
宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー
SAS Institute, Avanade, Teradataといった外資系アナリティクス企業でビジネス開発分野に携わりながら、海外で実績のある先進的なアナリティクス手法を日本の国内大手企業に導入することに成功。これらの企業はハイテク、通信、家電、金融、流通、小売、飲料、食品、通販業界など多岐にわたり、プロジェクト内容も購買行動分析、顧客接点分析、需要予測、在庫最適化といった幅広いテーマをカバー。2011年には株式会社アルファブランディングを設立し、データ分析とブランド構築の戦略を融合させることで、企業の競争力を強化するサポートを行っている。

今日の論点
クチコミ客を増やす最強のマーケティングツール
企業が持続可能な経営を目指す上で、顧客との信頼関係の構築が重要視されています。そのために重視されているのが、「価値共有マーケティング」と「オーセンティックマーケティング(Authentic Marketing)」の2つの手法です。
価値共有マーケティングは、企業や経営者のビジョンや信念を顧客と共有し、共感を得て支持者を増やし、クチコミによる新規顧客獲得を目指す手法です。一方、オーセンティックマーケティングは、企業が誠実で透明な行動を通じて顧客の信頼を獲得し、その信頼を基にビジネスを展開する手法です。
それぞれの手法が強調する点に違いはありますが、最終的な目標はどちらも消費者に対して自社の価値観を伝えて深い信頼関係を築くことで、その点で変わりはありません。どちらの手法も、現代の消費者が求める「意味」や「価値」を提供することを重視しています。
なお、私たちアルファブランディングでは、価値共有マーケティングを基盤としつつも、オーセンティックマーケティングの一部の手法も採用しています。この手法は企業の規模に関係なく取り組むことができる上に、信頼関係の構築を通じて価格競争を回避することが可能です。
自分の手の内を明かすことにはなりますが、現在の消費者行動に合った、とても役に立つマーケティング手法だと思っていますので、是非参考にしてみてください。
目次
1.1 購買行動の大きな変化
1.2 求められているものは価値観
2. 価値共有マーケティングの概要
2.1 価値共有マーケティングとは?
2.2 オーセンティックマーケティングとは?
2.3 マーケティング手法を併用する利点
3. 価値共有マーケティングの基本戦略
3.1 実践するための具体的なステップ
4. 価値共有マーケティングの疑問点
4.1 機能で差別化を図るのはダメなの?
4.2 どうやって信念を訴求すればいいの?
4.3 私たちの会社の信念でも効果的ですか?
4.4 本当に支持者になってもらえるの?
5. 価値共有マーケティングの活用事例
5.1 具体的な活用事例
6. メリットとデメリット
6.1 メリット
6.2 デメリット
7. 価値共有マーケティングの急所
7.1 成功させるにはココを抑えろ!
8. まとめ
8.1 価値共有マーケティングの今後
1. 消費者の購買行動の変化

1.1 購買行動の大きな変化
近年、消費者の購買行動についての変化が指摘されています。それは、商品やサービスの機能や品質、価格といった具体的な要素だけでなく、それが背景に持つ価値観や社会性を重視する方向に移りつつあるという変化です。
下記は2017年3月に経済産業省が発表した「消費者価値観の変化」に関するアンケート調査(※)の結果です。
※:「消費者理解に基づく消費経済市場の活性化」研究 , 6-7 , (経済産業省 2017)
消費者価値観の変化(共感を求める)
(A)商品の背景やストーリーまで含めて商品の価値
(B) 商品は物そのものが重要で、物がよければ背景やストーリーは気にしない/気にならない
Aに近い | ややAに近い | ややBに近い | Bに近い |
9.8% |
50.8% |
34.6% | 4.8% |
[Aに近い] + [ややAに近い] = 9.8% + 50.8% = 60.6%
