宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー
Honeywell、Experian、Teradata、Avanade、SAS Institute などの国際企業でアナリティクスのビジネス開発に携わった経験を活かし、オーセンティックマーケティングを通じて、価格競争に陥らない強いブランド作りを支援しています。オーセンティックマーケティングは、企業が本質的な価値を顧客に伝え、持続可能な成長を目指すための戦略です。このブログでは、そうした戦略や実践例を詳しく解説しています。
今日の論点
有名観光地のオーバーツーリズムについて
新型コロナウイルスの蔓延が収まり、円安も進んだことで、日本の有名観光地には再び多くの外国人観光客が訪れています。
たとえば京都の祇園町では、「歩いている日本人は舞妓だけ」という皮肉が聞かれるほど、外国人観光客で溢れています。
祇園町は街並みに風情があるため、多くの観光客が訪れますが、そもそも花街は観光業ではないため、観光客が入れるお店は少なく、地元住民にとってはかなり迷惑な状況です。
このような状況により、現在問題視されているのがオーバーツーリズムです。これは観光客が過剰に増え、観光地がその対応に苦慮している状態を指します。今回はこのオーバーツーリズムについて考えていきます。
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京都には5つの花街(かがい)があります。上七軒、祇園甲部、祇園東、先斗町、宮川町。散歩するなら宮川町がおすすめです。
目次
1-1. オーバーツーリズムの現状
2. 課題の構造
2-1. オーバーツーリズムの根本原因
3. 解決策
3-1. オーセンティックマーケティングとは
3-2. オーセンティックマーケティングによる具体的な解決策
4. まとめ
4-1. 実践へのステップ
1. 課題と背景
1.1 オーバーツーリズムの現状
観光業界は世界中で経済的な発展に大きく寄与していますが、一部の観光地では観光客の急増がオーバーツーリズムの問題を引き起こしています。オーバーツーリズムとは、観光客が集中することで地元の生活環境や自然環境に悪影響を及ぼす現象です。例えば、人気の観光地であるバルセロナでは、地元住民が増加する観光客に対する不満を表明し、抗議活動が行われています。
オーバーツーリズムが引き起こす問題としては、環境破壊、インフラの過剰負荷、地域社会の崩壊などが挙げられます。これらの問題は、観光地の魅力を損ない、持続可能な発展を妨げる原因となります。そのため、持続可能な観光政策の導入が急務とされています。
オーセンティックマーケティングは、企業と顧客が共通の価値観を持つことで、長期的な信頼関係を築く手法です。このアプローチを活用することで、観光業界における持続可能な発展を促進し、オーバーツーリズムの影響を最小限に抑えることができます。
2. 課題の構造
2.1 オーバーツーリズムの根本原因
オーバーツーリズムの問題は多岐にわたり、その原因と影響を詳細に理解することが重要です。ここでは、オーバーツーリズムが引き起こす具体的な課題とその構造について、深掘りしていきます。
1. 地元住民との対立
- 課題の説明: オーバーツーリズムにより、観光地では地元住民と観光客の間で対立が生じることがあります。観光客の増加によって、地元住民の日常生活に支障をきたす場合があります。具体的には、公共交通機関や公園などの公共施設が観光客で混雑し、地元住民がこれらの施設を利用しづらくなるケースがあります。また、観光客が地元の文化や習慣を尊重しない場合、住民の不満が高まることもあります。
- 影響と事例: バルセロナでは、観光客の急増により住民の生活が圧迫され、抗議活動が発生しました。住民は観光客の騒音やゴミの増加、住宅の賃貸価格の高騰に対して強い不満を抱いています。これにより、地元住民の生活の質が低下し、観光地としての魅力も損なわれています。
2. 環境破壊
