転は少しずつ弱まります。すると茶葉は重力に引っ張られて、カップの底にゆっくりと沈んでいきます。カップを真上からのぞくと、「茶葉はドーナツ型」になっています・・・よね。

 

しかし、これを実際にやってみると、茶葉はドーナツ型どころか、カップの中央に集まってしまいます。カップのド真ん中にあるのです。茶葉がドーナツ型になりそうな気がするのですが、実際にはそうはなりません。ちなみにこの現象は「茶葉のパラドックス(Tea leaf paradox)」と呼ばれています。


1.2 茶葉のパラドックス

この茶葉のパラドックスですが、発見した人のはある学者の妻です。ある日、彼女が紅茶を入れていると、カップの中央に茶葉が集まることに気づきます。その理由を学者の夫に聞いてみたのですが、彼にもその理由がわかりません。ちなみにこの学者の夫というのは、オーストリア出身の物理学者で、エルヴィン・シュレーディンガー博士です。1933年にノーベル物理学賞を受賞しています。

 

なぜ茶葉が中央に集まるのか、その理由が解らなかったシュレーディンガー博士は、数日後、同僚の物理学者に相談をします。「なぜ茶葉は中央に集まるのか?」と聞くのですが、残念ながら同僚の物理学者も答えることが出来ませんでした。ちなみにその同僚というのは、みなさんご存知のアルベルト・アインシュタイン博士です。

 

まぁ、このふたりが答えられないのですから、私たちが間違えてしまうのも当然ですよね。これで学者魂に火がついたのか、アインシュタイン博士はこの現象の研究に取り掛かります。彼はついにこの謎を解き明かして、1926年に論文を発表しました。(詳しく知りたい方はクリック→Link

 

茶葉のパラドックス

 

詳しいことは論文を読んでいただきたいのですが、私が解らないなりに、難しい用語と数式は一切見なかったことにして、雰囲気だけ解説してみます。間違ってたらゴメンナサイ。(詳しく知りたい方はクリック→Link

 

上の左の図を見て下さい。カップの紅茶をかき混ぜると、紅茶には遠心力がかかります。すると水面・・・実際は紅茶ですが・・・の中央が凹み、周辺が膨らむことになります。

 

次に中央の図を見て下さい。水面の中央が低くなりますので、その部分は圧力が下がることになります。また逆に周辺は水面が上がりますので、それに伴って圧力も上がります。その圧力の差によって、カップの底の紅茶には、外側から中央へ力が働くことになります。この変化量を「圧力勾配」と呼びます・・・呼ぶそうです。

 

また紅茶はカップの底と摩擦するため、上の部分は回転が速く、下の部分は回転が遅くなります。底の部分だけ遠心力が小さくなるわけです。

 

外から内に圧力がかかり、遠心力も小さくなるため、カップの底の茶葉は中央に集まります・・・おぉ、なんとなく中央に集まりそうな気がしてきましたよね。



2. 全ては顧客が知っている


パソコンのマウスを使う女性の手

2.1 想像は想像でしかない

「人の想像力を全面的に信頼してはいけない」ということを理解していただくために、 長々と「茶葉のパラドックス」を紹介しました・・・というか、書いたら長くなってしまいました。

 

なにか素晴らしいビジネスのアイデアを思いついたとしても、それが成功するかどうかは、実際にやってみないと分かりません。素晴らしいアイデアというのは本人の思い込み・・・ということも少なくありません。

 

アイデアを思いつき、商品やサービスを作成し、販促活動を行います。ここで初めて気がつきます・・・この商品やサービスを、誰も欲しいと思っていないことに。この検証をしていないことが、新規事業が失敗に終わってしまう、大きな原因の一つです。


2.2 アイデアには必ず検証が必要

素晴らしいアイデアを思いついたからといって、直ぐに本格的な商品開発に着手するのは止めておきましょう。まずは簡単な試作品を作って、顧客になりそうな人たちに意見を求めてください。

 

イメージさえ伝われば良いので、試作品は簡単なもので問題ありません。Webサービスであれば画用紙に必要なページを手書きすれば十分ですし、雑貨であれば紙や粘土で作れば十分です。

 

いま皆さんが使っているマウスを初めて作ったのは、IDEO社というデザイン会社です。Apple社からの依頼で、新しい入力デバイスの開発を始めました。なんとその試作品は、バターのカップに小さなボールをつけただけのものでした。

 

アイデアを考えて試作品を作り、それを潜在顧客に評価してもらう。このプロセスを繰り返せば、顧客が本当に欲しがるものを創ることが出来ます。

 

大切なことは「アイデアは必ず検証しなければならない」と言うことです。



3. まとめ


紅茶と花

3.1 アイデアの検証が新規事業の失敗を防ぐ

私がプロジェクトに参画するのは、ラフな事業企画書が出来上がったぐらいのタイミングが多いです。そこで最初に着手するのが、アイデアの検証です。超簡単な試作品を作って、潜在顧客の意見を聞いて回ることから始めます。誰も欲しいと思わない商品やサービスのブランド力を高めても、なんの役にも立ちませんので、私に取ってこのフェーズは極めて重要です。

 

なにか素晴らしいアイデアを考え出したと思っても、実は素晴らしいと思っているのは本人だけ・・・ということはよくあります。特に苦労して考え出したものは、そのアイデアをなかなか捨てきれず、無駄に時間とお金を費やすることになってしまいます。

 

そうならないためにも、アイデアには必ず検証が必要です。超簡単な試作品を作って、潜在顧客の意見を聞いて回ってください。