宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー
Honeywell、Experian、Teradata、Avanade、SAS Institute などの国際企業でアナリティクスのビジネス開発に携わった経験を活かし、オーセンティックマーケティングを通じて、価格競争に陥らない強いブランド作りを支援しています。オーセンティックマーケティングは、企業が本質的な価値を顧客に伝え、持続可能な成長を目指すための戦略です。このブログでは、そうした戦略や実践例を詳しく解説しています。
今日の論点
日本酒の販促とブランディング
高級な日本酒には販促ツールとして、商品紹介のカードが添付されていることがあります。
リピーターになってもらうための販促の一環なのでしょうが、専門用語が多く、素人がわかる内容ではありません。
今回は日本酒の販売促進とブランディングについて考えてみました。
(そう、漆器の盃を通販で買いました。侍みたいでチョットかっこいい。問題は我が家に日本酒が常備されていないこと。)
目次
1.1 清酒メーカーの実態
2. 何を基準に日本酒を選べば良いのか?
2.1 日本酒はパラメーターが複雑
2.1.1 使用原料・精米歩合
2.1.2 日本酒度・酸度
2.1.3 産地
2.1.4 火入れ
2.1.5 蔵元・杜氏
3. パラメータではなく信念を伝える
3.1 消費者に刺さるメッセージとは
4. まとめ
4.1 蔵元としての信念を語れ!
1. 清酒メーカーを取り巻く環境
1.1 清酒メーカーの実態
帝国データバンクの調査(※)によると、清酒メーカーは全国に1,254社存在しており、そのうち、903社(72%)が業歴100年を超えている歴史のある業界です。
国内の売上高は清酒業界全体で約4,416億円、ここ数年は横ばい状態が続いています。若年層の日本酒離れや、缶酎ハイなどのカクテル飲料の市場拡大が原因と言われています。
海外需要については、2006年から2016年の年平均成長率は6.7%と好調なのですが、日本酒の出荷量の3.5%でしかありませんので、業界全体を押し上げるほどのボリュームはありません。
そもそも、これだけいいお米が取れるのに、なぜ国内の需要が伸びていかないのでしょうか。
※出展:帝国データバンク「清酒メーカーの経営実態調査」(2017/12/21)
2. 何を基準に日本酒を選べば良いのか?
2.1 日本酒はパラメーターが複雑
特定名称 | 使用原料 | 精米歩合 |
吟醸酒 | 米、米こうじ、醸造アルコール | 60%以下 |
大吟醸酒 | 米、米こうじ、醸造アルコール | 50%以下 |
純米酒 | 米、米こうじ | − |
純米吟醸酒 | 米、米こうじ | 60%以下 |
純米大吟醸酒 | 米、米こうじ | 50%以下 |
特別純米酒 | 米、米こうじ | 60%以下 |
本醸造酒 | 米、米こうじ、醸造アルコール | 70%以下 |
特別本醸造酒 | 米、米こうじ、醸造アルコール | 60%以下 |
2.1.1 使用原料・精米歩合
国税庁によると清酒は原料や製造方法などの違いにより、8種類に分けられています。
表の使用原料の欄に醸造アルコールがありますが、これは日本酒の度数調整や品質調整のために用いられるエタノールのことです、本来は醸造酒ではなく混成酒なのですが、酒税法上は醸造酒と同じ扱いになっています。
あと、精米歩合というのは、玄米を精米する際に、削ったお米がどの程度残っているのかを示すもので、精米歩合の数値が小さいほど、たくさん削って美味しい部分だけを使用するので、高品質の清酒ができると言われています。
この表ですが、まず使用原料で純米酒と混合酒に分けて、それぞれ精米歩合で名称をつければ、少しはスッキリするのですが、それでも、純米吟醸酒と特別純米酒は、使用原料も精米歩合も同じですが「製造方法が異なる」ため名称も異なります。
2.1.2 日本酒度・酸度
「日本酒度」とは糖度を表す数値で、プラスになると辛口に、マイナスになると甘口になります。+3.5よりも大きな数値になると「辛口」、−3.5よりも小さな数値になると「甘口」と呼ばれます。糖度を表すのであれば、甘口をプラスにした方が直感的かもしれません。