(A)自分が買う商品が、より良い社会につながったらうれしい
(B) 安いものを見つけた時はうれしい
Aに近い | ややAに近い | ややBに近い | Bに近い |
11.4% |
43.6% |
33.0% | 12.0% |
[Aに近い] + [ややAに近い] = 11.4% + 43.6% = 55.0%
【アンケートの結果】
商品の背景やストーリーに価値を求める:60.6%
商品の背景や社会性の高さで購買を決定する:55.0%
1.2 求められているものは価値観
60%以上の消費者が、商品そのものの価値ではなく、商品の背景やストーリーに価値を求めると答えており、また55%が商品の背景や社会性の高さで購買を決定すると答えています。
これは、単に商品を手に入れるという行為だけではなく、その商品を通じてどのような価値観やストーリーを共有できるかが、購買行動に大きな影響を与えるようになってきていることを示しています。その商品を生産する企業のビジョンや、その商品が持つ社会的な意義、さらにはその商品を買うことで何を支え、どのような影響を世界に与えるかといった観点が、消費者の選択に大きく関わるようになりました。
このような変化は、消費者がただ自分の欲求を満たすだけでなく、自分の行動が社会や環境に与える影響をより深く考え、それに基づいて行動するようになった結果とも言えます。商品を選ぶことは、自分の価値観を表現する一つの手段となり、その価値観は購買行動を通じて社会に広がっていくのです。
したがって、企業はこれからのマーケティング活動において、商品やサービスの価値だけでなく、それが持つ背景やストーリー、そしてそれが顧客の価値観とどのように合致するかを深く理解し、それを伝えることが重要となるでしょう。
このような観点から、いま注目を集めているマーケティング手法が2つあります。それが「価値共有マーケティング」と「オーセンティックマーケティング(Authentic Marketing)」です。
それぞれの手法が強調する点に違いはありますが、どちらの手法も、現代の消費者が求める「意味」や「価値」を提供することを重視していることに変わりはありません。次節ではこれらのマーケティング手法を詳しく解説するとともに、2つを併用することの利点について説明していきます。
2. 価値共有マーケティング(Authentic Marketing)とは?

2.1 価値共有マーケティングとは何か?
「価値共有マーケティング」は、企業が持つ独自の価値観やビジョンを消費者と共有し、それに基づいて商品やサービスを提供するマーケティング戦略です。その核心には、消費者と深い信頼関係を築くことがあり、その結果としてリピート購入やクチコミによる新規顧客の獲得が期待されます。
「価値共有マーケティング」が重視する要素は以下の通りです。
1. 価値観の明確化と共有:企業がどのような価値観を持ち、それが製品やサービスのどの部分に反映されているのかを消費者に明確に伝えることが重要です。それは企業のミッションやビジョン、持続可能性への取り組み、社会貢献活動など、多岐にわたる可能性があります。
2. 顧客の価値観の理解:マーケティング活動が成功するためには、消費者の価値観を理解し、それに対応することが重要です。顧客が何を大切にし、どのような価値観を共有したいのかを理解することで、より深いつながりを築くことができます。
3. 透明性と誠実さ:価値観を共有するだけでなく、その価値観が実際の行動や決定にどのように反映されているかを明確にすることが重要です。これには透明性と誠実さが求められ、企業は自らの言動が一致していることを示す必要があります。
4. ストーリーテリング:企業の価値観を効果的に伝える方法の一つがストーリーテリングです。エモーショナルなストーリーを通じて価値観を伝えることで、顧客との感情的なつながりを強化し、ブランドへのロイヤルティを促進することができます。
これらの要素を適切に組み合わせることで、企業は価値共有マーケティングを成功させ、顧客との深い信頼関係を築くことができます。
2.2 オーセンティックマーケティングとは何か?
