1. 背景
M社は関東地方に本社を構える、従業員数約300名の工業用部品製造企業です。30年以上の歴史を持ち、高品質と短納期対応を強みとしていました。しかし、市場には価格競争力の高い国内外の競合が台頭し、従来の品質重視だけでは差別化が難しい状況に直面していました。
2. 課題
M社が直面していた最大の課題は、慢性的な価格競争への依存でした。営業チームは新規顧客の獲得や既存顧客の維持のために、安易な値引き戦略に頼る傾向が強く、結果として利益率は前年同期比で8%も低下していました。この値引き依存は、一時的な受注確保には効果的だったものの、中長期的には以下のような悪循環を招いていました。
● 価格下落のスパイラル化
値引きによる価格設定が常態化し、市場全体での価格競争が激化。競合他社との価格差を維持するために、さらに値下げを繰り返す悪循環に陥っていました。
● 利益率の圧迫と付加価値投資の停滞
利益率の低下により、研究開発・製品品質向上・マーケティング活動への十分な投資が困難となり、結果として新たな付加価値の創出が停滞していました。
● 顧客との関係性の弱体化
値引きで獲得した顧客は価格への依存度が高く、競合他社がより低価格を提示すれば容易に離反するケースが多発。これにより、価格以外の要素での顧客ロイヤルティ形成が不十分な状態が続いていました。
● 営業とマーケティングの連携不足
両部門の間で情報共有や戦略の整合性が欠如しており、自社の強みや差別化ポイントが顧客に適切に伝わっていませんでした。この分断により、マーケティングは顧客ニーズを十分に把握できず、営業は効果的な提案資料や訴求メッセージを欠いたまま価格競争に陥るという課題が顕在化していました。
3. トレーニング
M社は「オーセンティックマーケティング トレーニング」を通じ、以下の3つのアプローチで課題解決に取り組みました。
● 現状分析と課題特定
経営層および営業・マーケティング担当者へのヒアリングを実施し、組織内外の課題を明確化。競合優位性の再評価を行いました。
● ブランド価値の再定義
ワークショップ形式で、「一貫性・透明性・共感・誠実さ」の4つの軸に基づいたブランドメッセージの再構築を実施。特に、品質の信頼性やアフターサービスの強みを明確化しました。
● 営業・マーケティングの連携強化
両部門の合同セッションを通じて、統一された顧客コミュニケーション戦略を策定。価格訴求から価値訴求へのシフトを推進しました。
4. 成果
トレーニングの実施から半年後、M社は以下のような成果を達成しました。
● 利益率の改善
値引き依存からの脱却により、主要製品群の利益率が前年比7%改善。
● 受注単価の向上
価格以外の価値訴求が功を奏し、平均受注単価が13%増加。
● 組織文化の変革
営業とマーケティングの戦略的連携が強化され、短期志向から持続可能な成長志向へとシフト。
● ブランド認知度の向上
統一されたメッセージ戦略により、顧客からのブランド認知と信頼度が向上。
5. まとめ
M社は価格競争からの脱却と利益率向上に向けた課題解決に取り組み、成果を上げました。自社の強みを明確化し、ブランド価値を再定義したことで、受注単価と利益率の向上を実現。この事例は、価格に依存せず、本質的な価値を訴求することで競争優位性と収益性の向上が可能であることを示しています。