結婚式の印象は招待状で決まる

結婚式で祝福を受けるカップル

宮崎 祥一 / ブランドプロデューサー

SAS Institute、Teradata、Honeywellなどの国際的企業において、アナリティクスサービスのビジネス開発を担当。海外で実績を積んだ最先端のアナリティクス手法を、日本の主要企業に導入。ハイテク、金融、医薬、通信、家電、流通、小売、飲料、食品、通販業界など、幅広い分野の企業に対する支援を行う。アナリティクスの適用範囲は、マーケティング分析、リスク管理、品質管理、需要予測、在庫最適化など多岐にわたる。データ分析とブランド構築の戦略を融合させる新しいアプローチを提供するため、株式会社アルファブランディングを創業。価格競争に陥らない強固なブランド構築をサポートしている。

宮崎祥一のプロフィール写真


今日の論点


顧客接点管理を結婚式に適用してみると

先日、結婚式の招待状をもらったのですが、パスポート風のっデザインでした。最近はオシャレですよね。私が自分の結婚式で送った招待状は、確か、えっと・・・どんなんやったかなぁ・・・思い出せませんが。

 

ただ、何ごとも第一印象は大切です。結婚式に招待されるゲスト側からすると、第一印象はこの招待状ですよね。

 

マーケティング的には「顧客接点」という表現を使ったりしますが、今回はこの顧客接点について見ていくことで、印象に残る結婚式の特徴を考えたいと思います。

 

既にお気づきかもしれませんが、今回の投稿は、結婚を予定している人にしか役に立ちません。結婚の予定のない方や既婚の方につきましては、またのご来店をお待ちしております。さようなら。



目次


1. 主催者が持つ結婚式のイメージ


夕焼けで見つめあう花嫁と花婿

1.1 結婚式に対するイメージギャップ

「結婚式」という言葉を聞いて、思い浮かべるイメージは?

  • 華やか:60%
  • 憧れ:17%
  • 楽しい:12%
  • 楽しくない:11%

現実的な「結婚式」のイメージは?

  • お金がかかる:59%
  • めんどう:17%
  • 疲れる:12%
  • 憧れ:6%
  • 楽しい:6%

これは2014年に20代・30代の女性315名を対象とした、意識調査(※)の結果です。

 

結婚式にに対して「華やか」「憧れ」「楽しい」など、89%の女性がポジティブなイメージを持つ一方で、いざ自分が結婚するとなると「お金がかかる」「面倒」「疲れる」など、88%の女性がネガティブなイメージを持っています。

 

ゲストのポジティブイメージと、主催者のネガティブイメージのギャップを、どのように埋めていくのかが、重要なポイントのひとつになってきます。

 

※ インターファーム社が実施した「”ウエディング”に関する意識調査アンケート」より引用


1.2 ネガティブなイメージを持つ理由

そもそも主催者は、なぜネガティブなイメージを持つのでしょうか。結婚式を挙げるにあたって、どの程度のタスクがあるのか簡単に確認してみましょう。

 

■ 結婚式の準備

結納や食事会、結婚式場の選定と契約、二次会の会場の決定、職場や友人への報告、ゲストのリスト作成、ドレスの選定、婚約指輪の購入、結婚指輪の購入、披露宴のプランニング、飲食メニューの選定、招待状の作成、招待状の送付、ビデオ撮影の依頼、ブーケの選定、会場装花の選定、ヘアメイクの予約、お車代やお宿代の準備、引出物の選定、新婚旅行の予約

 

■ ゲストへの依頼

出欠の確認、結婚式の受付、披露宴の挨拶、二次会の幹事、二次会のプランニング

 

■ 新居の確保

住居の選定と契約、家具の購入、電化製品の購入、生活用品の購入、引越し作業の依頼

 

■ 各種届出

住民票の異動、婚姻届の提出、住所変更の申請(カード・保険等)

 

「えっ、こんなにあるの!」と思われるのではないでしょうか。これだけのタスクが待ち構えているのであれば、ネガティブなイメージを持って当然です。

 

またタスクの多さにも驚かされますが、一つひとつのタスクにかかる工数も相当なものです。

 

最初の「結婚式の準備」に「結納や食事会」とサラッと書いていますが、ご両親のスケジュールの確認、お店の選定と予約、料理の選定、移動手段の確保、手土産の準備など、さらに細かなタスクに分けると、かなり大変な作業であることがわかります。

 

これらのタスクを消化しながら、ゲストの印象に残る結婚式にするためには、注力するべきポイントを絞り込まなくてはなりません。

 

では一体どのように絞り込むべきなのか、航空会社が行うサービスプランニングを例に考えてみましょう。



2. 顧客接点管理とはなにか?


旅客機の正面

2.1 航空会社のサービスプランニング

航空会社のサービスと言うと、キャビンアテンダントの機内サービスをイメージされる方が多いと思います。搭乗時の笑顔、手荷物収納のお手伝い、ブランケットや新聞の配布、飲み物や食事のサーブなど、目的に到着するまで快適に過ごすための一連のサービスです。

 

しかし、航空会社はキャビンアテンダントが提供するこれらのサービスを、航空会社として提供しているサービスの、ほんの一部分でしかない考えています。

 

航空会社の考えるサービスとは、予約オペレーターの対応、Webサイトのユーザビリティ、手荷物カウンターのオペレーターなど、多岐に渡っています。もちろんキャビンアテンダントのサービスもその中のひとつです。

 