「オーセンティックマーケティング(Authentic Marketing)」は、企業が本質的に持つ価値やアイデンティティを顧客に誠実かつ透明に伝えるマーケティング手法です。企業の本当の姿、つまり"Authentic(本物の)"姿を消費者に示すことで、顧客の信頼とロイヤルティを勝ち得ることを目指しています。2015年に国連において持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)が採択されたあと、特に注目を集めるようになりました。
なお「オーセンティックマーケティング」が重視する要素は以下の通りです。
1. 誠実さと透明性:オーセンティックマーケティングの根底には誠実さと透明性があります。企業は自分たちが何を信じ、何を目指し、そしてその実現のために何をしているのかを明確に伝える必要があります。
2. コンシステンシー(一貫性):ブランドメッセージや価値観、そしてそれらが製品やサービス、企業の行動に一貫して反映されていることが重要です。顧客は一貫したメッセージを通じて企業の信頼性を判断します。
3. 価値へのコミットメント:企業が掲げる価値観や目指す目標に対する真剣な取り組みが求められます。これにはSDGsや持続可能性への取り組みなど、社会的な価値を追求する活動が含まれることが多いです。
4. 顧客との関わり:顧客を単なる製品やサービスの受け手と見なすのではなく、価値観を共有し、共に目標を追求するパートナーとして扱うことが求められます。これには、顧客のフィードバックを真剣に受け入れ、それを製品やサービスの改善に反映させることも含まれます。
これらの要素が適切に組み合わさることで、企業はオーセンティックマーケティングを通じて顧客との深い信頼関係を築くことができます。
2.3 2つのマーケティング手法を併用する利点
「価値共有マーケティング」と「オーセンティックマーケティング」の違いを改めて確認しておきましょう。
「価値共有マーケティング」は、企業が持つビジョンや信念を消費者と共有し、その結果として消費者の購買行動や価値観の変化に対応するために発展した手法であり、具体的なデータ分析から導き出された手法です。これは、消費者が商品そのものだけでなく、商品を提供する企業の価値観や社会貢献性など、より広範な視点から価値を判断する傾向が増している現代の市場環境に対応するためのものです。
一方、「オーセンティックマーケティング」は、企業の誠実さや透明性を通じて消費者の信頼を得ることを重視し、持続可能な開発目標(SDGs)の達成などの社会的な課題への取り組みを通じてその価値を証明する手法として発展してきました。これは、企業が単に商品を売るだけでなく、社会全体の持続可能性への貢献を通じて顧客との信頼関係を深めることを目指しています。
それぞれの手法が強調する点に違いはありますが、最終的な目標はどちらも消費者に対して自社の価値観を伝えて深い信頼関係を築くことで、その点で変わりはありません。どちらの手法も、現代の消費者が求める「意味」や「価値」を提供することを重視しています。
この二つの手法を並行して利用することの利点は、現代の消費者の需要に直接対応することができるという点にあります。今日の顧客は企業の価値観と誠実さに対する関心が高まっており、これらの手法はその需要に直接対応することが可能です。企業が自身の価値観を明確にし、それに従って誠実に行動することで、顧客との深い信頼関係を築くことができます。
なお、私たちアルファブランディングでは、価値共有マーケティングを基盤としつつも、オーセンティックマーケティングの一部の手法も採用しています。私どもでは、この2つのマーケティング手法を分けずに「価値共有マーケティング(Authentic Marketing)」もしくは「価値共有マーケティング」と称して、コンサルティング・サービスを提供しています。
3. 価値共有マーケティングの基本戦略

3.1 実践するための具体的なステップ
以下に、価値共有マーケティングの戦略立案に関する具体的なステップを詳しく説明します。
1. 信念:自社の信念を伝えれば価格競争に陥らない
