コカ・コーラに挑戦する起業家

サーフボードを持つ女性

宮崎 祥一 / Shoichi Miyazaki

SAS Institute、Avanade、Teradataなどの外資系アナリティクス企業でビジネス開発に携わる。海外で実践されているアナリティクス実用化プロジェクト(購買行動分析、顧客接点分析、需要予測、在庫最適化)を、国内大手企業(流通、小売、飲料、食品、家電、通販)に導入。2011年に株式会社アルファブランディングを設立し、ブランド育成事業を開始。現在に至る。



今日の論点


寡占業界に新規参入できるのか?

もし、あなたの友人が、清涼飲料業界で起業したいと言い出したら、どんなアドバイスをしますか。

 

コカ・コーラやペプシコなどを相手に戦うと言い出しているのですから、まぁ普通なら「コカ・コーラ相手にケンカ売るのはやめとけ。もっと他にあるやろ。」と言うのではないでしょうか。

 

今回はコカ・コーラに勝負を挑んだ起業家のお話です。



目次


1. 清涼飲料業界への新規参入


缶の清涼飲料

1.1 強豪揃いの清涼飲料業界

清涼飲料業界の売上高ランキング(日本国内)

これは日本国内の清涼飲料業界の売上高ランキングです。有名企業ばかりで、ここに書かれている企業を知らないという人は、まずいないでしょう。このグラフに、ペプシコーラを製造しているペプシコ社の名前がありませんが、サントリーと提携していますので、そちらでカウントされています。

 

最初の質問に戻りますが、あなたの友人が、清涼飲料業界で起業したい、コカ・コーラと勝負すると言い出したら、どんなアドバイスをしますか。そもそも、個人が起業して、何とかできそうな規模のビジネスではなさそうですし、もっと小さく始めることができるビジネスがあると、説得するのではないでしょうか。

 

しかし、これにチャレンジした起業家がいます。それはディートリッヒ・マテシッツ氏、レッドブルの創業者です。

 



2. レッドブルの強さの秘密


レッドブルのエアレース機

2.1 飲料メーカーではなくマーケティング会社

ユニリーバでマーケティングマネージャーをしていたディートリッヒ・マテシッツ氏は、立ち寄ったタイである商品を見かけます。それは「クラティンデーン」という栄養ドリンクです。ちなみに「クラティンデーン」とはタイ語で「赤い雄牛(Red Bull)」という意味です。

 

1984年に彼は製造元から販売権を獲得し、ユニリーバを退職してレッドブル・トレーディングを設立します。その後、商品に炭酸を加えるなどの改良を行い、1987年に「Red Bull(レッドブル)の名称で販売を開始しました。現在、従業員数は1万2,000人を超え、世界第4位のシェアを誇るまでになっています。

 

レッドブルの特徴は、製造や流通は外部へ委託して、マーケティングにリソースを集中しているところです。通常の飲料メーカーは、自社で製造工場を持ち、各拠点に倉庫を設けて、トラックなどの輸送網を持ちますが、それらをアウトソーシングしています。また逆にマーケティングについては広告代理店に外注せず、自社で実施しています。レッドブルは飲料メーカーではなく、マーケティングの会社だと言うことです。これはGoogleやFacebookが、IT企業に見えていて、実は広告代理店であることに似ています。

 

あと、マーケティング手法に関しても、競合他社とは大きく異なります。競合他社が「美味しい」や「爽やか」、また「健康になる」というような、機能的な側面をメッセージとして発信しているのに対して、レッドブルは自分たちの信念とも言える「翼をさずける」というメッセージだけを伝えています。

 

エクストリームスポーツなど、若者の新しいスポーツに対してスポンサードを行い、「翼をさずける」というメッセージだけを伝える。これにより、冒険的でカッコイというイメージを定着させることに、成功しています。

 

それでは、このレッドブルのマーケティング手法を、もう少し詳しく見ていきましょう。



3. 商品力ではなくマーケティング力で勝つ


羽を広げた鳥

3.1 メッセージの一貫性

レッドブルの「翼をさずける」というメッセージは、思いつきで作られたものではありません。自分たちの信念や、それを実現するためのプロセスなどを、約1年半もの時間を費やして検討し、50以上の素案を作った上で、この「翼をさずける」を選んでいるのです。

 

レッドブルが実施するプロモーションは、全てこのメッセージを伝えるためだけに行われています。夢を追いかける若い世代に「翼をさずける」という一貫性のあるメッセージが、冒険的でカッコいいというブランドイメージの形成につながっているのです。


3.2 エナジードリング市場の創出

レッドブルが登場するまでは、このカテゴリーの商品は「栄養ドリンク」と呼ばれており、疲れたおじさんが、少しでも元気を取り戻すために飲む、そういうイメージが定着していました。

 

レッドブルの創業者であるディートリッヒ・マテシッツ氏が、栄養ドリンクに目をつけるきっかけになったのが、大正製薬の「リポビタンD」なので、この商品が持つイメージを想像してみてください。

 

これをレッドブルは大きく変えてしまいます。「栄養ドリンク」ではなく「エナジードリンク」、「疲労からの回復」ではなく「パフォーマンスの向上」として再定義を行いました。

 

簡単に言うと、レッドブルを買うのか、それともリポビタンDを買うのかで、迷う人はいないと思います。比較検討される対象ではないということは、レッドブルは新たな市場を創ることに、成功したと言えます。


3.3 エクストリームスポーツに特化

レッドブルは、BMX、サーフィン、スケートボードといったような、エクストリームスポーツを中心に、スポンサードを行っています。より多くの人に商品を認知させたいのであれば、メジャースポーツのスポンサーになれば良いのですが、あえてそれを避けています。マイナーではあるけれど、若者世代がカッコいいと感じるスポーツに絞り込んでいるのです。その理由はコアなファンを増やすためです。

 

エクストリームスポーツに携わっている選手やファンからすると、レッドブルは単なるスポンサーではありません。一緒にこのマイナーなスポーツを盛り上げていくパートナーだと認識されています。

 

彼らはレッドブルを美味しいから飲んでいる訳ではありません。もちろん滋養強壮のために飲んでいる訳でもありません。レッドブルを飲むことが、このスポーツを支援していくことにつながる、そう感じているから飲んでいるのです。

 

レッドブルは他の清涼飲料と比較すると、かなり高額な価格設定になっています。それでも彼らはレッドブルを購入するのです。

 



4. まとめ


自転車に乗る男性

4.1 品質や価格ではなく信念や価値観

人が商品やサービスを購入するときに、商品の品質や価格で判断をしていると思われがちですが、実はそうではありません。商品やサービスが持つ機能ではなく、それを提供する側の信念であるとか、価値観などによって、大きく左右されるのです。

 

商品やサービスが同じであったとしても、何を伝えるのか、どう伝えるのかで、最終的な購買行動が変わってくるのです。

 

みなさんも、顧客に対してどのようなメッセージを提供しているのか、改めて確認してみてください。もし企業としての信念や価値観を伝えていないのであれば、業績を大幅に改善する余地が残されているということです。