この考え方の先駆けとなったのは、スカンジナビア航空の顧客接点管理です。1980年、スカンジナビア航空は年間3,000万ドルの赤字を計上していました。この状況を立て直すために、スウェーデンの航空会社であるリンネフリュ社から、若い30代のヤン・カールソン氏を社長として迎え入れます。着任の翌年、スカンジナビア航空は黒字に転換し、その後、飛躍的に業績を伸ばしてきました。

 

カールソン氏はスカンジナビア航空が提供している、全てのサービス・顧客接点を調査しました。すると乗客は「平均5人の従業員」から、それぞれ「平均15秒のサービス」を受けていることがわかりました。「5人×15秒=90秒」たった90秒で、乗客は航空会社の良し悪しを判断していたのです。この後、彼はこの90秒の質を向上させることで、飛躍的に業績を改善することに成功します。

 

現在では、この顧客接点管理はWebサイトやポイントカード等にまで拡張されて、各航空会社がサービス向上について、しのぎを削っているのです。

 

では、全ての顧客接点で最高のサービスを提供するという手法を、結婚式に当てはめてみましょう。

 



3. 結婚式はトータルコーディネートが大切


3.1 結婚式は招待状から始まっている

それではまず、視点をサービス提供者から顧客へ移して考えてみましょう。結婚式の場合でいうと、主催者からゲストへ視点を移して、もう一度タスクを検討することになります。

 

<ゲストから見た結婚式>

ゲストから見た結婚式を考える上で、便宜的に5つのフェーズに分けて考えたいと思います。

  1. 招待状
  2. 挙式
  3. 披露宴
  4. 二次会
  5. 引出物

それぞれのフェーズで、どのような顧客接点があるのかを見ていきましょう。 

3.1.1 招待状

結婚式の最初の顧客接点が招待状です。よく第一印象が大切と言われますが結婚式も同じです。招待状の印象が良いと、その後に触れる結婚式に関する情報が、全て良い方向に過剰修正して認知されます。逆に印象が悪いと必要以上に悪い方向に修正されてしまいます。これを認知バイアスと呼びます。

 

この招待状の印象を高めることができれば、結婚式全体の印象を高めることができるのです。何かプレゼントを受け取ったときに、ビニール袋に入っていた場合と箱に入っていた場合では、受ける印象が異なります。箱の方が中身が高価であると、認知バイアスが働くのです。結婚式の招待状を選ぶ際には、デザイン性の高い良い素材のものを選ぶことが大切です。

 

3.1.2 挙式

挙式場に到着して、ゲストが最初に接するのは「受付」です。受付は新郎新婦の友人にお願いすることになると思いますが、挙式のスタートを切る大切な顧客接点です。信頼できる人物にお願いすることが大切です。

 

次にゲストが接するのは「挙式場」です。挙式場のスタッフ、会場のインテリアや調度品、窓から見える景色などの要素によって、印象が大きく左右されます。特に景色については、雨天の場合も想定しておく必要があります。

3.1.3 披露宴

ケーキ入刀、スピーチ、思い出のビデオなど、さまざまな顧客接点があります。結婚式場にはブライダル・コーディネーターいますので、企画や演出などについて心配することはないでしょう。

 

ただ、どの企画を採用するのか判断する際には、個々の企画のターゲットを明確に想定しておくことが大切です。両親に向けたものなのか、学生時代の友人に向けたものなのか、会社の同僚に向けたものなのか。ターゲットが明確になっていないと、誰の印象にも残らない、残念な企画になってしまいます。

3.1.4 二次会

フォーマルな挙式や披露宴と違って、二次会はゲストがリラックスできる顧客接点です。少しハメを外したいと思っているゲストは多いと思いますので、少しぐらい騒いでも問題のないお店を選択しましょう。また、学生時代の人気者に幹事をお願いすれば、盛り上がること間違いありません。

 

ただ二次会の内容については、幹事に任せるのではなく、あくまで主催者がプランニングしなければなりません。幹事に丸投げしてしまうと、費用のコントロールなど、幹事の負担も大きくなってしまいます。ゲストに楽しんでもらえる企画を、新郎新婦で考えましょう。

3.1.5 引出物

顧客接点の最後のフェーズが「引出物」です。最近はカタログギフトを選択するケースが多くなっていますが、ゲストが商品を自由に選べる半面、少し経つと何を選んだのかすら覚えておらず、印象の薄いものになってしまいがちです。

 

個人的な経験でいうと、オシャレなスパイスボトル&ホルダーのセットをもらいましたが、キッチンに統一感が出て、とても嬉しかった記憶があります。自分では買わないけど、もらったら嬉しいと思う商品を、自分の足を使って探し回ることが大切です。

 

 

今回はスカンジナビア航空を例に、顧客接点の大切さを見てきました。これらの手法を参考に、印象に残る結婚式を企画してください。



4. まとめ


ガラスの地球儀を持つ結婚式のカップル

4.1 ゲスト目線でトータルコーディネート

結婚式の準備は思った以上に工数がかかります。そのためにブライダルコーディネーターの言いなりになってしまいがちなのですが、せっかくの結婚式です、自分たちのオリジナリティを出したいものです。

 

それには結婚式を主催するにあたって、ゲスト目線で企画を考えることが大切です。ゲストが結婚式に接するポイントを洗い出し、その全てのポイントで及第点以上を取ることができれば、確実に素晴らしい結婚式になります。準備は大変ですが結婚式の感動を考えると、取るに足りませんので、この記事を参考に頑張ってください!

 

(自分の結婚式の披露宴でのことですが、座っている足元に小さなポリバケツが置いてありました。掃除のおばちゃん片付けてないわ・・・と思っていたのですが、グラスに注がれたビールをそこに捨てるためだったのですね。私の場合、全部飲んでたので最後はフラフラでした。)