価値共有マーケティングでは、経営者の「信念」が提供する価値の中核をなします。商品やサービスの機能を中心に価値を訴求すると、模倣する企業が現れます。模倣が始まると商品やサービスの特性が消え、価格でしか差別化できなくなります。機能中心の価値訴求ではなく、顧客に「信念」を伝え、共感する人に商品やサービスを提供することが重要です。
2. ペルソナ:顧客の具体的な人物像を描く
価値共有マーケティングの第一歩は、顧客を知ることです。顧客の特徴を理解しなければ、効果的な提案ができません。まずは顧客データを分析し、どの顧客層に対してプロモーションを行うかを検討します。次に、「ペルソナ」を設定して顧客の具体的な人物像を描き、リアルな提案ができるようになります。
3. 埋没課題:顧客の課題を深堀りする
顧客は何らかの課題を抱え、商品やサービスを購入して解決を図ります。ホット缶コーヒーを購入したのはのどが渇いたからではなく、カイロとして使いたかったのかもしれません。英字新聞を購入したのは海外ニュースを知りたいのではなく、ラッピング用に使いたかったのかもしれません。顧客の課題を深堀りし、本当の課題を明らかにして、顧客が本当に求めているものを提供しなくてはなりません。
4. 価値の総和:商品の総合的価値を最大化する
3,000円のワインと3万円のブランドワイン、10倍美味しい訳ではありません。3万円の腕時計と30万円の高級腕時計、10倍美しい訳ではありません。これらの価格差は、機能やスペックではなく、顧客が感じる情緒的な価値の差によるものです。商品が持つさまざまな価値を集め、その総和を最大化することで、クチコミを促す気持ちを喚起し、クチコミの種を作ります。
5. 顧客接点:顧客の体験が全ての評価を決める
顧客は、企業との接点における具体的な体験に基づいて、商品やサービスの良し悪しを判断します。営業担当者や販売員の対応はもちろん、コールセンターの会話やWebサイトの使い勝手なども影響を与えます。たとえ優れた商品やサービスであっても、顧客が接点で悪い体験をすれば評価が大幅に下がります。
6. 伝達:クロスメディアを利用して情報提供プロセスを改善する
顧客が商品やサービスを認知し、契約に至るプロセスには多くの顧客接点が存在します。顧客はこれらの接点を経由して企業からの情報提供を受け取りますが、顧客の状況によって必要な情報は異なります。必要な情報を適切なタイミングで提供するために、クロスメディアの手法を利用して情報提供プロセスを改善することが重要です。
これらのステップに従い、価値共有マーケティングの戦略立案を行うことで、企業は顧客との信頼関係を築き、長期的な経営安定に繋げることができます。
4. 価値共有マーケティングの疑問点

4.1 【疑問】機能で差別化を図るのはダメなの?
商品やサービスの機能や品質が向上し、顧客から高評価を得たとき、競合企業はその機能を必ず模倣します。競合企業同士が模倣しあう状況が続くことで、最終的にはその機能による差別化が難しくなります。この現象を、ハーバード大学経営大学院教授のマイケル・ポーター氏は「競争の収斂(Competitive Convergence)」と呼んでいます。このような状況に陥ってしまうと、最終的に差別化を図ることができるのは価格ということになり、熾烈な価格競争が始まることになります。
自宅にあるテレビのリモコンをよく見てください。使わないボタンがたくさんついています。顧客が求めない機能を追加し続けたため、使わないボタンだらけになっているのです。もちろん機能を追加すると、それにはコストがかかります。そのコストはあなたが負担しているのです。
あと、競争の収斂が発生する理由はいくつか考えられますが、以下の要因が主な原因です。
1. ベストプラクティスの模倣:成功している企業の戦略やプロセスを模倣することが一般的になると、他社との差別化が難しくなります。競合他社との違いを明確にすることができなければ、消費者が選択の基準を見つけるのが難しくなるため、市場全体が収束していくことがあります。
2. 業界の標準化:業界全体で技術やサービスの標準が整備されることで、競争相手が類似した商品やサービスを提供しやすくなり、競争の収斂が起こることがあります。
3. 顧客の要求の類似性:市場における顧客のニーズや要求が似通っている場合、企業はそれに応えるために似たような商品やサービスを開発・提供することが一般的です。その結果、競争の収斂が生じることがあります。
4.2 【疑問】どうやって信念を訴求すればいいの?