- 課題の説明: 観光客の増加により、自然環境への負荷が増大し、環境破壊が進行することがあります。観光客が自然保護区や国立公園を訪れる際に、トレイル外を歩いたり、ゴミを捨てたりすることで、自然環境が損なわれることがあります。また、大量の観光客が一度に訪れることで、動植物の生息地が破壊されるリスクも高まります。
- 影響と事例: マチュ・ピチュでは、観光客の増加により遺跡の保存が危機にさらされています。歩道の損傷やゴミの増加、観光客による遺跡の損壊などが問題となっています。これにより、世界遺産としての価値が低下し、長期的な保存が困難になる恐れがあります。
3. インフラへの過剰負荷
- 課題の説明: 観光客の急増によって、地域のインフラ(交通、宿泊施設、公共施設など)が過剰な負荷を受けることがあります。特に観光シーズンには、道路の渋滞や公共交通機関の混雑、ホテルの予約の取りにくさなどが顕著になります。これにより、地元住民の生活や観光客自身の旅行体験にも悪影響を与えることがあります。
- 影響と事例: ベネチアでは、観光客の増加により水上バスが常に満員で、地元住民が日常的な移動に不便を感じています。また、観光客が集中するエリアでは、歩道や橋が過密状態となり、安全性にも問題が生じています。これにより、観光地としての利便性が低下し、観光客の満足度も低下しています。
4. 地元経済への影響
- 課題の説明: オーバーツーリズムによって地元経済に一時的なブームが訪れる一方で、観光客の急増が地域の商業バランスを崩すことがあります。観光客向けの店舗やサービスが増えすぎると、地元住民向けの店舗が減少し、地元住民の生活が不便になることがあります。また、観光客に依存した経済構造になると、観光客数の変動により経済が不安定になるリスクもあります。
- 影響と事例: スペインのイビサ島では、観光シーズン中に観光客向けの価格が急騰し、地元住民が日常生活で必要な商品やサービスを手に入れるのが難しくなることがあります。また、観光客数が減少した場合、地元経済全体が打撃を受けるリスクも高まります。これにより、地域の経済が観光客依存型になり、持続可能な発展が難しくなります。
オーバーツーリズムの課題は、地元住民との対立、環境破壊、インフラへの過剰負荷、地元経済への影響といった多岐にわたる問題を引き起こしています。これらの問題は、観光地の魅力を損ない、持続可能な発展を阻む要因となります。次の章では、これらの課題に対してオーセンティックマーケティングを活用した具体的な解決策を示し、観光業界が持続可能な未来を築くための方法を提案します。
3. 解決策
3.1 オーセンティックマーケティングとは
「オーセンティックマーケティング(Authentic Marketing)」は、企業が持つ独自の価値観やビジョンを消費者と共有し、それに基づいて商品やサービスを提供するマーケティング戦略です。その核心には、消費者との深い信頼関係を築くことがあり、その結果としてリピート購入や口コミによる新規顧客の獲得が期待されます。
オーセンティックマーケティングが重視する要素は以下の通りです。
1. 価値観の明確化と共有: 企業がどのような価値観を持ち、それが製品やサービスのどの部分に反映されているのかを消費者に明確に伝えることが重要です。これには、企業のミッションやビジョン、持続可能性への取り組み、社会貢献活動などが含まれます。
2. 顧客の価値観の理解: マーケティング活動が成功するためには、消費者の価値観を理解し、それに対応することが重要です。顧客が何を大切にし、どのような価値観を共有したいのかを理解することで、より深いつながりを築くことができます。
3. ストーリーテリング: 企業の価値観を効果的に伝える方法の一つがストーリーテリングです。エモーショナルなストーリーを通じて価値観を伝えることで、顧客との感情的なつながりを強化し、ブランドへのロイヤルティを促進することができます。
4. 透明性と誠実さ: 価値観を共有するだけでなく、その価値観が実際の行動や決定にどのように反映されているかを明確にすることが重要です。これには透明性と誠実さが求められ、企業は自らの言動が一致していることを示す必要があります。