これに加えて「酸度」というものがあり、これは清酒に含まれる有機酸(琥珀酸、林檎酸など)の度合いを表します。酸度が高いものを「芳醇(濃醇)」、低いものを「淡麗」と呼びます。例えば「淡麗辛口」は酸度が低く、日本酒度が高いと言うことです。
2.1.3 産地
日本酒の成分の約80%が水ですので、仕込みに使う水によって味か異なります。どこの地域で作られた日本酒なのかが重要視されるのは、この「水」が異なるからです。
ただ、一つの地域で一つのお米を作っている訳ではありません。山田錦、五百万石、美山錦など複数の品種があるため、考慮するパターンは「地域☓米の品種」となります。
2.1.4 火入れ
日本酒は出荷する前に2回の加熱処理を行います。1回目が貯蔵の前、2回めが瓶詰めの前です。ただ、この加熱処理を行わない日本酒があります。一度も加熱処理をしないものを「生酒」、貯蔵の前だけに加熱処理をするものを「生詰め」、瓶詰めの前だけに加熱処理を「生貯蔵」と呼びます。
2.1.5 蔵元・杜氏
原材料や製造工程など全ての条件が同じであっても、蔵元・杜氏が異なると味が変わります。以前、ある大企業に、製造工程で発生するデータを分析することで、発酵効率を向上させる提案したことがあります。その調査で解ったことなのですが、発酵装置を操作するオペレーターで、生産効率が10%近く変わってくるのです。全ての製造工程に、これでもかと言うほどのセンサー設置している最新の工場ですら、このような状況なのですから、杜氏によって味が異なることは当然だと言えます。
さて、ラベルに書かれているこれらのパラメータをもとに、日本酒を選ぶ訳ですが、パラメータが多すぎるため決められません。従ってお店のPOPやチラシなどに記載された紹介メッセージを元に選ぶことになります。
3. パラメータではなく信念を伝える
3.1 消費者に刺さるメッセージとは
下記のメッセージを見てください。
- 純米吟醸酒「○○○」
- 選びぬかれた山田錦米を使用
- 淡麗辛口でスッキリとした味わい
販促ツールなどでよく見かけるコマーシャルメッセージだと思いませんか。これは先ほどのパラメーターから、いくつかの単語を抜粋して、適当に体裁を整えただけのものです。
消費者はそもそもパラメーターの意味がよく解っていません。意味の解らないパラメーターを並べてみても、なにも伝わりません。しかしながら、多くのコマーシャルメッセージは、このような体裁になっています。
それでは、どのようなメッセージであれば、消費者の心に刺さるものになるのでしょうか。
- 親父と同じ製法で仕込む。やり方は変えない。
- 選びぬかれた山田錦米を使用
- 淡麗辛口でスッキリとした味わい
- 純米吟醸酒「○○○」
今度のメッセージはいかがでしょうか。消費者の心にかなり刺さるものになっているのではないでしょうか。
まず初めに蔵元としての「信念」を伝えて、そのあと商品のパラメーターを伝えています。1行目の信念が消費者に刺されば、あとの文章はどうでも良いのです。
「信念」は蔵元それぞれ異なるでしょうし、そもそも比較対象になりません。信念を比べても優劣は付けようがありませんので、消費者にとって何の意味も持たないのです。
まずは「信念」を伝えて、それに共感する消費者に商品を販売する。販売促進のプロモーションを行う際には、このことをシッカリと意識しなければ、お客様の心に刺さるものにはなりません。
このまず始めに「信念」を伝える手法は、米国ではかなりポピュラーなもので、多くの企業が実践しています。あなたも実践してみてはいかがでしょうか。
4. まとめ
4.1 蔵元としての信念を語れ!
販売促進を考える際に最も大切なことは、お客様の目線で考えるということです。清酒業界に属する人であれば、当たり前に知っている言葉も、一般の消費者にとっては、意味の解らない呪文のようなものであることは少なくありません。商品のスペックを細かく語っても、消費者には刺さらないのです。
ただ消費者に必ず刺さるメッセージがあります。それが蔵元の「信念」です。この信念を販売促進の中心に据えて情報を発信すれば、それは必ず消費者に刺さります。信念に共感する人に、商品を販売すれば、価格競争に陥ることもありません。是非、取り入れてみてください。
(瓶のラベルに、どうやって上手いこと作ってるのかを、書いておきましょう。)