経営コンサルタントのサイモン・シネック氏は、著書「WHYから始めよ!」で、企業の経営理念やビジョンが非常に重要であることを説いています。以下の2つのメッセージを比較してみましょう。
サンプル A:
- これが新作モデルのPCです。
- 美しいデザイン、簡単な操作性、堅牢なセキュリティ。
- 1台、いかがでしょうか。
サンプル B:
- 世界を変えることができると本気で信じている、そういう人たちに私たちはツールを届けたい。
- 美しいデザイン、簡単な操作性、堅牢なセキュリティ。
- これが新作モデルのPCです。
- 1台、いかがでしょうか。
どちらのメッセージがより魅力的に感じましたか?多くの人が「サンプルB」の方が良いと感じるでしょう。大事なのはメッセージの「構造」です。詳しく見ていきましょう。
下記の図は、サイモン・シネック氏が考案したゴールデン・サークルという概念図です。心に響くメッセージを、What、How、Whyの3つの要素に分けて説明しています。
分類 |
詳細 |
What |
自分たちが何(What)を売っているのか Whatは「商品」のことです |
How |
どんな(How)機能や差別化要因があるのか Howは「方法」のことです |
Why |
なぜ(Why)このビジネスを行っているのか Whyは「理由」のことです |
先ほどのサンプルAとサンプルBを、この図表に当てはめて見ましょう。
サンプルA:
分類 |
詳細 |
What |
これが新作モデルのPCです |
How |
美しいデザイン 簡単な操作性 堅牢なセキュリティ |
先ほどのサンプルAは、商品(What)を説明した後に、方法(How)を説明しています。ゴールデン・サークルの「外側から内側」に説明をしており、自分たちの信念(Why)の説明はありません。
サンプルB:
分類 |
詳細 |
WHY |
自分が世界を変えられると、本気で信じている人たちに、私はツールを届けたい。 |
How |
美しいデザイン 簡単な操作性 堅牢なセキュリティ |
What |
これが新作モデルのPCです |
一方、サンプルBは、まず始めに信念(Why)を説明した後に、方法(How)と商品(What)の説明をしています。ゴールデン・サークルの「内側から外側」に説明をしています。
この比較から、メッセージの構造が、人々を惹きつける力を持っていることがわかります。まず始めに信念(Why)を伝えることが、人の心をつかむ重要な要素なのです。
この節の最後に、Apple社の「Think different.」というキャンペーン動画を紹介します。信念を伝えることの重要性を感じ取ってください。
4.3 【疑問】私たちの会社の信念でも効果的ですか?
価値共有マーケティングを実行する際に、「私たちの会社の信念でも効果的ですか?」という疑問がしばしば寄せられます。しかし、その心配は不要です。その理由を3つのポイントで解説します。
1. 情熱が人々を魅了する
ドキュメンタリー番組で感動した経験はありますか?成功者だけでなく、普通の人々(無名の芸人や新米料理人など)のストーリーにも心を打たれることがあるでしょう。これは、彼らの挑戦や努力に対する情熱が、視聴者に共感を呼ぶからです。同様に、企業も自分たちの事業に対する情熱を積極的に伝えることで、人々の応援を得ることができます。
2. 人間のストーリーには引き込まれる力がある
歴史の教科書は事実を中心に書かれているため、感動的とは言えません。しかし、歴史小説では、人々の物語と感情が前面に出されるため、読者を引き込む力があります。これはドキュメンタリー番組と同じです。企業が自分たちの人間的な側面や情熱を強調することで、顧客の関心を引き付けることができます。
3. 大胆なビジョンが応援される
会社の規模に対して、信念やビジョンが大きすぎるのではないかと心配する方もいますが、その心配は不要です。考えてみてください、ゲームで「隣の山のゴブリンを倒して1,000ゴールドを貯める」という目標よりも、「魔王を倒してお姫様を救う」という大胆な目標の方が魅力的ではありませんか?同じように、大胆で意義深いビジョンを持つ企業は、多くの人々から支持されるでしょう。
多くの企業は、顧客のニーズに焦点を当て、絶えず向上し、最高の価値を提供するために努力しています。これらの価値や努力を顧客に伝え、人間性や情熱を強調することで、共感を生み出し、企業の成長を支えることができます。
4.4 【疑問】本当に支持者になってもらえるの?
過去の記憶や慣れ親しんだイメージは、購買行動に大きく影響します。知名度の低い小さな企業の商品やサービスを購入することに、多くの消費者は不安を感じるものです。この不安を解消できなければ、顧客にも支持者にもなりにくいでしょう。
では、どのようにしてこの不安を払拭することができるのでしょうか?