これらの要素を適切に組み合わせることで、企業はオーセンティックマーケティングを成功させ、顧客との深い信頼関係を築くことができます。このアプローチは、オーバーツーリズムの課題解決にも効果を発揮します。以下に、具体的な解決策を詳述します。
3.2 オーセンティックマーケティングによる具体的な解決策
オーバーツーリズムの問題を解決するためには、オーセンティックマーケティングを活用して観光客と地元住民、そして観光地自体が共通の価値観を持ち、長期的な信頼関係を築くことが重要です。以下に、具体的な解決策を詳述します。
1. 地元住民との対立の解決策
- 地域文化の教育キャンペーン: 観光地の歴史や文化についての情報を提供し、観光客に対して尊重する意識を持ってもらう。例えば、観光地での文化イベントやワークショップを開催し、観光客に地域の文化を体験させることができます。
- ローカルガイドプログラム: 地元のガイドが観光客に地域の魅力を伝えるツアーを実施し、地元住民との交流を促進する。これにより、観光客は地域の本質的な価値を理解し、地元住民との対話を通じて相互理解を深めることができます。
2. 環境破壊の解決策
- エコツーリズムの推進: 自然環境を保護しながら観光を楽しむエコツーリズムを推進します。例えば、ニュージーランドの「Kiwi Guardians」プログラムでは、子供たちが自然保護活動を通じて自然の大切さを学びながら観光を楽しむことができます。
- 環境保護キャンペーン: 環境に配慮した行動を促すキャンペーンを展開し、観光客に対してゴミの持ち帰りや自然保護の重要性を訴える。これにより、観光客の環境意識を高め、持続可能な観光地づくりを支援します。
3. インフラへの過剰負荷の解決策
- 観光客の分散化: 観光客を特定のエリアに集中させるのではなく、周辺地域にも魅力的なスポットを紹介し、観光客を分散させます。例えば、日本の奈良県では、奈良公園以外にも歴史的な寺院や美しい自然景観が多く存在するため、これらの場所を積極的にプロモーションすることで、観光客を分散させることができます。
- 持続可能な宿泊施設の推進: 環境に配慮した宿泊施設を選ぶよう促し、その価値を共有することで、観光客の宿泊先の選択肢を広げる。例えば、ノルウェーの「Green Key」認定を受けた宿泊施設では、エネルギー効率の高い設備や地元産の食材を使用しているため、観光客は持続可能な旅行を実現できます。
4. 地元経済への影響の解決策
- 地元産品のプロモーション: 地元の特産品やクラフトを観光客に紹介し、その本質的な価値を伝えることで、地元経済の活性化を図る。例えば、地域のマーケットやフェアを開催し、観光客が地元の産品を直接購入できる機会を提供します。
- コミュニティイベントの開催: 観光客と地元住民が一緒に楽しめるイベントを開催し、地域全体の経済活性化を促進する。これにより、観光客は地元の文化や生活に触れ、地元経済の発展に寄与します。
これらの施策を通じて、オーセンティックマーケティングはオーバーツーリズムの課題を解決し、持続可能な観光地づくりに貢献することができます。旅行・観光業界に携わる皆様には、これらの取り組みを積極的に導入し、観光地の魅力を保ちながら持続可能な発展を目指していただきたいと思います。観光客と地元住民、そして観光地が共に繁栄する未来を築くために、今後も持続可能な取り組みを進めていきましょう。
4. まとめ
4.1 実践へのステップ
オーバーツーリズムの課題は多岐にわたりますが、オーセンティックマーケティングを活用することで、観光地と観光客が共通の価値観を持ち、持続可能な観光地づくりを実現することが可能です。
観光客の分散化、持続可能な観光資源の活用、地元住民との連携、デジタルツールの活用、持続可能な観光指標の設定といった具体的な施策を導入することで、観光地の魅力を保ちつつ、環境保護や地域社会の発展を図ることができます。
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『オーバーツーリズムなんて、円高になったら一撃で解消じゃん!』
・・・それを言っちゃあオシマイです。円が高くなっても、そのあとまた安くなるかもしれないじゃないですか。