生卵:外国人の多くは「生卵」を食べません。海外では卵の表面に細菌が付着しているため、生で食べると病気になることがあるからです。しかし、一度「すき焼き」を食べてもらうと、途端に生卵を食べることができるようになります。
エビ:「クルマエビ」って美味しいですよね。身は刺身で食べて、頭は塩焼きにしましょう。ところで「ザリガニ」を見てどう思いますか?美味しそうには思えないでしょう。しかしよく見てください。クルマエビとザリガニ、ほとんど同じ形状です。試しにIKEAで食用のザリガニを買って食べれば、あなたもザリガニが美味しそうに見えてくるはずです。
納豆:私は大阪出身で、28歳になるまで納豆を食べたことはありませんでした。そのネバネバと糸を引く様子が苦手で敬遠していたのです。でも、東京に引っ越してから、ある定食屋さんで出された納豆をきっかけに食べ始めました。今では大のお気に入りで、ほぼ毎日食べています。
人の記憶は情報の「刷り込み」によって操作されてしまいます。しかし新しい「体験」によってそれを払拭することができます。顧客に対してあなたのビジョンや信念を伝えるときも、全く同じです。商品やサービスを実際に体験してもらい、それらを実感させることが重要です。そうすることで、彼らの印象を変えることができるのです。
5. 価値共有マーケティングの活用事例

5.1 具体的な活用事例
以下に、それぞれの企業が実施している価値共有マーケティングの具体的な事例について説明します。
1. Patagonia:アウトドア用品メーカーのPatagonia(パタゴニア)は、環境保護活動に力を入れています。企業理念に基づいて、環境に配慮した素材やリサイクル可能な商品を開発し、製造することで、顧客と共感を持ちます。また、一部の売上を環境保護団体に寄付したり、社員がボランティア活動に参加することを奨励するなど、積極的な取り組みを行っています。
2. The Body Shop:化粧品メーカーのThe Body Shop(ザ・ボディショップ)は、動物実験反対や公正な取引を訴えています。そのため、製品は動物実験を行わず、原料調達にも公正取引を心がけています。これにより、顧客が同じ価値観を持つ企業を支援することにより、ブランド力が高まります。
3. Toms:シューズメーカーのToms(トムズ)は、「One for one(ワン・フォー・ワン)」というプログラムを実施しています。これは、購入されるたびに、貧困地域の子どもたちに新しい靴を寄付するというものです。この取り組みにより、顧客は自分の購入が社会貢献活動に繋がるという共感を持ち、ブランドへの支持を高めます。
これらの事例からわかるように、価値共有マーケティングは、企業の信念や価値観を顧客と共有し、その取り組みによってブランド力を強化する効果的な手法です。
6. 価値共有マーケティングのメリットとデメリット

6.1 メリット
価値共有マーケティングは、企業の価値観や理念を顧客と共有し、顧客と共感することを重視するマーケティング手法です。このアプローチには以下のようなメリットがあります。
1. 顧客との信頼関係により長期的な経営が可能:価値共有マーケティングでは、企業の理念や信念を明確に伝えることで、顧客との信頼関係を築くことができます。信頼関係が構築されることで、顧客は企業を長期的に支持し続ける傾向があります。
2. 顧客ロイヤルティの向上によるリピート率の改善:顧客が企業の価値観に共感し、その企業の商品やサービスに満足すれば、顧客のロイヤルティ(Loyalty)が高まります。これにより、リピート購入や継続的なサービス利用が促されることで、リピート率が改善します。
3. クチコミによる新規顧客獲得:価値共有マーケティングを通じて得られた顧客の満足感は、口コミやSNSなどで広がることが期待できます。これにより、新規顧客が興味を持ち、企業の商品やサービスを試すきっかけになります。
4. 社会的評価の向上にともなうブランドイメージの強化:価値共有マーケティングでは、企業が社会貢献活動や環境保護、公正取引などの取り組みを行うことが一般的です。これにより、企業の社会的評価が向上し、ブランドイメージが強化されることが期待できます。
これらのメリットにより、価値共有マーケティングは、顧客満足度の向上、顧客基盤の拡大、企業の持続的な成長に寄与します。
6.2 デメリット
価値共有マーケティングは、顧客との共感を重視するマーケティング手法であり、多くのメリットがある一方で、以下のようなデメリットも存在します。
1. 効果が出るまでに時間がかかる:価値共有マーケティングでは、企業の理念や価値観を伝えることが重要ですが、これには時間がかかることがあります。特に、新しい価値観や取り組みを導入した場合、顧客がそれに気づくまでに時間がかかることがあります。
2. ターゲットの絞り込みが必要:価値共有マーケティングでは、特定の価値観に基づいて顧客と共感を持つことを目指しますが、その価値観がすべての顧客に共感されるわけではありません。そのため、ターゲットを絞り込む必要があり、広範囲の顧客を獲得することが難しい場合があります。
3. 取り組みが表面的であると信頼を失う:価値共有マーケティングにおいて、企業の取り組みは本質的であり、実行力があることが求められます。もし、取り組みが表面的であると感じられる場合、顧客はむしろ信頼を失うことがあります。そのため、企業は価値観や理念に基づく具体的な行動を継続的に示すことが重要です。
これらのデメリットに対処するためには、企業は継続的な努力が必要です。価値観の浸透を促進し、ターゲット市場を明確にすることで、デメリットを最小限に抑えることができます。また、真摯に取り組む姿勢を維持し、顧客との信頼関係を大切にすることも重要です。
7. 価値共有マーケティングの急所

7.1 成功させるにはココを抑えろ!
価値共有マーケティングにおいて最重要ポイントは、「一貫性」です。企業の価値観や理念を伝えるだけでなく、それに基づく具体的な取り組みや行動を継続的に示すことで、顧客との信頼関係が築かれます。
この一貫性は、ブランディング、プロダクト開発、マーケティングコミュニケーション、顧客サービスなど、企業活動のあらゆる側面において重要です。顧客が企業の価値観や理念に共感し、信頼を寄せるためには、言動一致の原則を徹底的に遵守し、企業のアイデンティティと行動が一致することが不可欠です。
一貫性を保つためには、下記の4つのポイントに留意しましょう。
1. 企業理念や価値観の明確化:企業理念や価値観は、企業が追求する目的や、どのような姿勢で事業活動を行うかを示します。これらを明確にすることで、従業員が共通の目標に向かって働く意欲を高めるとともに、顧客に対しても企業の理念が理解されやすくなります。明確化の方法として、経営陣が率先して理念を策定し、全社員に周知させることが重要です。
2. 製品やサービスの一貫性:企業が提供する製品やサービスは、企業理念や価値観を具現化したものであるべきです。そのため、全ての製品やサービスが、企業の理念に基づいて開発・提供されることが重要です。これにより、顧客は企業の理念や価値観を製品やサービスを通じて感じることができます。
3. 外部コミュニケーションの一貫性:企業が外部に発信する情報(広告、プレスリリース、SNSなど)も、企業理念や価値観に沿った内容であるべきです。外部コミュニケーションに一貫性を持たせることで、顧客は企業の信頼性や誠実さを感じることができます。広告やSNSでの発信は、企業の価値観を反映した言語やイメージを使用することが重要です。
4. 内部コミュニケーションの強化:企業の理念や価値観は、社内で共有され、理解されることが重要です。従業員間のコミュニケーションを強化することで、理念や価値観が浸透し、従業員の行動や意思決定に反映されるようになります。社内コミュニケーションを強化する方法として、定期的な全社員ミーティングやチームミーティングの実施、社内報や掲示板の活用などがあります。
企業が一貫性を保ち、価値観や理念に基づく行動を続けることで、顧客は企業の真摯な姿勢を感じ取り、信頼を深めることができます。その結果、長期的な顧客ロイヤリティやリピート購入が促され、企業の持続的な成長が可能となります。
8. まとめ

8.1 価値共有マーケティングの今後の可能性
今後、企業が持続可能な経営を目指す上で、価値共有マーケティングやオーセンティックマーケティングは、さらに重要性を増していくでしょう。環境問題や社会問題への関心が高まる中、企業がこれらの課題に取り組む姿勢を顧客に伝え、共感を得ることが求められます。また、テクノロジーの進化やSNSの普及により、企業と顧客のコミュニケーションがさらに進化し、これらのマーケティングの取り組みが多様化することが予想されます。
価値共有マーケティングやオーセンティックマーケティングは、顧客との信頼関係を築くことを目的としたマーケティング手法であり、企業がクチコミで新規顧客を増やし、長期的な経営を安定させるために重要です。効果的な価値共有マーケティングを実践するためには、企業の価値観や理念を一貫して伝え、実際の取り組みや行動を通じて示すことが重要です。また、今後の価値共有マーケティングの可能性は、環境や社会問題への取り組みや、テクノロジーの進化によるコミュニケーションの進化が期待されます。